2018年中国で新種記載されたテングタケ属の紹介(6)
2025年のキノコ活動(いわゆる菌活)を振り返れば「テングタケの年」だったと言っても過言ではありません。ある研究者さんにテングタケ属のキノコが見つかれば標本を送り、少しだけその結果をお聞きして「あぁ、やはりこんなにも日本で未報告のものが多いのかぁ、、」と驚いたり、嘆息したり。
そんな日々の中、もっとも参考にしたのが2018年に中国から発表された論文であります。
ResearchGateからダウンロードすれば全文読めるので、興味ある人は読んでみて下さい。
内容はというと、主に中国で採取することが出来たテングタケ科(Amanitaceae)のキノコを包括的に分子系統解析して、判明した内容を整理して掲載したものですね。
この論文の中では中国産のテングタケ科のキノコが162種も掲載されています。
まるで図鑑ですな(笑)。
この162種の中には既知種も含まれているのですが、驚くことに50種の新種も含まれています。それらは写真なども貼り付けられておりますので、日本の既知種などと比較して
「もしかしてこの不明種はこいつではないか?」
とか
「この種だと思っていたんだけど、もしかしてこちらでは?」
などを考えたり、わいわい討論するきっかけになれば良いのでは?と思っています。
それでは新種記載(またはそれに準ずる)キノコたちの紹介をしたいと思います。
※ちなみにここで貼り付けている写真は全て論文からの引用となります。
Strobiliformes節、キリンタケ節(Validae)、Lepidella節の仲間たち
まずは節のお話から。
Strobiliformes節というのはあまりなじみが無い節ですが、iNaturalistで調べてみると数は多くないですがいくつかの種があります。
https://www.inaturalist.org/taxa/1142623-Strobiliformes
この中で唯一和名が併記されているものがありますね。
「マツカサモドキ」
マツカサキノコモドキの方が馴染みがありますが、マツカサモドキというのは亜属の名前にもなっているとても大きな名前なのです(マツカサモドキ亜属 Amanitina)。
とは言っても、今までマツカサモドキと言うキノコを見た人がいるでしょうか?
いないですよね?
マツカサモドキというキノコは別名ウロコテングタケと言うそうですが、これだと「お!」と思った方は多いかもしれません。そう「キウロコテングタケ」です。
ウロコテングタケという名称はあまり聞いたことが無いですが、キウロコテングタケという名称はたまに目にしますし、僕自身東北に行った際に一度それらしきものを見たことがあります。
ただし、キウロコテングタケは現在Roanokenses節に含まれているのでStrobiliformes節とは異なります。
そしてみんな大好きキリンタケ節(Validae)です。
この中でキリンタケ節のものはd~nとなります。
a~bなどはキリンタケ節のものに見えちゃいますが、これはStrobiliformes節となるようです。
簡単ですが、Strobiliformes節とValidae節の違いを整理しますとStrobiliformes節は傘の周辺に内皮膜の被膜片がありますが、Validae節にはそれがありません。
またStrobiliformes節は柄の基部が紡錘状〜カブラ状であり、根状に伸びる特徴を持っていますが、Validae節は球形〜亜球形であり柄の基部の膨らみの境界が、段差や縁取りのようにはっきりしているということです。
最後にLepidella節という聞きなれない節ですが、最後の写真 o のものがそれだそうで、学名はAmanita flavofloccosa となっています。
これはキワタゲテングタケのことで、新種ではないはずですが(Nagas. & Hongo 1984)何故かここに乗っております。
ただ写真を見ても分かる通り「黄色」ではありません。
ただ、記載には「黄みがかった茶色」「淡い黄褐色」「オレンジ黄色」とあるので色の変異はそこそこあるのでしょう。

Fresh basidiomata of novel species in Amanita sect. Strobiliformes,
A. sect. Validae and A. sect. Lepidella.
- a–b Amanita aspericeps (a TYPE, HKAS 77783, b HKAS 77677)
- c Amanita cinereoradicata(TYPE, HKAS 63641)
- d–e Amanita brunneolimbata (d TYPE, HKAS78459, e HKAS 78438)
- f–g Amanita citrinoannulata (TYPE, HKAS83459)
- h–i Amanita citrinoindusiata (TYPE, HKAS 100522)
- j Amanita detersa (TYPE, HKAS 71476)
- k–l Amanita flavosquamosa (k TYPE, HKAS83080, l HKAS 83692)
- m Amanita innatifibrilla (TYPE, HKAS 60296)
- n Amanita parvifritillaria (TYPE, HKAS 83737)
- o Amanita flavofloccosa (HKAS92006)
それでは1つずつ見ていきましょう。
Amanita aspericeps Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
さて、これ一見すると上でも書いたようにキリンタケ節か?と思ってしまうのですが、傘の縁に内皮膜の跡がぶら下がっているところや柄の基部が紡錘状に膨らんでいる点などからStrobiliformes節なんでしょうね。
以前僕が「キリンタケとは何ものなのか?」という記事の中に出てくる写真のものとかに似ている気がするのですが、これはDNAを調べるとテングタケモドキ(Amanita sepiacea)となっています。
ただGenbankに載っているAmanita sepiacea自体がまだ正しいものかどうかわかっていないので、あくまでも「疑い」レベルなんですよね。
学名の asperi-:ラテン語 asper(= 粗い・ざらざらした)に由来
-ceps:ラテン語 caput(= 頭・頭部)に由来し、菌類の命名では傘(pileus)を指すことが多い
全体として「粗い頭(傘)を持つ」を意味し、傘表面を覆う灰色のいぼ状突起の粗い質感を端的に表した命名
「識別形質」
- 子実体:中型〜大型
- 傘:汚白色〜灰色、灰色いぼ(頂部は白色〜白みがかる)に覆われる
- つば:亜頂生
- 柄基部:膨大形、下部がわずかに根状に延びる
- 担子胞子:広楕円形・楕円形〜細長い、8.0–11.0 × 5.0–7.0 µm
- クランプ:欠如
- 生育環境:ブナ科優占の亜熱帯林(マツ科混交林も含む)
Amanita cinereoradicata Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
写真が c の一枚しかなく、しかも傘の上の写真する無いという、、、(;´Д`)
記載によると Amanita aspericeps と近縁だそうで、柄の上部に位置するツバ、そして柄の基部などは Amanita aspericeps と似ている様に見えますね。
学名 cinereo-:ラテン語 cinereus(= 灰色の・灰の色をした、cinis「灰」に由来)を指し、傘および暗灰色のツボ残片の色を表す
radicata:ラテン語 radicatus(= 根を持つ・根状に延びる、radix「根」に由来)に由来し、柄基部が根状に地中へ延びる特徴を表す
全体として「灰色で根状の柄基部を持つ」を意味し、本種の最も顕著な2つの識別形質を組み合わせた命名
「識別形質」
- 子実体:大型
- 傘:灰色〜灰褐色、いぼ状・綿毛状〜フェルト状の暗灰色ツボ残片に覆われる
- 柄基部:膨大形、根状に延びる(radicating)
- 担子胞子:楕円形〜細長い、9.5–11.5 × 5.5–7.0 µm
- クランプ:欠如
- 生育環境:Abies または Picea との共生、亜高山帯林
Amanita brunneolimbata Zhu L. Yang, Yang-Yang Cui & Qing Cai, sp. nov.
ここからがキリンタケ節(Validae)になります。
このキノコ、傘がやや黒っぽく、柄の基部がぷくりと膨らんでいて論文にも書かれていますがクロコタマゴテングタケに良く似ておりますね。
しかしクロコタマゴテングタケはツバが黄色味を帯びていたり、傘の中央が臍状突起になっていないなどで区別できるようです。
「学名」
brunnео-:中世ラテン語・古フランス語 brun(= 褐色の・茶色の)に由来し、傘および基部球根の縁の褐色を表す。
-limbata:ラテン語 limbus(= 縁・ふち・縁取り)に由来する形容詞形で「縁取りのある」を意味し、基部球根が縦に裂けて形成する短い褐色の縁状構造を指す。
全体として「褐色の縁取りを持つ」を意味し、本種の最も特徴的な識別形質である基部球根の縁状構造を端的に表した命名。
「識別形質」
傘:褐色、中央部にしばしば臍状突起あり
柄:白色、しばしば赤みを帯びる
柄基部:しばしば縦に裂け、短い褐色の縁(limb)を形成
担子胞子:球形〜亜球形、7.0–9.0 × 7.0–8.5 µm(ほぼ等径)
生育環境:主に広葉樹と共生
Amanita citrinoannulata Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
さて、これが最近よく目にするガンタケと同じように傷つけたら赤くなるヘビキノコモドキに若干似ているキノコである。
ミドリガンタケと名づけられているものと同じかもしれないが、これ、ガンタケよりもヘビキノコモドキの方に良く似ていると僕は思っている。
論文内ではヨーロッパのAmanita spissaと遺伝的に近縁と書かれています。
「学名」
citrino-:ラテン語 citrinus(= レモン色の・黄緑色の、citrus「シトロン」に由来)を指し、つばの鮮やかな黄緑色を表す
-annulata:ラテン語 annulus(= 輪・リング、すなわちつば)に由来する形容詞形で「つばを持つ」を意味する
全体として「黄緑色のつばを持つ」を意味し、本種の識別に重要なつばの特徴的な色彩を端的に表した命名
「識別形質」
子実体:小型〜中型
傘:褐色〜灰褐色、オリーブ色を帯びる;色調は黄色〜暗褐色まで可変
柄表面(つばより上):黄色い蛇皮模様の鱗片(本種の最も顕著な識別点)
柄基部:楕円形・膨大形〜亜球形、綿毛状の黄色いツボ残片に覆われる
つば:中位、黄緑色(citrine)
担子胞子:広楕円形〜楕円形、7.0–9.5 × 5.5–7.0 µm
変色反応:傷つけると子実体全体が赤色〜桃色に変色
Amanita citrinoindusiata Zhu L. Yang, Yang-Yang Cui & Qing Cai, sp. nov.
写真では前回出ている Amanita citrinoannulata とそっくりであるが、やはりこちらもヘビキノコモドキ(Amanita spissacea)と似ていて、実際論文では Amanita spissacea S. Imai と分子系統解析では近縁だと書かれている。
A. citrinoannulata と同じように黄色いツバを有しているのが特徴で、もしかすると A. citrinoannulata と思っているものは A. citrinoindusiata である可能性もあるかもなぁ、、と思っているがどうだろう?
※ミドリガンタケと呼ばれているものは青森県産のものらしいので、もしかしてもしかする?
「学名」
citrino-:ラテン語 citrinus(= レモン色の・黄緑色の)に由来し、つばの黄緑色〜黄色を表す
-indusiata:ラテン語 indusium(= 下着・肌着・覆い)に由来する形容詞形で「(膜状の)覆いを持つ」を意味し、つば(annulus)の膜状構造を指す
全体として「黄緑色の膜状つばを持つ」を意味し、A. citrinoannulata と同様につばの色彩を命名の主軸に据えた姉妹的な命名
「識別形質」
子実体:頑丈、褐灰色〜灰色〜暗灰色
つば:黄緑色〜黄色(本種の重要な識別点)
担子胞子:亜球形〜広楕円形、8.0–10.0 × 7.0–9.0 µm(比較的等径)
分布:中国南西部の亜高山帯に限定
Amanita flavosquamosa Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
これの特徴はどこから見ても「黄色いイボ」ですよね?
日本産で黄色いイボというとコガネテングタケ(Amanita flavipes)やヒメテングタケ(Amanita sp.)と仮称で呼ばれているもの、あとはイボコガネテングタケ(Amanita pseudogemmata Hongo)などをあげることが出来ますが、論文中ではコガネテングタケ(Amanita flavipes)の比較が書かれています。
違いは「黄色みの強い子実体と、わずかに細長い担子胞子」だそうで、確かに長野県で初めて見たものは全体に黄色味を帯びた子実体でありました。
しかし、ネット上を彷徨っていると子実体が黄色味を帯びていない(イボだけが黄色い)ものもあったりするので、それなんかはもしかしてA. flavosquamosa なのでは?と思っている。
「学名」
flavo-:ラテン語 flavus(= 黄色い・黄金色の)に由来し、ツボ残片およびつば縁部の鮮やかな黄色を表す
-squamosa:ラテン語 squama(= 鱗・鱗片)に由来する形容詞形で「鱗片に覆われた」を意味し、傘および柄を覆うツボ残片の鱗片状構造を指す
全体として「黄色い鱗片を持つ」を意味し、本種の最も顕著な識別形質である黄色いツボ残片の特徴を端的に表した命名
「識別形質」
傘:褐色、いぼ状・亜円錐形〜フェルト状の黄色いツボ残片に覆われる
つば:汚白色〜灰色、縁が綿毛状の黄色
柄基部:球形、上部に綿毛状〜粉状の褐色〜黄色ツボ残片
担子胞子:亜球形、7.5–9.0 × 6.5–8.0 µm(比較的等径)
生育環境:主に広葉樹林
Amanita innatifibrilla Zhu L. Yang ex Zhu L. Yang, Yang-Yang Cui & Qing Cai, sp. nov.
写真の様なAmanitaはあまり見たことがないですね。
論文では「多遺伝子座系統解析では A. innatifibrilla と近縁な種は検出されなかった」と書かれいますので、DNAに於いても似ているものは無い様です。
あと以下のキノコ達と比較されていますが、これらは日本ではまだ未報告の種です。
Amanita pilosella
Amanita demissa
A. fritillaria f. malayensis
「学名」
innati-:ラテン語 innatus(= 生まれながらの・内部に生じた、in-「中に」+ natus「生まれた」)に由来し、傘表面に組み込まれた繊維(内生繊維)を表す
-fibrilla:ラテン語 fibrilla(= 細い繊維・小繊維、fibra「繊維」の縮小形)に由来する
全体として「内生する細繊維を持つ」を意味し、傘表面の内生繊維という本種の最も顕著な識別形質を端的に表した命名
「識別形質」
子実体:小型
傘:灰色、内生繊維あり、ツボ残片なし
つば:灰色、中位
担子胞子:亜球形〜広楕円形、7.0–8.0 × 6.0–7.0 µm(比較的等径)
クランプ連結:欠如
生育環境:熱帯〜亜熱帯広葉樹林(推定)
Amanita parvifritillaria Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
これもまったく見た覚えがありませんね。強いて言えばひとつ前の Amanita innatifibrilla に似ている様に見えますが、どうなのでしょう?
これも「多遺伝子座系統解析では A. innatifibrilla と近縁な種は検出されなかった」と書かれいますので、DNAに於いても似ているものは無い様です。
また論文内ではヘビキノコモドキ(Amanita spissasea) とその傘のイボの形状に於いて比較されています。しかしヘビキノコモドキの方は大型で柄が灰色で暗灰色鱗片があり、つばが灰色、また傘のツボ残片がよりフェルト状なので区別できるようです。
「学名」
parvi-:ラテン語 parvus(= 小さい)に由来し、本種が極小〜小型の子実体を持つことを表す
-fritillaria:既存種 A. fritillaria を指す。fritillaria 自体はラテン語 fritillus(= サイコロ箱・升目模様の容器)に由来し、傘上の格子状・升目状の模様を持つバイモ属(Fritillaria)の植物名から転用されたもので、傘上の鱗片模様を示唆する
全体として「小型の fritillaria」を意味し、A. fritillaria に形態的に類似した小型種であることを端的に表した命名
「識別形質」
子実体:極小〜小型
傘:灰色、角錐形〜円錐形の灰色〜褐色の鱗片が密に覆う
柄:汚白色〜灰色がかった淡色、無毛または鱗片が不明瞭
担子胞子:亜球形〜広楕円形、7.0–9.0 × 6.0–8.0 µm(比較的等径)
Amanita flavofloccosa Nagas. & Hongo, Trans
なぜかこれだけが新種ではない(笑)
1985年に長澤先生や本郷先生らによって記載されたキワタゲテングタケである。
ただIndex Fungorumなどを検索するとAmanita flavofloccosaではなく、Current Name はSaproamanita flavofloccosa となっています。
2016年に転属されたのでしょうか?
しかしこの論文では依然 Amanita flavofloccosa として載っているので(この論文は2018年)、どうなのだろうなぁ、、と思いながら書いております。
実はこのキノコ、未だ見れていないのですが、前に一度菌友と神戸にキノコ散策に行ったのだが、帰り道が違ったので途中で分かれ、菌友が下りて行った道でこいつを発見したというとっても悔しいエピソードがあるのですな。
また、こいつの粉を吸い込んだらくちゃみが止まらなくなる、という「噂」がある面白いキノコでもあります。
「学名」
flavo-:ラテン語 flavus(= 黄色い・黄金色の)に由来し、傘・柄・ツボ残片全体の黄色〜橙黄色の色調を表す
-floccosa:ラテン語 floccus(= 羊毛の房・綿毛)に由来する形容詞形で「綿毛状の」を意味し、傘表面および柄を覆うツボ残片・鱗片の綿毛状の質感を指す
全体として「黄色い綿毛を持つ」を意味し、本種の最も目立つ識別形質である黄色の綿毛状ツボ残片と鱗片を端的に表した命名
「識別形質」
傘:黄褐色〜橙黄色、粉状・綿毛状〜円錐形の黄褐色〜橙黄色ツボ残片に覆われる
肉質:白色、傷つけると黄色に変色
柄:黄色みがかった色、綿毛状の褐黄色〜橙黄色鱗片が密に覆う
柄基部:狭棍棒形
担子胞子:球形・亜球形〜広楕円形、6.5–8.5 × 6.0–8.0 µm(比較的等径)
クランプ連結:普遍的に存在

