ヤマイグチの粒点とは何か?

これは北海道の阿寒湖周辺で見つけたキンチャヤマイグチ(だろうと思われる種)。
キンチャヤマイグチは関西とかで見るヤマイグチの仲間と比べると柄の粒点が異常に多い。
ここまでくると「粒点」ではなくひび割れという表現が近い様に思うのだが、「ヤマイグチ」というカテゴリーで考えると、これはこれはやはり「粒点」となるだろう。
何故ならもう少し成長すると粒点どうしの間隔が広がり、まさに「粒点」となるからだ。
では、もう一つ北海道でよく見るヤマイグチの仲間を見てもらいましょう。

図鑑では「ヤマイグチ」として載っているものに非常に近いと思っている。
こちらの粒点はキンチャヤマイグチに比べてかなり密度が低い。
柄の上部はかなり密集しているが、それ以外はかなり粒点どうしの間隔が開いているのがわかりますね。これはもしかして柄の上部と中部以下の成長度の違いがあるのではないかと思っている。
すなわち
柄の上部はあまり伸張せず、中部以下の伸長率の方が高い
ということ。
幼菌の頃は均等に並んでいる粒点が、柄の成長度合いによって部位による密度が変わってくるのだろうと思われる。
では、去年大阪で見たヤマイグチの仲間も見てもらいましょう。

かなり老菌であり、かつ、乾燥続きでしたので干からび感がありますよね?(笑)
それでもやはりこれはヤマイグチの仲間であることはこの柄の粒点が確かに物語っておりますが、北海道で見れるものに比べるとやはり粒点の密度が低いです。
もちろん、もう少し密度が高いものもありますので一概に関西のものは密度が低い、などとは言えないですし、そこは種の違いによる差だと考えていいと思います。
それではもう一つ、以前「キンチャ似ヤマイグチ」ということで記事にしたこのヤマイグチの仲間を見てください。

傘の色はキンチャヤマイグチに似ていますが、全体的にひょろ長く、キンチャヤマイグチの様な「逞しさ」がない。そして何より柄の粒点がキンチャヤマイグチのものとは大きく異なり色が褐色で一つ一つが小ぶりでありますな。
ここまで来れば
キンチャヤマイグチと似ているのは傘の色だけじゃない?
というご指摘を受けると思われるが、まさにご指摘通り(笑)
実は以下の記事を投稿した後に有識者の方から
「これヤマナラシの樹下に発生する奴じゃないかな?だったらアカエノキンチャヤマイグチじゃないですかね?」
という指摘を受けました。
まだ確証はありませんが、発生環境や特徴からみてアカエノキンチャヤマイグチだろうと考えています。
粒点の正体は何なのか?

大阪で採取してきたちょっと乾燥気味のヤマイグチの柄から切片を作り検鏡してみました。
100倍ぐらいで検鏡すると良く分かりますが、柄自体は多くの菌糸で作られており、その菌糸が柄の縦方向に並んでいるのがわかりますでしょうか?
そして写真の中央に2つの塊があるのが分かります。
これがヤマイグチの柄にポツポツと付いている粒点です。
「粒点」というと何か黒い物体が付着している様に思ってしまいますが、実際はこの様な「組織」が粒点を形成しているのですね。
それではもう少し倍率を上げてみます。

ヤマイグチの粒点の正体が見えてきましたでしょうか?
この写真から分かることを列挙してみます。
- 先端に乳状突起があるシスチジアの様なものが集まっている
- シスチジアの先端部分に褐色の色素を含んでいる
- 柄から放射状に延びシスチジアどうしが束生している様に発生している
これをシスチジアと呼んで良いのかはわかりませんが、ここでは便宜上シスチジア(または柄シスチジア)とさせてもらいます。
写真ではちょっと分かりにくいのでチャッピーにお願いして分かりやすくイラスト化してみました。

写真のものを完全にトレースした感じではないのですが(勝手に改変された)、特徴は良く表していると思います。
こういった柄シスチジアの存在は、イッポンシメジ属などでも良く視ることがあるのですが、このヤマイグチの様に存在感があるものはなかなか無いと思います(笑)。
それではキンチャヤマイグチはどうなのでしょうか?
ヤマイグチの様な可愛い粒点ではなく、もっと荒々しいひび割れに近い粒点ですので、もしかして違う組織で作られているのでは?
と思って検鏡してみました。

流石キンチャヤマイグチですね、、ほぼ表面が褐色に覆われています(笑)。
まぁこれは切片を作ったところが粒点の塊だったところだと考えていいと思いますので、この様な写真になったと思われますが、良くて見ますと褐色の部分は何かの組織で出来ている様に見えますね。
では少し拡大してみましょう。

沢山のシスチジアらしきものが見えますでしょうか?
柄自体は縦に延びる菌糸で作られていますが、柄の表面は横に伸びる無数の菌糸と褐色の色素を持ったシスチジアで形成されているのです。
これは大阪産のヤマイグチと同じ構造(数が違うが)だと考えて良いかと思います。
柄の粒点は何故存在するのか?

これは恐らくスミゾメヤマイグチというやつかもしれませんが、この写真があるだけなのでこれ以上は難しいですね。
こいつらは結構柄の表面の粒点は色が黒く、密集してはいるものの、一つ一つはそんなに大きくありません。ですので、検鏡してみるときっと大阪産のヤマイグチと同じ構造なのではないか?と推測しています。
そんなヤマイグチの仲間ですが、一つ大きな疑問があります。
この粒点は何由来なのでしょうか?
例えばイッポンシメジ属のキノコを観察しているとヒダの縁部にある縁シスチジアと柄の所々に付着している様に存在する柄シスチジアが同じ形態のものが存在するのです。
例えばこれ、滋賀で発見したイッポンシメジ属です。

ヒダにはくっきりとフチドリがあり、それを顕微鏡で観察するとシスチジアであることがわかります。

そして柄の方にもササクレ状になった濃い紫色の組織が付着しているのがわかります。
これは顕微鏡で視ると以下の様な構造になっています。

柄の菌糸組織から反り返る様に柄シスチジアが存在します。
これはヒダの縁取りと形成している紫色の組織、つまり縁シスチジアと同じものであると考えて良いと思います。
これらはヒダが作られていく際に柄に存在している組織(シスチジア)が傘のヒダに付着している
という事を証明していると考えて良いでしょう。
しかし、、、
実はヤマイグチの柄シスチジアの中に意外なものを見つけてしまったのです。
それはこれです。

分かりますか?
この写真の中央に3つの胞子(正確には4つ?)を付けた組織がありますね。
もう少し拡大してみましょう。

分かりましたでしょうか?
言わずと知れた担子器ですね。
しかもちゃんと胞子までステリグマの先で作っています。
ここから推察できることは
胞子は管孔だけで作るのではなく、柄でも作ることが出来るのではないか?
もしくは
管孔を作っている細胞が柄に付着してシスチジアや担子器を形成している?
のか、どちらかであろう。
ヒダ(管孔)と柄の関係性はイッポンシメジ属などの例もある通り「地続き」であると考えられるのだが、しかしヤマイグチの写真を探っているとこんなのが出てきたりする。

2024年に北海道で見つけたキンチャヤマイグチである。
これの傘に注目してみてください。
柄には黒い粒点が沢山付着しておりますが、傘というのはまだまったく開いておらず、辛うじて傘になっていくであろうものが形成されている、という感じである。
この状態から察するにヒダ(管孔)と柄は地続きとは言い難い。
むしろ
傘とは無関係に黒いシスチジアをまとった柄が作られて、それが成長していくに従いシスチジアが分断されて粒点となっていく
という様が見て取れる。
すなわち先ほどの推測で言うと以下の様な結論になる。
胞子は管孔だけで作るのではなく、柄でも作ることが出来る
ただ、それはメインの胞子製造方法ではなく、たまたまシスチジアの作成過程で担子器が出来てしまったものかもしれません。
ただ分かったことは
柄の粒点(シスチジア)は柄の形成過程で存在し、そこには胞子を作り出すことが出来る担子器も稀に含まれている。
また、その粒点は子実体が成長すると共に分断され、やがて「点」として残っていく。
幼菌の頃はこの粒点に柄が覆われていた、と考えるなら未成熟な柄の表面組織を保護する役割なのかもしれませんね。

