2017年胞子の旅

2009年の野良シイタケ

2009年の野良シイタケ

キノコは胞子を拡散することによって次世代のキノコが住む場所を確保し、芽を出し、菌糸を張り巡らし、そしてその子実体となるキノコを作り出す。
そんな大きな生命の潮流のメカニズムは解明されているようだが、キノコの胞子がどの様に空中を舞い、次の住処へたどり着いているのだろうか?ということは余程マクロなレンズで胞子の姿を捉えて、その飛んでいく方向を察知し一緒に飛んでいかないと無理ですよね?

そらそうだ、、だって胞子だもん(笑)

胞子の大きさは、わずか1000分の5mm程のものらしい。胞子紋というものが取れるので、沢山集まれば肉眼でも見えるが、1個単位だと「これが胞子です」と言われても絶対に見えるわけがない。

なので胞子の飛んで行く先は想像するしか無いのであろうか??

胞子の足跡

1枚目の写真を見てほしい。
これは既に「野良シイタケ」である。

「既に」というのは人間が管理しているホダ木に出ているものではないから、と言う意味である。

そして「野良シイタケ」というのは、過去に人間がシイタケ栽培を行っていた時のシイタケから胞子が飛び出して、近くにある木に(これは多分シイノキ)に降り立ち、木が感染し、菌糸が回ってそこからシイタケが発生したものである。

ちなみにこのシイタケは2009年に撮影したものであるが、この何年か前に「森の学校」という団体がシイタケ栽培をしたことがあるらしく、その何年か後にその周りの公園で野良シイタケが出るようになったらしい。

つまりこの写真のシイタケは

森の学校によって栽培されたシイタケの胞子の足跡

ということになる。

その範囲は恐らく500m圏内、であろう。
栽培シイタケは子実体を形成した後に傘の裏にあるヒダの中で胞子を製造し、その胞子を風に上手く乗せてできるだけ遠くへ飛ばそうとしたに違いない。まるで子どもが吹いたシャボン玉が風に吹かれて飛んで行くように、、、

下山する胞子

2012年の野良シイタケ

2012年の野良シイタケ

胞子にも重量がある。
これ当たり前。
なので、やはりいくら軽くても重力に任せて上から下へと落ちていく。

・・・僕がそのキノコを発見したのは2012年のこと。つまり2009年から数えて3年後。

いつも通り登山口から山に向かって階段を登っていく。
その山は500mぐらいの高さしか無いのでいわゆる初心者コースとして、地元の人達の散歩コースなどになっている山である。
途中には最近出来た喫茶店や洒落たイタリア料理のお店があったり、人がかつて住んでいたのではないか、という廃墟やお寺があったりして「人」の気配を感じることが出来る登山道ではある。

そんな登山道の途中には結構キノコスポットがあり、それを巡りながら、一昨年ここにはこのキノコがあった、などと思い出しつつ登るのが毎年の恒例となっている。そして2012年、山に登っていくちょうど中間点ぐらいにコナラの木であろうか、誰かが持ってきて放置したとしか思えない木が横たわっており、そこから写真のようなシイタケが出ていたのであった。

「これ、、、シイタケ、、、やなぁ?」

一枚目の写真はこの山の山頂付近にある公園で撮られたものです。そしてこのシイタケは標高で言うと約150mぐらい下ったところ、直線距離にすると1.5kmぐらいは離れていることになります。
そして去年までは少なくともここにはシイタケは出ていませんでした。
と言うことは

3年かかって胞子は下山してきたのか?

ということになりますな。
いやもちろん、胞子がこの木に降り立って、感染し、子実体を形成するまで時間がかかる、ということはありますね。
そんな事を鑑みましても

2~3年で胞子が1.5kmを旅してきて木に宿り、シイタケを発生させた

と言えるんじゃないでしょうか。

マクロな世界だと思っていたものが、とってもグローバルなものに感じるのは僕だけでしょうか?

で、このシイタケですが、毎年出てはいたように思うのですが、このホダ木自体があっという間に分解されボロボロになり、3年後にはすっかり無くなってしまいました(これはある意味シイタケの分解能力の凄さを感じますね)。

その後、ちょっと寂しい思いをしていたのですが、、、

旅する野良シイタケ

2016年の野良シイタケ

2016年の野良シイタケ

2016年春、観察会に向かうため山を登っておりました。
4月、キノコはさほど多くはありませんので、かなり早足で登っておりました。途中、何年か前にセンボンクヌギタケを発見したことがある木がありまして、その木は毎回登る時に「何か出てないか?」とチェックするのですが、その瞬間思わず「うわっ!」と叫ぶほど驚いたことを覚えています。

そこに出ていたのは、この上の写真のシイタケなのでした。

まさしくこのシイタケは「野良シイタケ」です。
その木は前から放置されていたからです。
そんな放置木からシイタケが出ていることにピンとくるものがありました。

「旅してきたんだ、このシイタケ!!」

実はこの木があるのは前回見つけたシイタケの場所よりもさらに下界に降りてきた場所(恐らくこの場所より1.5kmぐらい)なのです。
つまりは上流で出ていたシイタケ(今はホダ木すら無くなった)から胞子が風に飛ばされてこの木に宿り、生命を育んで、数珠つなぎの数珠の様にシイタケが発生しているのではないか?

そんな風に想像が膨らんだのでした。

その1.5km先にあるシイタケを発見してから4年後のことである。
このシイタケ、実は今年(2017年)もその姿を幼菌として現しておりました。
たぶん今度行ったときにはもう少し大きな個体のものが見つかるでしょう。
しかもホダ木もまだまだ頑丈そうなので、この先何年かシイタケの発生が見込めることと思います。

そしてシイタケ達が成菌になって、また胞子を飛ばし、下界へ、下界へとその子孫を増やしていくのでしょうか??

2009年に山頂で出ていたシイタケが2012年には1.5km降りたとこで発生し、その4年後の2016年にはさらに1.5km降りたとこで見つかる。

俗に言う「胞子活動」は肉眼で捉えることは出来ないが、その足跡はちゃんと残していってくれて、僕らがこうして観察することが出来る。
まるで透明人間が足跡だけを残していくみたいに...

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