七色の顔を持つきのこ(ナナイロヌメリタケ)
ナナイロヌメリタケ、漢字で書くと「七色滑茸」、、、予想通りやわ (*^^*)
しかし、学名 Gliophorus laetus(Hygrocybe laeta )の 「laeta」 の意味はわかるかな・・・?
答えは
「喜びの」
だそうな。
「え?七色」じゃないんかいな!と思いましたよね?少なくとも僕は思いました。
学名っていうてもそんなに難しいものではなく、結構「見た目」重視でついてるのが多いのね。
例えばワカクサタケは「Gliophorus psittacina」なんだけど、 psittacina の意味は「オウムの」という意味だそうな。
つまりはオウムの色の事なんだな。
ってことは、のナナイロヌメリタケは「喜びの色」ってことになるのか?
ふむふむ、直感的に理解は出来へんけど、それはそれでえぇな (*^^*)
そこでだ、改めて自分に問うてみた。
ナナイロヌメリタケは七色に変化するのだろうか?
調べてみないといけませんよね?
和名をつけた方の「何故」と喜びの色と名付けた方の「何故」を理解するにはそれしか無いように思うのです。
つまりこのキノコが七色に変化するということが分かって初めて喜びが得られるのだ、と。
ナナイロヌメリタケの特徴を調べてみる
ナナイロヌメリタケ( Gliophorus laetus )大菌輪では Hygrocybe laetus
ワカクサタケ属(Gliophorus)、アカヤマタケ属(Hygrocybe)
大分類 | 項目 | 説明 |
傘 | 大きさ | 2.5 cm位 |
形 | 初めまんじゅう形、のち開いて平たい丸山形、中央はくぼ む | |
色 | 初め肌色またはピンク色にオリーブ色、黄色、灰紫色などを交える | |
表面 | 湿時放射状の条線があり、著しい粘液におおわれる | |
ひだ | 形 | 柄に垂生、疎 |
色 | ピンク色~肌色で、しばしば淡紫色~淡青色を交える | |
縁 | 粘性をおびる | |
柄 | 大きさ | 通常長さ5cm、幅4mm位 |
形 | 上下同幅、中空 | |
表面 | 粘液におおわれ | |
色 | 上部はピンク色、淡紫色または淡青色。下部は帯黄色。 | |
生態 | 季節 | 秋 |
発生 | 林内の地面に群生 |
さて、この特徴の中で注目して欲しいのは赤字の部分です。
「七色滑茸」の由来通りに七色あるのでしょうか?
数えてみましょう、、、
- 肌色またはピンク色
- オリーブ色
- 黄色
- 灰紫色
ん?4色しかない???
しかし、これを読んでいる人は最初から分かっていたはず、、「七色もあるわけはない」と。
そう、、こう言う時に使う「七色」というのは「多くの種類の色」という意味で使われているのですね。例えば「七色の声を持つ男」とか「七色の魔球を投げる男」とか、、男が多いな(笑)
まぁこれらの例は「色」は関係ないのだけれど、色んな種類の●●という感じで使われていて、このナナイロヌメリタケも言わば「色んな種類の色になるキノコ」というのが正確であろう。
しかし、、、最初の写真を見てケロ。
これ、何色に見えますか?肌色ですか?オリーブですか?違いますよね、もちろん黄色や灰紫色でもありませぬ。
色的に言うと「緑」ですわな。
ってことはですな、これで5色となりました。
いや5色はいいのですが、図鑑の中にこの「緑」が含まれてないのが気になります。
この特徴を列挙したのは「青森県産きのこ図鑑」ですが、ナナイロヌメリタケが載っている図鑑はどう記述されているのでしょう?
まずは原色新菌類図鑑はというと
「くすんだ橙黄色、肌色またはピンク色にオリーブ、または黄、灰紫色」
となり一色「くすんだ橙黄色」が増えました(笑)
ヤマケイフィールドブックでは
「橙褐色、黄色、ピンク、灰紫色、オリーブ色」
ほほう、、橙褐色が増えましたが、これは上の「くすんだ橙黄色」と同じでしょうね。
北陸のきのこ図鑑を見てみると
「黄褐色に、肌色、ピンク、青紫色などをまじえ」
とあり、ここでは「青紫色」となっていますなぁ、、灰紫色と青紫色、これは異なることにしておきましょう(笑)
すると、色がなんと7色揃いました!!
- 肌色またはピンク色
- オリーブ色
- 黄色
- 灰紫色
- 緑色
- くすんだ橙黄色
- 青紫色
どうでしょう?って無理やりやな(笑)
緑のナナイロヌメリタケはナナイロヌメリタケなのだろうか?
この写真は一番最初の写真と同じ日、同じ場所で撮ったものである。
最初の写真は全体的に緑がかっており、日本の伝統色でいうと「若芽色(わかめいろ)」という感じでしょうか、とってもシックだけど、それでいて印象的な色合いです。
それに対してこの2本を見ると前の少し小さい方は半分が若芽色で、もう半分が少しくすんだ肌色をしているように見えますね。
そして大きい方はというと、傘全体が少しくすんだ肌色をしているのがわかります。
この変化は幼菌の頃は緑が強かったが、生長するとだんだん肌色になっていってる、ということが分かります。
ナナイロヌメリタケは7種類の色がある、というのではなく、色が生長するに従って変わっていく、というのが前提なのかもしれません。
さて、では昨年の秋、最初に出会ったナナイロヌメリタケを見てみましょう。
これは昨年10月末に実施されたこうべ森の文化祭の時に、 巨匠が朝からとある場所に赴き採取してきたナナイロヌメリタケである。
これ裏からの写真ですが、柄の透明感に思わず見惚れてしまいますよね?
それとヒダがカーブしながら柄に繋がっているフォルムというのはスノーボードのハーフパイプを彷彿とさせますよね?これまさに芸術作品と言えるんじゃないでしょうか!
では傘の方を見てみましょう。
傘の表面は確かに緑っぽくはありますが、若芽色とはまったく異なる色をしているのが分かります。
そうですねぇ、、これを日本の伝統色で言えば「山葵色(わさびいろ)」といったところでしょうか?春の若芽色に比べて、晩秋の山葵色というのは何か対照的な趣を感させてくれます。
そしてこの傘の注目ポイントと言えば、傘の一部が少し橙褐色に変色しているのが確認できますね。これも日本の伝統色で表現すると「甚三紅(じんざもみ)色」という少し言いにくい色が一番適当な色あいだと思います。
ではもう少し見てみましょう。
次はこのこうべ森の文化祭より1週間後、僕はどうしても生えている状態のナナイロヌメリタケを見たかったので、巨匠に場所を教えてもらい出会うことが出来たのがこのヌメリちゃんたちです。
かなり濃い緑ですね (*^^*)
さてこれも伝統色で表すと少し青みが入った「常磐緑(ときわみどり)色」の様なかなり落ち着いた色合いをしていますね。
そしてそして、更にこの何日か後に同じ場所にメルヘンヤスコが写真を撮りに行き、撮影したものです(たぶん同じものかな?)
もうね、覗き込み専門なので、下に潜り込んで撮っております (笑)
ただ、この状態でも緑系の色がかなり褪せてきて、肌色が強くなってきているのが確認できます。
1本だけ抜いてもらい、傘の色がよく分かるように撮ってもらいました。
この色は肌色ではあるけれど、かなりくすんだ感じの色に見えます。
これも伝統色で例えるなら「洗柿(あらいがき)色」という感じでしょうか。
じゃあ整理してみますよ~!!
神戸で確認できた色というのが
- 「若芽色(わかめいろ)」
- 「山葵色(わさびいろ)」
- 「甚三紅色(じんざもみいろ)」
- 「常磐緑色(ときわみどりいろ)」
- 「洗柿色(あらいがきいろ)」
の5種類ですな。
いかがでしょう?あえて日本の伝統色で表現してみましたが、このナナイロヌメリタケの色表現をするにはピッタリの表現だとは思いませんか?
ただ色の名前聞いてもどんな色かは思い浮かばないというのが玉にキズですが(笑)
「参考:和色大辞典」
https://www.colordic.org/w
ただ、この検証でわかったことは
- 緑色系のものがあるのでは?
- 傘の色は緑系 ~ 肌色系へと変化する
- よって、緑色系ものもナナイロヌメリタケである
と考えていいかと思う。
他の色を探す旅
今まで見てきたナナイロヌメリタケは神戸のある1箇所で出るものである。
その1箇所のところでも微妙な色合いの違いではあるものの5色もの色の違い(または変化)が見られた。これだけで既に「ナナイロヌメリタケ」という称号に値するものである。
しかし!図鑑に載っている色のまだ半分もクリアできていないではないか。
再度図鑑の記述を見てみよう
「初め肌色またはピンク色にオリーブ色、黄色、灰紫色などを交える」
とありますな。
この中でクリアできているのは唯一「肌色」のみであることにお気づきだろうか?
残りの「オリーブ色」「黄色」「灰紫色」を見たことはありません。
ですので、ちょっとネットで「ナナイロヌメリタケ」を検索してみることにしましょう。
1.まずは oso さんのページがトップに出てきます
http://toolate.s7.coreserver.jp/kinoko/fungi/gliophorus_laetus/index.htm
見ると全体に青みがかった感じではありますが、傘中央の窪んだ部分がやや緑色になっております。またほんの薄っすらではありますが、淡いオレンジ色に染まった部分があることがわかります。
2.自然観察雑記帳「ナナイロヌメリタケ」
http://naturalism-2003.com/kansatsu/fungi/nanaironumeritake/nanaironumeritake.html
少し乾燥気味の写真なので、色の判別はしづらいですが、2枚めの写真は傘の中央が灰紫色になっているのがわかります。
しかも周囲は乾燥していなければ恐らくオリーブ色ではないかと。
3.きのこ図鑑(吉敷川さんの別サイト)
http://yoshiki-yk.sakura.ne.jp/nanaironumeritake.html
ここの写真を見ればかなり神戸のものと似ておりまして、傘全体が緑色系であり、中央のくぼんだところは濃い緑色をしております。
しかし2枚めの写真を見るとかなりオリーブ色に近いと思います。
4.ドキッときのこ
http://dokitto.com/database/D-nanaironumeritake.html
いよいよこの色が出てきました。「黄色」です!
厳密には傘の中央部分が濃い黄色をしていて、周辺は淡い黄色、もしくはオリーブ色といったところでしょうか?
場所は富士山北麓とありますね。なので少し他のサイトのものとは標高なり、植生なりが違うのだと思いますね。
さて、これで図鑑に書かれている色は全てコンプリートしました!!
ナナイロヌメリタケを分解する
今、こんな脳みそが引っ張られている。
「ナナイロヌメリタケの色の違いは何故起こるのか?」
きっとナナイロヌメリタケ自身も「そんなん、ワシ知らんがな」と言いはるだろう、そらそうだ。
しかし、少なくとも今見てきた中では
- 一つの子実体でも色の変化が見られる
- 発生環境によって色の変化が見られる
との2つの事実は間違いないようだ。
1に関しては他のキノコでもありますが、ヌメリガサ科のキノコでは少ないんじゃないかな?(アカヤマタケが黒くなるとかは別として)
そう言う点では実に興味深い生態でありますな。
それと発生環境によって色が変わるというのも実に面白い。同じ様な感じで思い出すのがカワリハツですな。
※以前カワリハツについてはこんな記事を書きましたのでご一読ください。
「カワリハツ?ウグイスハツ?それとも・・・」
https://kinokobito.com/archives/4505
このナナイロヌメリタケというのは腐生菌であります。
生えているところは地上ですので、朽ちた葉っぱや木を食べて生きています。
もしかしてその食べ物や環境によって色の具合が変わってくるのでしょうか?
環境と言うのは植生、発生場所(林内、竹林内、草地、水苔群生上)、標高、そして湿度が高い低い、、、などなど。
そんな発生している環境がこのキノコに色彩に変化をもたらす、と考えるとなんだか面白いですよね。
さて、では最後に分解写真と顕微鏡写真を載せておきます。
ヒダとヒダの間が広く疎で、柄に垂生しています。そして撮ってるときはわからなかったんですが、 ヒダとヒダの間に連絡脈がかすかに見えますが目の錯覚?(笑)。
柄はやや中空で色は全体的に透明感があるものの、上部は肌色で、下部に行くに従って緑色になって行ってます。
ザリガニの爪のような担子器がいっぱい確認できますね。
それとところどころで楕円形の物体が見られますが、たぶんこれが胞子だと思われます。
フロキシンで染めてみました。
ここでは担子器も少しはありますが、恐らく左下の棍棒状のものがシスチジアだと思われます。
そしてこちらは胞子もちゃんと楕円形として確認できます。
さて、神戸のナナイロヌメリタケ。確かに図鑑には載っていない緑色系ですが、今のところ間違いなくナナイロヌメリタケだと思われます。