ムラサキアブラシメジとその仲間たち
「巨匠」
少しアイロニックな意味合いを込めて、僕たちはM崎さんのことをこう呼ぶ(笑)。
それは「こうべ森の文化祭」の終わり際のこと。巨匠が僕の方にやってきてこう質問するのだ。
「このキノコの紫色がちゃんと出ないのよね、、、なんで?」
見ると紫色のキノコの傘が白飛びしている感じになっている。それはまさしく露出オーバー気味だったし、直射日光がもろ当たっている感じだったので、日陰で撮影すること、そして露出の微調整方法とその仕組を教えるためにその紫色のキノコのとこに連れて行ってもらった。
その1時間前には巨匠に「A(絞り優先モード)」のことについてこんこんと説明したばかりである。
「キノコ撮影でいちばん大切なのは絞りなんですよね、、絞り。要はキノコのどこまでをピントが合うように撮るかということ、まずはそれを考えるのがいいと思うんです。そして絞りを変えたら、自動で明るさを調整するためにシャッタースピードが変わるんですわ、、。なので絞りを深くすると、光を取り込む量が減るでしょ?なので、シャッタースピードが自動的に遅くなるんですわ。なぜかと言うと遅くなることによって光を取り込む量が増えるんですわぁ、、」
なんて言う説明を、今まで巨匠に最低5回はしている(笑)
でもまぁ、そんな事は置いときましょう。
そんな巨匠に連れて行ってもらって、その紫色のキノコを見て驚いた。
長年僕が探し続けていた、そのキノコだったのだ!!
でも、順序を追って説明するために、このキノコの話から始めましょう。
まずはムラサキアブラシメジから
ムラサキアブラシメジモドキ(擬紫油占地)
Cortinarius salor Fr.
まずはムラサキアブラシメジモドキから見てもらいましょう。
僕の知る限り、ムラサキアブラシメジの仲間たちの中で一番多いのはこのムラサキアブラシメジモドキだろうと睨んでいる。
グーグルで名前を検索するとこうなる。
- ムラサキアブラシメジモドキ: 約136,000 件
- ムラサキアブラシメジ 約97,500 件
- ニセムラサキアブラシメジ 約 86,600 件
ムラサキアブラシメジモドキがダントツに多い。
また、「日本のきのこ」(ヤマケイ)に載っているのは、唯一このムラサキアブラシメジモドキだけである。なので、これと似た子実体を発見する=>「日本のきのこ」で調べる=>ムラサキアブラシメジモドキと判定する。
という同定サイクルが考えられるので、「日本のきのこ」に載っているその名前が(例えそれが誤同定だとしても)ネット上に溢れているのは無理もないことではないだろうか、、、、
この子実体を発見したときは驚いた。
こんなに美しいキノコが世の中に存在するのか、、、と。
ムラサキアブラシメジモドキ自体は前年に見つけていたので、こいつは直ぐに「それ」だと判った。
アメジストを彷彿とさせるような紫色で、かなり強い粘性がある傘。柄の上部には蜘蛛の巣膜の痕跡が表れているような少し頼りないツバ。そして白地に傘の色よりもかなり薄っすらとした紫色をした柄は太くもなく、細くもなく、均整の取れたスタイルを保っており、ほんとにモデルさんの様な美しい子なのでした。
それではまずこの子実体が「いかにムラサキアブラシメジモドキなのか?」という事を確かめるために特徴を列挙しておきます。
今回参考にしたのは「北陸のきのこ図鑑」で。
発生 | 季節 | 秋 |
場所 | アカマツ混生林、コナラミズナラ、ブナの各林下に散生、群生 | |
分布 | 日本、ロシア極東、欧州 | |
傘 | 径 | 2.5~5cm |
形 | 丸山形→饅頭形→扁平で縁部永く内巻き | |
表面 | 強粘性 | |
色 | 濃紺色~フジ色で繊維状、成熟につれ中央より褐色化 | |
柄 | 大きさ | 4~10×0.5~1cm |
形 | 長逆棍棒形で中実~髄状 | |
色 | 淡紫色で頂部微粉状。上位の粘性、つばより下方は色淡く強粘性、老成すると下方より黄褐色を帯びる | |
ひだ | 形 | 直生~上生しやや疎、幅5~6 mm |
色 | 淡紫色→鉄鋳色 | |
肉 | 色 | 淡青紫色 |
その他 | 軟質で内部から黄土色化し無味無臭 |
この子実体はあまりにも美しすぎて、ひっこ抜くとか、カットするとかとっても出来ない状態でした。なのでヒダも見てないし、肉もカットできないので見ることは不可能ですので、表の下部に関しては下線を引くことはできませんでした。
しかし、ここまで特徴が一致すればほぼほぼムラサキアブラシメジモドキだと思っています。
以下、このムラサキアブラシメジモドキを基本形として他の仲間たちとの比較を行っていきます。
ニセムラサキアブラシメジ
ニセムラサキアブラシメジ(仮)(偽紫油占地)
Cortinarius sp.
ニセムラサキアブラシメジを初めて見たときは「ムラサキアブラシメジモドキだ!」と思ったものです。紫色の傘、やや白っぽい柄、そしてフウセンタケの特徴を持ったキノコであること、、、などなど。
しかし、どうも違和感を覚える、、少なくとも「僕が知っているムラサキアブラシメジモドキとは違うんだけど、、個体差かな???」って思ったわけです。
個体差かどうかを判断するのはとっても難しく、それは「似た別種がある」というのを知らないとなかなか判断しずらい。これはそんな種なのだろうと思う。
ではでは、ニセムラサキアブラシメジの特徴を「北陸のきのこ図鑑」で見ていきましょう。
発生 | 季節 | 秋 |
場所 | コナラ・ミズナラ林、 ブナ林下に群生 | |
分布 | 日本(石川、富山) | |
傘 | 径 | 3~5cm |
形 | 丸山形→中高扁平で縁部永く内巻き、老成して波打つ | |
表面 | 強粘性 | |
色 | 濃青紫色繊維状、中央帯褐色で周辺やや淡い | |
柄 | 大きさ | 4~8×0.6~1cm |
形 | 逆棍棒形で多少屈曲し基部末端尖り中実 | |
色 | 淡青紫色で頂部条線あり、上位の粘性つばより下方の青紫色の粘性外被膜付着部は濃青紫色強粘性 | |
ひだ | 形 | 上生~離生しやや密 |
色 | 濃青紫色→鉄騎色 | |
肉 | 形 | 傘中央厚く |
色 | 帯紫色表皮下と柄上位濃く | |
その他 | 肉質充実し無味無臭 |
文章だけではなかなか判断はつきにくいものですなぁ、、、(遠い目)
ムラサキアブラシメジモドキと同じ様に抜いて撮影していないので、ヒダから下はマークできていません。またこの子実体の傘が滑っていないのは乾燥していたせいだと思われますので、本当は傘の「強粘性」というのはマークしたいところなんですよね(笑)
で、この中でムラサキアブラシメジモドキと区別する手段というのは「色」だと思っています。
ちょいと比較すると、、、
(ムラサキアブラシメジモドキ:モドキ、ニセムラサキアブラシメジ:ニセ)
- 傘:モドキは「濃紺色~フジ色」でニセは「 濃青紫色」
- 柄:モドキは「淡紫色」でニセは「淡青紫色」
- ヒダ:モドキは「淡紫色」でニセは「濃青紫色」
こうやって見比べるとわかりますが、紫色が強いのがムラサキアブラシメジモドキ で 青みが強いのはニセムラサキアブラシメジとなりますね。
あとは僕の感想としてはニセムラサキアブラシメジの方が柄がガッチリしている感じがあります。柄の大きさを見ると、モドキは4~10×0.5~1cmでニセはそれよりも太く短い 4~8×0.6~1cmとなっています。
数値的にはやや太い感じですが、印象的には「太い子実体が多い」という感じでしょうか。
なので、この子実体はニセムラサキアブラシメジと言っていいと思います。
ではでは最後の大トリの「ムラサキアブラシメジ」を見てみましょう!!
これがムラサキアブラシメジだ!!
ムラサキアブラシメジの「噂」は前から知っていた。
あれはムラサキアブラシメジモドキの写真がFacebookのきのこ部にアップされたときのこと。
誰かが「ムラサキアブラシメジモドキがあるってことはムラサキアブラシメジもあるんだよね?」というコメントをしたのだ。しかしムラサキアブラシメジモドキは結構世の中に知れ渡っており、ネット上でその写真は溢れかえるほどにアップされている。
「じゃあ、ムラサキアブラシメジってどんなの?」
って話になった時にいろいろ検索しても出てこない。
「もしかして無いんじゃね?」
って噂が流れたのだが、らじかる君がその噂を遮るように写真をアップしてくれたのを覚えている。
その写真は非常にムラサキアブラシメジモドキに似てはいるものの、それとは異なるある大きな特徴があった。
「傘に白い斑点がある」
のである。
それからだ、、僕がその幻のムラサキアブラシメジを探し始めたのは・・・。
・・・で最初の話に戻ることにする。
我が観察会の巨匠に
「紫色のきれいなキノコがあって、その紫色が綺麗に出ない」
ということで、紫色を綺麗に出すコツを教えるために連れて行ってもらった場所に、すっくとこの紫の子が姿を現したのであった!! (@_@)!!
「うぉ~これムラサキアブラシメジやん!!」
キョトンとする巨匠を横目に一人興奮する僕。
長年その姿をカメラに収めたいと願っていたキノコにこんなきっかけで巡り会えるとは思っていなかった。 めちゃくちゃ珍しいものではないけど、なかなか見れるものではなくって、恐らくムラサキアブラシメジモドキの20分の1ぐらいの確率ではないだろうか・・・と思ったりする。
ってことで傘に斑点があるこのムラサキアブラシメジの特徴を列挙してみる。
これも「北陸のきのこ図鑑」で見ていきましょう。
ムラサキアブラシメジ(紫油占地)
Cortinarius iodes Berk. & M.A.Curtis (iodes→スミレ色の)
発生 | 季節 | 秋 |
場所 | 針葉樹林下に少数群生 | |
分布 | 日本(石川稀, 北海道), 北米 | |
傘 | 径 | 2.5~5cm |
形 | 半球形→饅頭形→扁平 | |
表面 | 強粘性 | |
色 | 青紫色→フジ色、中央より褐色化が広がる | |
柄 | 大きさ | 4~7×0.4~1cm |
形 | 円柱形~長棍棒形で中実 | |
色 | 淡フジ色で下方ほど淡く下方は白色 | |
形状 | 上位に粘性のつば痕跡あり、その下方は粘性外被膜で強粘性 | |
ひだ | 形 | 直生~弱く湾生しやや密で幅5mm 内外 |
色 | 帯紫白色→鉄騎色 | |
肉 | 形 | 傘中央やや厚く |
色 | 帯紫色 | |
その他 | 無味菌臭あり |
もう特徴がバッチリである。
どの木と共生していたか、、ということまでは確認していないが、近くにもみの木があったことは確かなので「針葉樹林下」というのも合致していると思う。
なので、ほぼほぼムラサキアブラシメジではないか?と確信を得たのだが、ふと気付いた。
北陸のキノコ図鑑には「傘に斑点がある」っていう記述がない!!
う~む、困った。
困ったがたぶん、これがムラサキアブラシメジなのでしょう。
どなたか「ムラサキアブラシメジの傘に斑点がある」と記述された資料を持ってないでしょうか??
『追記』
konpasさんから以下のページで「斑点」の記述があることを教えてもらいました。
「Cortinarius iodes」
https://www.mushroomexpert.com/cortinarius_iodes.html
この中の一文に「斑点がある(に変わる)」という意味合いのものがあります。
its purple to lavender or lilac colors become spotted with yellowish to tan areas
その(このキノコの傘の)紫からラベンダーもしくはライラック色の日に焼けた部分は黄色みがかった斑点になります。
“ムラサキアブラシメジとその仲間たち” に対して2件のコメントがあります。
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こんにちは。初めまして。
3種の違いがとても参考になりました。
斑点のことが書かれていたので、学名Cortinarius iodesで検索してみました。下記URLに斑点ではないですが、傘に色むらのある画像が載っていました。和訳すると「斑点」が現れると記述されています。
もうご存知でしたら差し出がましいことをして申し訳ないです。
https://www.mushroomexpert.com/cortinarius_iodes.html
なるほど、なるほど、ここの部分ですね!!
its purple to lavender or lilac colors become spotted with yellowish to tan areas
有難うございます!!
とっても参考になりました。
ここの部分、記事で追記させてもらいます!!