アンズタケを眺めてみる(前編)

アンズタケが「新種記載」された、ってのはご存知だろうか?

以前からアンズタケを知っている人からしたら「ん?」と思うに違いない。
「今までアンズタケって図鑑に載ってたよね?」とぼそっとつぶやくに違いない。
どれどれ、、と図鑑を見てみる。「日本のきのこ」(ヤマケイ版)だと400ページを見るがいい。そこには「アンズタケ」とちゃんと載っているではないか。

じゃあ、何を今さら???

と思いますわな。僕も最初はそう思いました。
ところがこの図鑑に載っているアンズタケの学名「Cantharellus cibarius」は欧米で広く見られるアンズタケの仲間であり、1908年、川村清一氏によって、日本各地で見ることができるアンズタケも欧米のものと同じ 「Cantharellus cibarius」 であると発表されたものであること。そして近年になって、日本各地にあるアンズタケをDNA検査したところ、どうも 「Cantharellus cibarius」とは一致しない、ということが判明したのだそうな。
「参考」アンズタケ(Wikipedia)

「『アンズタケ』学名に」

という見出しが、2019年1月10日の信濃毎日新聞の紙面を飾った。

その記事を引用させてもらいます(WEBの記事は消えてます)。

アンズのような甘い香りが特徴で、諏訪地方では「アンズタケ」と呼ばれ食されているキノコが、110年前から同一種とみられていた海外のキノコと品種が異なることを、信州大農学部 (上伊那郡南箕輪村) の山田明義准教授(49)=キノコ学=が突き止めた。 固有の品種としてアンズタケの名前でこのほど学名登録され、茅野市の永明寺山公園で採取したアンズタケが、国立科学博物館筑波実験植物園(茨城県つくば市)に標本として保管された。

2019年1月10日の信濃毎日新聞

この記事の中で特筆すべき点は以下の5点

  • 信州大農学部 (上伊那郡南箕輪村) の山田明義准教授が調査
  • 国内で300種の標本を取り寄せて遺伝子レベルで解析
  • 和名「アンズタケ」とされていた「Cantharellus cibarius」が別種であることが分かる
  • 永明寺山公園で学生が2013年8月に採取したアンズタケがホロタイプ
  • 「Cantharellus cibarius」 は見た目にも黄味が濃く、日本のものはレモンイエロー

つまりは和名「アンズタケ」の学名は「Cantharellus cibarius」 から「Cantharellus anzutake」に変わった、ということなのです。
もちろん今の所「Cantharellus anzutake」は海外での記載がないわけであるから、 「Cantharellus anzutake」は日本固有種、と言うことになるのでしょうね。

ちなみに記事の中で「学名登録」という言葉があるが、この表現は誤りで正確には「新種記載」が正しい。「登録」はどこかのデータベースとか名前決定機関などにあたかも学名を「登録」するかのように思わせてしまうのだが、そんな機関などはどこにも存在しない。なので「登録する」というとこもないわけなのです。

歴史を変えたアンズタケ

このアンズタケの記事を書こう、と思ったきっかけになったアンズタケがある。

大阪のキャンプ上で見つけたアンズタケ 7月6日大阪

保育園の一泊キャンプに行った時に見つけたアンズタケである。
毎年同じ場所に出てくれるので、タイミングが合えばこの姿を拝むことが出来る。

傘の形に注目してもらえれば分かるが、アンズタケらしくは、ない。
アンズタケと言うと傘が大きく広がり、ヒラヒラしていて傘に大きな溝のようなものがある、というイメージがあるよね?
しかし、このアンズタケにはそういった特徴があるようには見えない。

で、このアンズタケ、かつて僕が体験したことがない「ある事」を味あわせてくれたのであった。
それは

杏の匂いがするのだ。

「きのこびと」を読んできた人なら覚えているかも知れないこの記事

覚えているだろうか?覚えていなくてもいいし、読んだことない人は是非読んでみてください。
この記事の中で僕は「アンズタケから杏の匂いがしたことがない」と告白しました。そんなこと恥ずかしいことでも何でも無いのだが、キノコの同定に「匂い」は重要な要素であり、例えばケショウハツというベニタケの仲間を見つけても「カブトムシの匂い」がしなければメルヘン・ヤスコに

「それ、ケショウハツじゃないんじゃね?」

なんて言われてしまうのだ。悔しい。
いや、どう見ても傘の模様とか質感とか見たらケショウハツなんだよ、ただね、カブトムシの匂いはしないんだ・・・。
と訴えてもだめなんだよね、、、悔しい、悔しい。
ちなみにメルヘン・ヤスコはカブトムシの匂いが分かるのよ、とどこか誇らしげだ。

オレの鼻やっぱおかしいんじゃね?

と自虐的に言って、苦笑いするしかなかった日々、、、、
そんな自虐的に「ジョージです、、、(ヒロシです風に)」って言ってた日々が、この一瞬で大きく動き出すことになる。

このアンズタケから杏の匂いがしたのだ!!

「アンズタケが、アンズタケが匂った~~!!」(ハイジの「クララが立った」風に)

歴史は変わったのだ。
僕の鼻でもアンズタケから杏の匂いがしたのだ。

今年見たアンズタケたち(A地点のもの)

今年は先程のキャンプで見つけたアンズタケを筆頭にして、これもしかして別種?と思わせられるアンズタケを見てきたので並べてみることにする。

まずは先程のアンズタケの柄と傘裏。
傘と柄の境界線が明確に別れている感じがします。傘の表面はまるで普通のキノコの様で、そして「柄」というのが白っぽく、こんなにもしっかりしている、、、というところに違和感を覚えてしまいます。

しかし先程も申しましたが、杏の匂いはしっかりとしているし、特徴的にも「アンズタケ」と言って良いものだと思います。

7月6日大阪

今年見たアンズタケたち(B地点のもの)

次に見つけたのがこのアンズタケ。
傘の感じがまさに「アンズタケ!」っていう感じがしますね。

7月20日大阪

これはとある公園のシラカシの木の下に群生していました。
傘の雰囲気は薄くて、ヒラヒラしていて頼りなく、溝のようなものがちゃんとあります。柄の方を見ると傘と同じ色でこれまたがっしりしている感じではありません。

7月20日大阪

これが僕の抱くアンズタケのイメージなのです。
が、しかし、このアンズタケにピッタリのイメージのものの匂いを嗅ぐのですが、まったくアンズタケの匂いがしないのです。
たぶん、他の人に嗅いでもらったら杏の匂いがするのかも知れませんが、僕の鼻センサーではそれを感じることは出来ませんでした。

せっかくなので、大阪自然史博物館の佐久間さんに聞いてみたところ「これはアンズタケで良いでしょう」というお答えをいただきました。
杏の匂いがしない(僕が匂うことができない)アンズタケがあることは周知の事実。
なのでそんなことでは驚くワタクシではありませぬ。

しかし、こんな疑問が頭をよぎる。

匂いがするアンズタケと匂いがしないアンズタケは同種なんだろうか?

どちらも特徴から追っていけばアンズタケの仲間、であることには違いない。しかし質感も違うし、杏の匂いがする、しないというのはとっても大きな違いの様に思える。
一体和名アンズタケというのはどっちが「本物」なのだろうか・・・・。

こんな思いを心に留めておきつつ、京都にキヌガサタケ探しに行ったときのこと。

今年見たアンズタケたち(C地点のもの)

某公園でキノコ散策していると「ん?ハダイロガサかや??」というような傘のキノコを発見した。
ん?なんじゃなんじゃ??と傘の表の写真も取らずにそのハダイロガサの様なキノコを引っくり返してみた。

げ!げ!げ!!

まずはその鮮やかな黄色が視覚に突き刺さってきた。

7月21日京都

どひゃーーー!!
これアンズタケだぎゃーーっ!!と名古屋弁で驚いた。

そして恐る恐る匂いを嗅いでみると、間違いなく杏の甘い香りがするのだ。

実はこのアンズタケ、キャンプで見つけたアンズタケと傘の感じや柄の感じなどそっくりなのだ。ということは「この感じ」のやつは、僕でも杏の香りを分かるタイプなのかも知れないなぁ、、、なんてぼんやり考えた。

ただ、図鑑で見るアンズタケと言われているものは、こんなにも柄と傘のしたが明確に別れているものではなく、ヒダが傘に垂生していて完全に地続きの様に見えるのだが、これは全く違っているのです。「傘」は「柄」に垂生はしているものの、完全に地続きとは言い難い。そして 「傘」と「柄」は色によって明確に別れているのです。

今年見たアンズタケたち(D地点のもの)

そして仕事で岡山に行く途中で姫路に立ち寄ったときの話。せっかくだからと以前からFBで知っていたOさんに「一緒にキノコ散策しませんか」と声かけると二つ返事でオッケーを頂いた。

そしてOさんが時々行ってる場所に案内してもらった時に「こんなアンズタケがあるんですよね」と教えてもらったものがこれです。

傘の感じはさほどヒラヒラしていないものの、傘の厚みはかなり薄そうな感じ

7月27日兵庫

柄の色は傘と同じで、白い部分はまったくない。

7月27日兵庫

このアンズタケ、イメージ的には2つ前の匂わないアンズタケと似ている。
が、しかしこのアンズタケの最大の特徴が、

杏の匂いがプンプンする

ということだ。
なので少なくとも2つ前のとはどう考えても違う・・・・。傘のひらひら感もこの子実体からは感じることは出来ない。

どういうことなのだろうか?

もしかしてこの3つのアンズタケは全部別種なのだろうか?

そして

このアンズタケたちは新種記載された「Cantharellus anzutake」なのだろうか?

Oさんによると、このアンズタケの仲間は毎年この場所に出るのだそうな。 場所については詳しく書けないが、今まで出ていた場所とはちょっと違っていて、人工的な植え込みがあるような場所で、すこし苔むしたような所から出ているのはきっと水分が十分保たれているからだと想像することができる。


さて、どうでしたか?
今まで「アンズタケ」と呼んでいたものたちが、安易に「それアンズタケやんな!」と言えなくなってきたことにご理解が得られたでしょうか?

「そんなの気にせずに、アンズタケで良いやん、美味いわけだし!」

と言われる御仁もおられよう。
しかし、アンズタケは「毒キノコ」であることをご存じない方も多い。
しかもアマトキシン類というもっともタチの悪い毒成分を含んでいるというからただ事ではない。

次回はその辺りのことも書いてみることにします、、、

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