シロフクロタケを分解する

2020.05.30 大阪

これを撮影したのは5月30日、場所は大阪の某所。
そしてこれをSNSなどに名前を付けないでアップするとなかなか面白い反応が返ってくる。自分でも「人が悪いなぁ、、」と思いながら、その反応を楽しむのである(笑)

その多くが

「わっ、ドクツルタケー!!」

というコメント。
いやぁ、、なんとも嬉しい反応だ(やっぱオレ意地悪だわ? w)


まず最初に言っておかなかればならないのが、このキノコはドクツルタケではありませぬ。

いくつかこの写真だけで判断できる材料があります。

  • 季節が違う
  • 柄にダンダラが無い
  • ツバが無い

少なくともこの写真だけでも「ドクツルタケではない」という見分けが出来ると思います。

しかし、、「じゃあこれ食べてみる?」と聞かれて「オフコース!」と答えらる人は何人いるだろうか?(ちなみにシロフクロタケは可食となっています)

毎年これ(または近縁種)を食べているらじかーる先生も、いつも同じ様な季節、同じところ(もしくはその近辺)、同じ様な環境で発生しているので安心して食べられるのであって、これがドクツルタケやシロタマゴテングタケと並んで発生していたら、このシロフクロタケだけをチョイスして食べることなんぞ、下手なロシアンルーレットよりも恐ろしい話だもんあ(笑)

「それでもオレは食っちゃうよ」

と言い出したら「あぁ、あの人、別の世界に行ってしまったのね」と思ったほうがいい (*^^*)

シロフクロタケを分解する

「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)などで調べてみると、このシロフクロタケにはこんな一文が添えられている。

「日本ではオオフクロタケの一変異型として、取り扱われているが、分類学的取り扱いに関しては今後再検討が必要である」

現在学名は同じなので、このシロフクロタケとオオフクロタケとは学術的には同種、ということになる。
なので、「原色日本新菌類図鑑」や「日本のきのこ」にはシロフクロタケとして掲載されているが、「北陸のきのこ図鑑」、「青森県産きのこ図鑑」には掲載されていないのは、そのためなのでしょう。

で、「日本のきのこ」ではそういうことで説明が省かれている (涙)ので、「原色日本新菌類図鑑」から特徴をピックアップしてみます。

シロフクロタケ
Volvariella speciosa (現在は Volvopluteus gloiocephalus

大分類 小分類 特徴
5~15cm
  最初卵形~球形、のちまんじゅう形からやや中高の平らに開く
  表面 粘性があり平滑
  白~帯灰色、中央部は灰褐色
白色
ひだ 柄に 離生
  疎密
  白色のち 肉色となり
  縁部は多少波形
大きさ 9~20cm×0.8~2cm
  表面 やや繊維状
  白~クリーム色、のち基部から上方へ多少黄褐色をおびる
  中実
つぼ 白~淡灰色
  膜質
胞子 卵形~楕円形
  大きさ 11~16(18) × 7~9.5(10)m
側シスチジア 紡錘形~便腹形、しばしば項部に突起をそなえ
  大きさ 40~105×18.5~35m
縁シスチジア 紡錘形~便腹形
  大きさ 33~69×14 ~27.5m
生態 季節 初夏から初冬にいたるまで
  発生場所 庭園・畑地・原野・森林などの肥沃な土上
  発生状況 単生または群生する
  分布 ほとんど世界的

2019.05-11 大阪

上の表を見てもらえば分かりますが、ほとんどが「赤字」になっていますね。
なので、図鑑で見た限りこのきのこは「シロフクロタケ」で良いかと思います。

で、まずこの写真から確認できることは傘の形が少し中央が高くなっていて、図鑑的には「中高の丸山型」となっております。これは乾燥しているので丸山型でありますが、平らになる予定です(笑)

傘の色はややクリーム色をしている様に見えますが、実際にはもっと白いです。あと、傘の中央は少し色が変わっていてやや灰色をしていますね。

粘性は確認したことはありません(ほんとにあるんだろうか???)
「日本のきのこ」を見るかぎりそんなにあるようには見えませんが、変異元のオオフクロタケはめっちゃ粘性があるように見えますね(笑)

2019.05-11 大阪

傘の裏を見るとヒダがピンク色をしているのが良くわかります。
図鑑の説明では「白色のち肉色」となっていますが、もっとフレッシュな頃は綺麗なピンク色なんですけどね、、、ちょっと撮り菌的には残念な感じ。

そしてヒダにはもっといろいろ特徴があり、それが確認できます。

1つは柄とヒダが離生しているといこと。
2つめはヒダ同士が密である、ということ
3つめはヒダの縁が波打っている、ということ。

なかなか、シロフクロタケの特徴が確認しやすい傘の裏ですね (*^^*)

2020.05.30 大阪

柄に注目してください!
縦にほんのり線が入っているように見えませんか?
これは図鑑では「繊維状」と表現していますね。この状態では色に関しては完全な「白」ですが、上の2枚の写真を見る限り色はクリーム色。
つまり、若い頃は真っ白だったのに、年齢を経てちょっと薄暗いクリーム色になっていくのですな(いや、人間のことではありません w)。

そしてこのキノコの最大の特徴が「ツボを備えている」ということ。
これがなければドクルツタケやシロタマゴテングタケとは間違えない可能性がありますが、このツボあるゆえにドクツルタケを知っている人は戦慄するのですな。

もう、恐怖のツボ、と言っていいかもしれません(笑)

2020.05.30 大阪

そしてカッティング。

柄はしっかりと中実で、ヒダは少しピンクがかってはおりますが、「白」と表現しても間違いではありません。しかしこれをパッと見る限り「テング科の何かだろうか?」と思うのも無理はありません。
しかもキノコ自身の質感なども、テング科が持っている質感とほぼ同じなのですよね。

では顕微鏡写真を載せます

シロフクロタケの胞子

胞子の形は卵形~楕円形
表面の記述はありませんが、表面につぶつぶの模様があるように見えます。

そして図鑑にはありませんが、くちばし状の突起も確認できます。

シロフクロタケの担子器

棍棒形の細胞が沢山見れますが、その中に角が2本出ている細胞が確認できるでしょうか?
それが担子器ですね。
老眼だったらきっとわからないかもしれません(笑)

シロフクロタケのシスチジア

棍棒形の細胞の中に一つだけ先っちょが尖ったものが確認できます。
それがシスチジアだと思われます。シロフクロタケは縁シスチジアも側シスチジアも形は同じなので、どちらとも言えませんが。

しかし側シスチジアに関しては「しばしば項部に突起をそなえ」という表現がありますので、これはもしかして側シスチジアかもしれません。

シロフクロタケの発生場所は?

2020.05.30 大阪

シロフクロタケというキノコ、ネットを検索してもあまり発生件数は多くないようです。
同一種と言われているオオフクロタケはもっと少なそうですが(笑)

さて、そんなシロフクロタケはどの様な場所から発生するのでしょうか?

図鑑の記述を追ってみると「庭園・畑地・原野・森林などの肥沃な土上」とあります。

シロフクロタケは驚いたことに「ウラベニガサ科」(ビックリしました?)ですから腐生菌です。普通ウラベニガサの仲間たちは倒木などのかなり古い材上などから発生しますが、このフクロタケは僕が調べた限り材上から出ているのを見たことがありませんし、図鑑にも「土上」とあります。

ってことはですよ、、、土の中にある木材を分解して食料としている、と言い換えて良いかもしれません。

僕が見つけたのもウッドチップが堆積した土の上ですし、ネットを検索してみると「ウッドチップ」で発生しているところが多いのです。
ウッドチップとは発生した倒木や伐採木を細かく粉砕したものです。それを置いておくと、菌類や細菌がそれを食べてより細かく分解されて土に返っていくのですね。

シロフクロタケもそういう菌類のなかの一つ、であることは間違いないでしょう。

またシロフクロタケと同じ様な時期に同じ仲間も出てきている様です、、、
例えばフクロタケ。

らじかーる先生のTweetを見る限りバーク堆肥の様なものが堆積した場所に出ているのがわかります。

もう一つフクロタケ。
SHINOさんのお母様が送ってきた写真らしいですが、畑の脇にある堆肥から発生しているとのこと。

また、このツイートから水凪唯維さんに教えてもらったのが

・草原などの枯れ草が堆積した場所
・ゴルフ場などで刈られた芝が積み重ねられた山の上

なのでも発生すること。
そして栽培方法としては

・フィリピンではバナナの茎を積み重ねて栽培
・中国では竹の茎を使って栽培

しているのだそうな。
もしかして我が家のウッドチップの庭でも栽培できる可能性はあるなぁ、、、、
と密かに思っとります (*^^*)

このキノコは「ヒメシロフクロタケ」なのか?

2020.05.30 大阪

このキノコをFacebookの美菌倶楽部に投稿するとN村さんから「ものいい」がついた。
曰く

「糟谷さんが新産種で発表した日本新産種 Volvopluteus earlei(和名ヒメシロフクロタケ)に似てる! 」

むむむっ、と思い検索してみるとこのページが出てきた
「日本新産種 Volvopluteus earlei (ハラタケ目,ウラベニガサ科)」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/59/2/59_jjom.H30-06/_article/-char/ja/?fbclid=IwAR1lnty–oy-gPitYo_FNvGzYc_tIMIXnlTJWQcQnjPw_258z_xmRa0H12U

この中のPDFを読んで分類の混乱が見えてきた。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/59/2/59_jjom.H30-06/_pdf/-char/ja

まずオオフクロタケ属 (Volvopluteus) について、、、

  1. フクロタケ属(Volvariella)が分割されオオフクロタケ属(Volvopluteus)が出来た
  2. Volvopluteus基準種はオオフクロタケ(Volvopluteus gloiocephalus)である
  3. しかし日本における Volvopluteus は Volvopluteus asiaticus のみである
  4. 従来日本でVolvariella gloiocephalaと呼ばれてきた菌は、Volvopluteus asiaticusであるとされた
  5. しかし,Volvopluteus asiaticusは北海道産標本に基づき新種記載された種で,本州以南で記録されているオオフクロタケがV. asiaticusなのか,それとも真のVolvopluteus gloiocephalusであるのかは明らかではない。
  6. 日本産シロフクロタケも分類学的所属について再検討が必要
  7. 日本産オオフクロタケ属菌の分類は混乱しており,今後分類学的研究を進めていくべきである

うーむ、かなりややこしい。

つまりはオオフクロタケ属,というものがつくられたのだが,現在日本でオオフクロタケと呼ばれている種が本当にオオフクロタケ属に属するきのこなのかは明確になっていない。よってシロフクロタケも現在は正確な所属は不明である、、と。

そんなところに新潟県と千葉県で発見されたオオフクロタケ属のものを調べたところ海外で既に記載されているVolvopluteus earlei と同じであることがわかった。
という経緯があり、僕の見つけたシロフクロタケが糟谷先生らが突き止めた Volvopluteus earlei と同じものではないか?ということをN村さんが僕に指摘した、ということなのです。

では、僕が見つけたシロフクロタケは Volvopluteus earlei なのだろうか?

上記PDFから特徴を表にさせてもらいました。

ヒメシロフクロタケ(Volvopluteus earlei )

大分類 小分類 特徴
かさ 20-30 mm
  幼時は半球形あるいは円錐形,成熟するにつれて釣鐘形から中高扁平となる
  表面 無毛,粘性がある
  類白色で中央部は老成するとわずかに帯褐淡紅色を帯びる
  条線を有する
ひだ 付き方 離生
  粗密
  便腹形
  幼時は白色で,成熟するにつれて淡ピンク色~ピンク色
  微細な綿毛状を呈する
大きさ 40-50×2-8 mm
  付き方 中心生
  円柱形で基部はやや太くなり,中実
  表面 無毛あるいは微粉状
  白色~類白色
つぼ 袋状、膜質
  表面 無毛
  白色
  高さ 10 mm に達する
白色~類白色
  温和、特別な香りはない
胞子 胞子紋 ピンク色
  大きさ 長径 10-15 µm (平均 12.5±0.7µm),短径 6-9 µm (平均 7 ± 0.5 µm),Q = 1.3-1.7(平均値 1.58)
  楕円形~広楕円形
  表面 平滑,厚壁
担子器 大きさ 20-40×6-15 µm
  形態 4 胞子性,時に 2 胞子性
  広こん棒形,薄壁,基部のクランプ結合を欠く
縁シスチジア 大きさ 高さ25-55 µm,膨大部の径 10-30 µm
  こん棒形,紡錘形,フラスコ形など多様な形態で,しばしば頂部に高さ 5-10 µm の嘴状突起を持つ

特に肉眼的に判断できる部分で、僕が見つけたシロフクロタケとの違いに赤字にしてみました。

一言でいうと僕が見つけたものは「ヒメシロフクロタケ」に比べて断然大きいです。
この大きさの違いは個体差レベルではなく、間違いなく種レベルの大きさの違いです。
ですので、ヒメシロフクロタケではないと思われます。


そして、N村さんが僕が撮った写真を糟谷先生に送ってくれまして、糟谷先生から回答をもらいました。
以下その回答をまとめてみます。

現状で,日本産シロフクロタケ(=オオフクロタケ)の可能性が高いとされている,
Volvopluteus asiaticusの縁シスチジアの記載(Justo et al., 2011)
「mostly lageniform, but also clavate, ovoid or narrowly utriform, some
with an apical papilla or excrescence up to 10 μm long」
と比較すると,上記の構造はV. asiaticusの縁シスチジアに類似するように見えます。

オオフクロタケ属が混乱しているのでわかりにくいが、現在シロフクロタケは分類上 Volvopluteus asiaticus に近い、という想定で言うなら V. asiaticus の縁シスチジアとよく似ているということである。また Volvopluteus earlei  に関して言えば、縁シスチジアの先端にしばしばくちばし状突起があるとのこと。僕の写真にはそれがありません。

同様に,日本産Volvopluteus asiaticusの側シスチジアの記載(Justo et al., 2011)
「fusiform, narrowly utriform, commonly rostrate, provided with an
apical excrescence up to 10 μm long」と比較すると,上記の構造はV. asiaticusの側シスチジアに類似するように見えます。
ただ,V. asiaticusにおいて縁シスチジアと側シスチジアの形態は類似しており,明確に識別するのは難しいように思います。
かさが開いたときの直径の違い(おおむね5cm以下かそれ以上か)というのが,
Volvopluteus earleiとV. asiaticus(およびV. gloiocephalus)を識別するのに重要な形質のようです。
と,ここまで書いたところ,以前に千葉市加曽利町で採集したシロフクロタケのDNA塩基配列を得ていたのを思い出しました。
それで,少し調べてみましたら,核rRNA遺伝子のITSとLSUの配列ともに,千葉市のシロフクロタケは, Justo et al. (2011) の系統解析で用いられた,スペインなどヨーロッパのVolvopluteus gloiocephalusと99-100%一致しました。
一方,千葉市の標本と,北海道産のV. asiaticusのタイプ標本のITSの塩基配列は83.61%しか一致していないので,両者は別種だと思います。
Justo et al. (2011)のV. asiaticusの記載では,北海道の標本しか検討されていないので,
本州のものもV. asiaticusとみなしてよいのか不明だったのですが,どうも日本には本物のV. gloiocephalusとV. asiaticusの2種が両方存在しているようです。

ますます混迷を極めてきました(笑)

ただし、僕が採取したシロフクロタケはヒメシロフクロタケではない、ということは分かりました。

では、糟谷先生の整理された説明を引用させてもらいます。

(1) そもそも「オオフクロタケ」と「シロフクロタケ」は同種である(子実体の色の違いは種内の変異)。

(2) 日本では,従来「オオフクロタケ」にVolvopluteus gloiocephalus (=Volvariella
gloiocephala)の学名が充てられてきた。

(3) シロフクロタケの学名も(1)よりVolvopluteus gloiocephalusを用いるべきである。

(4) ところが,Justo et al. (2011) は,北海道産Volvopluteus gloiocephalus の標本を再検討したところ, ヨーロッパのVolvopluteus gloiocephalus とは別種であると判断し,新種としてVolvopluteus asiaticusを記載した。増補改訂新版日本のきのこP.175のオオフクロタケの項目を見ると,「日本産のものはV. asiaticusの可能性が高く…」とある。

(5) しかし,本州など日本の他地域のものがVolvopluteus asiaticusであるのかは不明のままであり,日本でこれまでVolvopluteus gloiocephalus (=Volvariella gloiocephala)とみなされている菌を,すべてV. asiaticusと判断してよいのかはわからなかった。
一方,千葉の「シロフクロタケ」はヨーロッパのVolvopluteus gloiocephalusとDNAレベルでは同種と判断された。

(6) 以上より,日本には,Volvopluteus gloiocephalusとV. asiaticusの少なくとも2種が分布することがわかった。

となります。大阪のものも,V. asiaticusではなく,V. gloiocephalusでよいのかもしれません。
ちょっと本筋と離れてややこしくなりましたが,ご検討ください。

僕なりに整理しますと現在日本に存在するオオフクロタケ属には3種類あります。

  1. 北海道産のVolvopluteus asiaticus(和名なし,これまで「オオフクロタケ」とみなされていたきのこ)
  2. 千葉で採取され,調べられたシロフクロタケ(=オオフクロタケ,Volvopluteus gloiocephalus)
  3. 新潟と千葉で採取されたヒメシロフクロタケ(Volvopluteus earlei)

この内、僕が採取したシロフクロタケは2のものかもしれない、、ということです。

Facebook コメント

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA