キチャコタマゴテングタケを分解する

2025.10.18 大阪


ある事情があって今年はテングタケ属の仲間を集中的に探していたのですが、丁寧に探して検討していくとテングタケの仲間にもかなり「なんじゃこりゃ?」というやつに出会う。
もちろん、これは「○○テングタケだろうな」とある程度分かるやつがほとんどなのだが、中には確かに似てるものもあるんだけど、言語化できない強烈な違和感があるものが出てくるのですな。

特に札幌合宿に行ったときには、テングの鬼とえめち君などが「謎キリン」と呼んでいるものとか、ヘビキノコモドキに似てはいるもののこちらのものと比べて違和感ありありのものが存在し、テングタケの深淵を見た気がしたものだ。

そして今年の10月。
いつも行く公園を散策していたら、謎のテングタケ属を見つけた。
いや、その時思ったのは「コタマゴテングタケだよね?」でした。

「コタマゴテングタケ」の典型的な特徴を3つ挙げるとこんな感じ。

  1. 全体が白色で少しだけ黄色味がかっている
  2. かなり華奢
  3. 柄の基部がコンパクトにもっこり膨れている

これらの特徴から判断すると1の特徴だけはどうしても異なる。
さて、またも不明種が増えた・・・
と思って、家に帰って「そう言えば!」と思い出したことがあって調べてみて、「これだ!」となったものがあった。

キチャコタマゴテングタケとは?


2025.10.18 大阪

「キチャコタマゴテングタケ」という名前をご存じでしょうか?

実は2025年の3月に発表されたてホヤホヤの和名なのです。
主著者は遠藤直樹さん。
と言えば?
そう、タマゴタケの元の学名 Amanita hemibapha を現在の学名 Amanita caesareoides に変更された方であり、もっと最近で言えばキタマゴタケ(Amanita kitamagotake)とチャタマゴタケ(Amanita chatamagotake)を新種記載された方なのです。

その遠藤さんが記載された論文がこれです。

A new record of Amanita sinocitrina from Japan and a description of its ectomycorrhizae associated with Japanese red pine
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mycosci/66/2/66_MYC664/_article/-char/ja

日本語で言うと
「日本における Amanita sinocitrina の新記録と、アカマツと形成する外生菌根の記載」
という事になる。

この論文の中で Amanita sinocitrina という中国で記載されたテングタケ属のキノコに対して、日本新産種として「キチャコタマゴテングタケ」と命名されているのですね。

それではそれでは、キチャコタマゴテングタケの記載を見てみましょう。
これは上記論文の特徴の記載部をChatGPTで翻訳してもらいました。

大分類 小分類 特徴
子実体(Basidiomata) 大きさ・形状
小〜中型。全体にかけて比較的コンパクト。
傘(Pileus) 直径 20–65 mm。
  形状
半球形からほぼ平ら(凸状〜扁平)。
 
中央は黄色〜暗黄色〜淡褐色。周縁に向かって淡くなる。傷つくと淡紫褐色。
  表面構造
不明瞭な放射状の繊維あり。
  普遍膜残片
1–6 mm幅、フェルト状〜粉状、白〜淡褐色または淡紫褐色。
ひだ(Lamellae) 幅・接続
2.5–4.5 mm幅、離生。
  白〜鈍白色。
柄(Stipe) 大きさ
長さ35–100 mm、幅4–13 mm。
  形状
円柱状〜上方にやや細くなる。
 
白〜鈍白色、時に淡鈍黄色。傷つくと淡紫褐色〜赤褐色。
ツバ(Annulus) 位置・形状
柄の上方にスカート状。
  白〜黄色。
基部(Basal bulb) 大きさ
11–26 × 9–26 mm、球形。
 
白〜鈍白色。傷つくと淡紫褐色〜赤褐色。
におい・味 におい
ジャガイモ様。
  温和。
担子胞子(Basidiospores) 大きさ・形
(5.0–)6.1–7.3(–8.9) × (4.6–)5.7–6.7(–8.7) μm、球形〜亜球形、まれに広楕円形。
  反応・構造
アミロイド、平滑、薄壁、1〜数個の油滴を含む。
  無色。
担子器(Basidia) 大きさ・形
(24.7–)29.5–36.5(–45.2) × (6.7–)8.1–9.5(–11.2) μm、こん棒形。
  内容
1〜数個の油滴を含み、4胞子性。
  ステリグマ
(1.5–)2.1–4.3(–6.5) μm。
  クランプ
基部隔壁にクランプなし。
ひだ縁(Lamellar edge) 組成
球形〜卵形の膨張細胞、単独または2–3個連鎖。
亜子実層(Subhymenium) 厚さ・構造
40–58 μm、球形〜亜球形細胞で構成。
ひだ実質(Lamellar trama)
二層性。中層部幅33–44 μm。
  細胞
直径1.5–9.5 μmの平滑・薄壁・無色菌糸。
傘表皮(Pileipellis) 厚さ
50–80 μm、二層構造、上層が強くゼラチン化。
普遍膜(Universal veil, 傘部) 構成
菌糸と膨張細胞(球形〜亜球形、薄〜やや厚壁、淡褐色色素を含む)。
基部の普遍膜(Basal bulb veil) 細胞
球形〜亜球形、やや厚壁、淡褐色色素を含む。
ツバの組織(Annulus tissue) 細胞
楕円形〜円柱状、薄〜やや厚壁、無色。
クランプ結合(Clamp connections) 存否
全組織で欠如。
生育環境(Habitat) 分布
日本(茨城・宮城・長野・鳥取)および中国。温帯〜亜熱帯域。
  発生時期
日本:秋(9–11月)、中国:春〜秋(4–9月)。
  生育地
マツ・コナラ・クマシデ・カラマツなどの混交林地上。特にマツ林に多い。

キチャコタマゴテングタケを検証してみる

顕微鏡:OLYMPUS BH-2
対物レンズ:SPlanAPO 40
検鏡方法:生標本を水封(KOHは未使用)
試薬:コンゴーレッド、メルツアー(胞子のアミロイドを視る際のみ)
胞子計測:PhotoRouler Ver1.1.3

発見時の写真(Fig.1)
帰ってからの白バック写真(全体)

傘(Pileus):径 3.2cm。ややまんじゅう型。全体にやや黄色味を帯びているが、時間が経つと黄色味が消失する。傘中央がやや褐色を帯び、周辺は淡い色になる。条線、条溝線などは見られない。採取時には淡褐色の膜状の鱗片が付着。

帰ってからの白バック写真(柄)

柄(Stipe):大きさ6.5cm x 4mm。上下ほぼ同径だが上部でやや細まる。色はぼぼ白色。最下部はやや紫味を帯びる(これは触れたから?)。平滑。
ツボ(Basal bulb):大きさ 1.2cm。 球形。やや淡紫色に変色している。
ツバ(Annulus):柄の上部に膜質で黄色味を帯びたツバがある。スカート状。

帰ってからの白バック写真(ヒダ)

ヒダ(Lamellae):やや密。柄に離生。小ヒダあり。白色。ヒダの縁部がややギザギザしている。

担子胞子

担子胞子(Basidiospores):大きさ (5.6–)6.2–7.2(–8.1) × (5.2–)5.7–6.4(–6.8) μm。 球形から類球形。アミロイド。複数個の油滴を含む事が多い。

担子器

担子器(Basidia):大きさ (30.5–)31.8–39.8(–42.8) × (7.6–)8.3–9.9(–10.3) μm。棍棒形。1,2個の油滴を含む。4胞子性。

考察

キチャコタマゴテングタケを見るのも初めてですし、ネット上にも「キチャコタマゴテングタケ」でアップされたものはない。ただし、Twitter上では結構ざわざわしており、実は「栃木のきのこ新図鑑」で記載されているコタマゴテングタケの2枚目の写真のものはキチャコタマゴテングタケではないか?との話がある(記載者の遠藤さんのご指摘)。

ということで、実は以前からも見つかっていて

  • 謎のアマニタ扱い
  • コタマゴテングタケと誤認
  • クロコタマゴテングタケと誤認

されていたのではないか?と考えています。

僕も最初に発見した時は傘がやや黄色味がかっていて、ツボがコタマゴテングタケ型であったので、てっきりコタマゴテングタケだとばかり思っていたのですが(発見時の写真 Fig.1参照)、傘の中央が褐色を帯びていたので、もしかして別のものかも・・・と考えました(こういうの良くあるので)。

そして色々考えた結果、今年発表された論文の事を思い出し、そして図々しくも記載者ご本人(遠藤さん)にTwitterのメッセージでお聞きしたのでした (#^.^#)
そうしたら、一応「合ってると思います」とのお墨付きを頂きましたので、今回詳しく検証し、記事にしてみました。

検証の結果、肉眼的な特徴や、顕微鏡的特徴もほぼ合致しているのでキチャコタマゴテングタケで大丈夫だと思います。

皆さん!!キチャコタマゴテングタケ をこれからちゃんと認識しましょうね!(#^.^#)

そして、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
遠藤様、どうも有難うございました。

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