毒キノコ事件簿 その6
これは菌友Sさんから聞いた話。
Sさんが山に入ってキノコをいろいろ採って降りてきたときのこと、下山途中で今から登山するというパーティに出くわしたらしい。
すれ違いざま、Sさんが持っているキノコを見て「これは何ですか?」と聞いてきたので、その時に採ってきたキノコを指して「シイタケですよ!」と答えると、「天然のシイタケがここで採れるんですか!」驚いたようにしていたとのこと。
しばらく経って下山してきたそのパーティとまた偶然に出会ったらしい。
するとそのパーティが「天然のシイタケを採ってきたんです」というので見たらそれはシイタケと似ても似つかぬツキヨタケだったそうな、、、
Sさんは慌ててそれがツキヨタケで猛毒だ、ということを説明し事なきを得たらしいが、
「天然のシイタケが、そこいらに有る」
と知った人がどういう行動に出るのか、という恐ろしい教訓の一つだと言える。
もし、そこで出会わなかったら、そのパーティは食中毒で新聞に載っていた可能性が十分にある。
ここでその登山者の心理を測ってみると
- シイタケはいつも食べているので知っている
- 天然のシイタケがこの山で採れるのがわかった
- たまたまシイタケらしいものを見つけた
- 天然モノは美味しいだろうから採って帰って食べよう
こんな感じだったのでしょうね。
しかしこの思考回路は特別なのでしょうか・・・?
僕はこれはいたって普通の思考回路だと思うんですよね。
毒キノコ事件簿(山梨県にて)
またまた山梨県でこんな食中毒が起こった。
「毒キノコで3人が食中毒 山で採取」
http://www.asahi.com/articles/ASK9D4CT5K9DUBQU00S.html
山梨県は11日、峡東保健所管内(山梨、笛吹、甲州各市)で10~70代の男女3人が毒キノコのツキヨタケを食べ、食中毒症状を起こしたと発表した。全員が回復しているという。
県衛生薬務課によると、3人は10日夜、山で採ったツキヨタケを焼いたり煮たりして食べたところ、約1時間後に嘔吐(おうと)などの症状が出た。「食用キノコを見分けるのは十分な知識と経験が必要。安易に野生のキノコを食べないように」と注意を呼びかけている。
ではでは、そのツキヨタケっていうのはどんなキノコなのでしょう?
これ、シイタケと似てますか?
「似てる」と言われれば似てるかもしれませんが、良く見たら「似てない」というのが分かってきます。
そんなツキヨタケの特徴を列挙しますと
- 主にブナの材上に重なり合って発生
- 傘は紫褐色~暗褐色、半円形~腎臓形、表面はほぼ平滑、ろう状の光沢、肉は白
- ヒダは幅広く、垂生、初め淡黄色のち白
- 新鮮なうちは発光性がある
- 柄は傘の中心からずれている
- 柄を切断すると、黒褐色、暗褐色、褐色のシミがある(これ最大の特徴)
となります。
この中でも「柄を切断すると、黒褐色、暗褐色、褐色のシミがある」というのはツキヨタケかそうでないかを見分けるのには最大の特徴となるので是非これだけは覚えておかなければならないポイントである。
しかし、「美味しそうなキノコ」と目がくらんだ人にそんな冷静な判断はできるでしょうか?
ましてやツキヨタケという存在を知らない人に、、、
ちなみに裏はこんな感じです。
少なくともこれは「シイタケ」とは完全に違いますよね?
シイタケの柄は傘の中心から出ていますし、ツキヨタケは傘の横から出ていますね。
さぁこれであなたは絶対間違わないよね?ね?
ツキヨタケとシイタケの違いはこれで明確になったので、もしこれを読んだ方がこの二つを取り違うことはまずないでしょう。まぁもっとも、キノコに対して意識のある方(つまりこれを読んでいるアナタ)は最初から間違うこともないでしょうけどね、、。
しかーーし!!
さて、では次にちょっと恐ろしい写真をお見せいたしましょう。
もう一つのそっくりさん
見ました?(笑)
そうです、これ「ムキタケ」っていうんですけど、思わず「あ、あなたツキヨタケ?」と聞きたくなるような容貌をしておりますよね?
もしこのムキタケが毒キノコであれば良かったのです。毒キノコだったら
「あぁ、ツキヨタケかムキタケのどちらかだけど、どうせ毒キノコだし」
と食べ菌の方たちはきっとスルーするはず。
なので「ムキタケと間違ってツキヨタケを食べてしまった!」という中毒は起きないはず、、、なのですが、、、
残念ながら、ムキタケは立派な食菌なのです!!
ではでは、裏を見てみましょう
こんな感じで木から出ております。
しかもツキヨタケと同じような木で、同じような季節に出るとのこと。
ヤバイですよねぇ~
絶対に間違えますよね~
特に食い気に目がくらんでいる人!そう、そこのアナタなんかとっても危ないですよ~!!
ではムキタケの特徴をピックアップしてみましょう。
- ブナ、ミズナラの枯幹、倒木上に重なり合って発生
- 傘半円形~腎臓形、表面に細かい毛を密生、粘性がある、色は汚れた黄色~黄褐色
- 傘の表皮と肉の間にゼラチン層があり、表皮は剥がれやすい
- ヒダは黄白色、幅狭く密。柄に接するとこで止まり、柄の上に垂生することはない
- 肉は白色で柔らかい
- 柄は傘の横につき、太く、短く、表面に黄褐色の短毛をおびる
こうやって文章にするとだいぶ違いますが、写真を見てみると「似てる」と言わざるをえないのがなんとも心もとない話ではあります。
まぁでも詳細を詳しくチェックすれば恐らく判るはずなのですよ、、、ほんまに。
しかしご安心ください!!決定的な違いがあるのです!!
それはやはり「柄を切断すると、黒褐色、暗褐色、褐色のシミがある」というポイント。
これが「あれば」ツキヨタケなんです。
でもここからが怖いとこで、このシミがあればツキヨタケなのですが、、じゃあ無ければツキヨタケじゃないのか?
となると、「そうではない」らしい。
何らかの原因でシミのないツキヨタケも存在するという、、
世にも恐ろしいツキヨの世界(笑)