シワチャヤマイグチを分解する

2019.07.21 京都

去年の夏、京都のとある里山に行ったときのこと。
どうも見覚えのある傘で、しかしかなり古くなった状態のイグチを見つけた。

これってもしかして、、、

頭をよぎったキノコが一つ。
それはいつか見たいと思っていたキノコであったが、その傘の状態では確信は持てなかった。

もう一週間早かったら・・・・。
キノコあるあるである。もしかして一週間前では早すぎかもしれないけど、それでもそんな老菌の状態ではいくらいい写真を撮ったとしても撮り菌的にはアウトである。

仕方なく、悔しい思いを抱いたまま、その先へ行くと同じ様な傘をしたキノコが道路脇の崖のところから生えているではないか。これもキノコあるある。同じ環境下において、同じキノコが同時期に発生する頻度は高い。
しめしめと思い、そのキノコの周りとキノコ自体をお掃除し、撮影に取り掛かった。

傘にはこのキノコの最大の特徴である窪みが複雑な形で存在し、ほぼ茶色と言っていい色がポコポコと凹んでいる様はまるで年を経た人間のシワのようにも見えるのが、まだまだこれは若い状態であるのは、管孔などを見れば一目瞭然である。

シワチャヤマイグチ

「ヤマイグチ」という割には、ヤマイグチ属の最大の柄にある細鱗片がこのキノコにはまったく見当たらない。
傘があまりにも特徴が有りすぎて、柄までは目が届かない(注目されない)のであるが、この柄はまったくヤマイグチ属らしくはないのだ。

シワチャヤマイグチを分解する

2019.07.21 京都

傘の表面である。
独特のシワというか、凸凹が真上から見てもよくわかります。
色的に言うと「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)では鈍い赤褐色とかにっけい色という表現がされています。
よく見ると傘の中心よりも、周囲の方が色が薄くなっているのがわかりますね。
また、この状態では良くわかりませんが、湿り気が多いときには、この傘に粘性がでるようです。

2019.07.21 京都

この裏を見てかなりビックリしました。
これは典型的な「ヤマイグチ」の色(典型的なのは白っぽい)とは異なり、レモンイエローをしていますね。確かに「日本のきのこ」には管孔の色は白か黄色と書いてありますので、間違いではありません。

あと特徴としては孔口は小さく、柄に対して離生しているのがよくわかりますね。

2019.07.21 京都

そして「ヤマイグチ」としては違和感満載の柄です(笑)

特徴を追っていくと下部に向かって少しだけ太くなっているのがわかります。
そして色は上部が管孔と同じレモンイエローでそこから徐々に白くなっていっています。
もちろん鱗片などは一切ありません。

この柄の感じ、この間のミヤマミドリニガイグチにちょっと似ていませんか?

2019.07.21 京都

カットしてみました。
色の変化はまったく見られません。
ちなみに、管孔も色の変化はまったく見られませんでしたので、肉、管孔、ともに変化なしです。

シワチャヤマイグチを検証する

さて、いままでさんざん「シワチャヤマイグチ」と書いてきましたが、果たしてこれが本当のシワチャヤマイグチなのでしょうか? (いまさらか 笑)
ということなので、検証してみたいと思います。

いつものごとく、図鑑は「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)で。

シワチャヤマイグチ
Leccinum hortoniż (A. H. Sm.) Hongo & Nagas.

5~11.5cm

  粘性 湿るとやや粘性を帯びる
  鈍い赤褐色、にっけい色
  凹凸に富み,いちじるしいしわがある。
管孔 黄色のち緑黄色
  変色性 ない
  孔口 管孔と同色
大きさ

4.5~10cm×10~15mm
基 部では太さ15~25mm

  淡黄色
  表面 微細な鱗片に密におおわれ、また頂部付近では時に帯紅色のすじ状のしみを生じる。
黄白色~淡黄色
  変色性 切断しても変色しない
発生 季節 夏~秋
  生態 ブナ科の樹種の多い林内に発生。日本・北アメリカ東部

赤の太文字部分が特徴が一致しているところです。
少なくともこれだけ一致していて、しかも他に似ているもの(近縁のもの)が無いということで、ほぼこれはシワチャヤマイグチと言っていいかと思われます。

シワチャヤマイグチはどこに行くのか?

最初からさんざん「シワチャヤマイグチは『ヤマイグチ』らしくない」と書いてきました。
僕が抱くヤマイグチってこんな柄なんですよね~

ヤマイグチと思われるもの:栃木 2019.9.2

どこからどう見てもヤマイグチ属の柄ですよね~このツブツブ感はそそられるものがあります(どうそそらられるかは聞かないでね w)。

もう一度ヤマイグチ属の特徴を見てみると以下のような感じである。
※引用 「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)

  • 管孔はほぼ離生し、白色または黄色
  • 孔口は小さく、径1mm以下
  • 柄は全の径に比べて一般に長く、下方で太まり、
  • 表面は細鱗片を帯び、しばしばやや網目状に配列する
  • 胞子紋はオリーブ褐色、褐色、暗褐色など
  • 主として北半球温帯~寒帯に分布する

そして最後にこんな一文が書かれている。

オリーブ褐色の胞子紋を生じ、肉に傷時変色性のない種類については所属の再検討が必要と考えられる。

これはまさにシワチャヤマイグチにそのまま当てはまる事項だと思われる。

そして、そして!!シワチャヤマイグチを「青森県産きのこ図鑑」で調べてみるとコメント欄にこんな記述がある。


黄色の管孔を持ちヤマイグチ属としては前種と同じく特異的な種類と考えられてきた。現在は近縁なキツブヤマイグチなどと共に別属の Hemileccinum に置く考えが有力となってきている。

「青森県産きのこ図鑑」

「なるほど~」と「え!」っていう2つの思いがあります。

「なるほど」の方は、やはりヤマイグチ属としては異端であり、別の Hemileccinum に置く考え方が有力になってきてる、ということ。

「え!」の方は「キツブヤマイグチ」という近縁種がある、ってこと。これは今回の比較検討対象になっていなかったので不意をつかれた感じであるが、ネットで検索してもなかなか「キツブヤマイグチ」はどんなものなのか?というのははっきりしないのですね。

一応キツブヤマイグチで検索して出てきたもののリンクを張っておきます。

■MUSHYのキノコ写真ギャラリー
http://www5b.biglobe.ne.jp/~tmasai/kitubuyamaiguj.html

■牛肝菌研究所–覚え書き
http://boletus.sakura.ne.jp/oboe/073.html
http://boletus.sakura.ne.jp/oboe/image/091215L03.jpg


【追記】もう一つのシワチャヤマイグチ

この記事をアップしたところ、S木さんからこんなコメントがありました。

「私も最初、同じ様なのを『シワチャヤマイグチ』だと思ってましたが、『これぞシワチャヤマイグチ』と言うのを見てしまって・・・後略」

と言って「これぞシワチャヤマイグチ」という写真を添付してくれました。

撮影:Sさん

確かに傘のシワがすごいです。
最初の写真と見比べたら「これぞシワっ!」っていうぐらいのシワですよね。まるでアンズタケの傘の裏の様に連絡脈みたいなのもたくさんあって。

それに比べて僕が見た方をもう一度貼ってみますね。

S木さんのものと比べると遥かにシワの数が違って見えますし、シワの形態も同じものとは思えません。そして柄にも注目して下さい。S木さんのものと僕のものでは柄の質感も違って見えますし、色も違う、そして何より柄に細かな縦じわが入っている様にみえますね。

果たしてどちらがシワチャヤマイグチなのでしょうか?

それともどちらもシワチャヤマイグチではない、とかかも?
とある人の意見ではシワチャヤマイグチに2タイプあり、僕が見つけたような低山や里山などで見ることができるタイプ。
もう一つは高山で見ることができるタイプがあるそうな。

ちなみにS木さんのものは標高1100mあたりの比較的高い山で、樹種はブナやミズナラがあるところだそうなので、標高もそうですが、共生している樹種の違いもあるだろうと推測されます。

これが同じ種なのか、それとも別種なのか、、、今後の課題としておきましょう。


【追記2】シワチャヤマイグチをネットで検索てみて検証!!

「青森県産きのこ図鑑」でシワチャヤマイグチは「西日本で多く見られる」という記述があります。
ですので、ネット上で「シワチャヤマイグチ」というキーワードを元に、「これはシワチャヤマイグチだろう」と思われるものをピックアップしてみて、果たして西日本の方が多いのか?そして低山タイプなのか、高山タイプなのか、というのを検証してみたいと思います。

なお低山タイプと高山タイプを分ける基準は

  1. 傘のシワが多く明瞭か?少なく不明瞭か?
  2. 柄が黄色っぽく透明感があるか?

という2点で比較してみたいと思います。

1.oso的キノコ写真図鑑
http://toolate.s7.coreserver.jp/kinoko/fungi/leccinum_hortonii/index.htm
岡山遠征で見つけた、と書かれています。
傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われます。

2.菌界に分け入る きのこ探索図鑑
http://trace.kinokoyama.net/fungi/fungi-zukan/siwatya-yamaiguti-fungi.htm
奥多摩という記述がありますので、東京かな
傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われます。

3.ドキッときのこ
http://dokitto.com/database/D-siwatyayamaiguti.html
トップの画像は山梨県の富士五湖周辺でのシワチャヤマイグチですね。
これも傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われます。

ただし、、、奈良の矢田山へんろみちで見つけられてるこのページを御覧ください。
http://dokitto.com/Nisshi2011/110807siwatyayamaiguti1.html
これは傘のシワが少なく不明瞭 、柄が黄色みを帯びているので低山タイプだと思われます。

4.陶器山の自然
http://tohki.weblike.jp/kn2/2009/09/post-186.html
陶器山といえば大阪の里山ですね。標高は低いと思われます。
傘のシワが少なく不明瞭、柄が黄色みを帯びているので低山タイプだと思われます。

5.きのこ図鑑
http://yoshiki-yk.sakura.ne.jp/shiwatyayamaiguchi.htm
萩市内と書かれているので山口でしょうか?
傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われます(ただし、柄がちょっと怪しい)。

6.但馬変人倶楽部
http://taji-hen-clb.sakura.ne.jp/kinoko/siwatyayamaiguti1.html
兵庫県日高町と書かれています。
傘のシワが少なく不明瞭、柄が黄色みを帯びているので低山タイプだと思われます。

7.東京キノコ同好会
http://www.tokyokinoko.com/zukan/si/siwatyayamaiguti.htm
場所は書いてないですが「東京キノコ同好会」なので東京かな?
傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われます(ただし、柄がちょっと怪しい)。

8.花鳥きのこ好きの素人メモ
http://birdfungi.blog.fc2.com/blog-category-354.html
「福島県内で見たのは初めて」と書かれているので福島ですね。
最初の方は、傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われますが、途中からのアカジコウから名前を変えて再掲されたものは、傘のシワが少なく不明瞭、柄が黄色みを帯びているので低山タイプだと思われます。

9.きのこっ子
http://kinokokko.net/99_blank419.html
山梨県南都留郡富士河口湖町と書かれていますね。
傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われます。

10.三十九さんの部屋
https://sanjukyusan.fc2.net/blog-entry-757.html
京都で撮影されたものと山口県で採取されたもの、そして広島県で採取されたものがあります。
京都のは傘のシワが少なく不明瞭、柄が黄色みを帯びているので低山タイプ
山口、広島のものは傘のシワは多く明瞭なので高山タイプに近いと思われます。


一覧表を作ってみました

ブログ名 地域 低山タイプ 高山タイプ
oso的キノコ写真図鑑 岡山  
菌界に分け入る きのこ探索図鑑 東京?  
ドキッときのこ 山梨  
  奈良  
陶器山の自然 大阪  
きのこ図鑑 山口  
但馬変人倶楽部 兵庫  
東京キノコ同好会 東京  
花鳥きのこ好きの素人メモ 福島
きのこっ子 山梨  
三十九さんの部屋 京都  
  山口  
  広島  


標高が書いてないのでそれぞれが低山で発見したのか、それとも高山で発生したのかは不明です。
しかし、シワチャヤマイグチと呼ばれているものにこの2タイプがあるのはほぼ確認できたかと思われます。
また、「西日本に多い」というのはどうも人口の差のような気がしますが、いかがでしょう?(笑)

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