カキシメジ論文を分解する(さまよえるマツシメジ)

マツシメジ 写真提供:青木さん

マツシメジに関する記述として本郷先生が原色日本新菌類図鑑でこう書かれている。

一般に広葉樹林のものをカキシメジ、針葉樹林のものをマツシメジ(下記のマツシメジとは別)と呼んでいるようであるが、両者は形態的にも毒性上からも区別できない。しかし九州には無毒の系統があって、一部の人たちの間で食用とされている

日本新菌類図鑑 p.79 カキシメジ

さて上記引用の中に「下記のマツシメジ」と書かれているのがポイントで、一般で言われているマツシメジと学術的なマツシメジとは異なる、ということです。
では学術的なマツシメジとは以下のようなものです。

カキシメジに似るが、傘の表面は繊維状で、柄の白い上部と赤褐色との境界がしっかりとしており、また針葉樹林(マツ)に発生するなどの点で区別される。
北海道で知られている。T. alboburunneum (Pers. : Fr) Kummer という学名が用いられることもある。

日本新菌類図鑑 p.79 カキシメジ

僕自身は「マツシメジ」というものを、探しに行ったこともありませんし、見たこともありません。なので、当然カキシメジの仲間を食べる、、などということを想像するだけで遠慮したい気持ちになるのですが、どうもマツシメジを食べるという文化がある地方(鳥取など)では「マツ林に発生するカキシメジをマツシメジと呼んで食べている」地域があるらしく、これを「カキシメジであり、毒なのですよ」と指摘すると抗議を受けるそうです(鳥取のN島さん談)。

ここでいう「マツシメジ」は一般で言う「マツシメジ」であり、学術的なマツシメジではないのでしょうね、、ややこしい。

ということで、その争い(?)に決着をつけるべく、前回のカキシメジ論文と同じ主著者である青木渉さんが記載した論文が2024年に公開されたこの論文です。

「Two new Tricholoma species in the sect. Genuina from pine forests in Japan」
和名タイトル:日本の松林におけるGenuina節のキシメジ属の2新種

2021年の論文をカキシメジ論文だとしたら、この論文はさしずめマツシメジ論文というところでしょうか?実は2021年の論文でもマツシメジ(T. alboburunneum)のことは記載されていたのですが、2024年の論文で再検証され、マツシメジは新種記載され Tricholoma matsushimeji となりました。また同時に、分子系統解析で少しクレードが異なる利尻島でハイマツの低木の下で採集されたものをミヤママツシメジ(Tricholoma miyama-matushimeji)として新種記載されたのです。

マツシメジ(Tricholoma matsushimeji)

大分類 小分類
特徴
最初は饅頭型で、後に平坦になる。成熟すると縁は巻き込み、平坦になる
 
赤褐色で、中央は暗褐色、縁はより淡い色調
  表面
本来繊維質で、縁は繊維質で条線状になる
  粘性
湿潤時粘性がある
白色から淡褐色
 
円筒形から基部に向かってわずかに細くなる
  中空
中空または髄がある
  表面 頂部は粉状
ヒダ 白色
  疎密
  柄に 湾生
  その他
後に明確な褐色の染みを帯びる
白色
  厚み 厚い
  試薬
グアヤク試験陰性
  匂い 粉臭
 
かさの表面はわずかに苦味があり、肉はまろやか
胞子 大きさ
4.5–4.9–5.7 × 3.1–3.5–3.9 µm
  Q値 Q = 1.3–1.4–1.5
 
楕円形から広楕円形
  その他
新鮮な材料では単一の大きな透明な細胞内油滴がある
担子器 大きさ
23.1–26.0–27.9 × 4.9–5.5–6.3 µm
 
棍棒形から円筒形
  胞子性 4胞子性
  油滴
新鮮な材料ではいくつかの透明な細胞内油滴がある
  アミロイド反応 非アミロイド
  クランプ 観察されない
小柄 大きさ
2.4–3.1–3.8 × 0.9–1.3–1.5 µm。
傘表皮 形態
粘液性皮膚組織から粘液性毛状被覆組織
  菌糸の大きさ
49.4–61.3–72.9 × 4.6–5.2–5.8 µm
  菌糸の形 円筒形
  細胞内 褐色色素がある
  クランプ なし
柄表皮 形態 皮膚組織
  菌糸の大きさ
31.3–53.6–82.5 × 5.0–6.7–9.6 µm (TUA-127)
  菌糸色 透明から淡褐色
  菌糸表面 平滑
  菌糸の形 円筒形
  クランプ なし
生態 樹種
温帯域の海岸砂地や内陸山岳地帯に生育する二葉マツ(クロマツおよびアカマツ)の下に特異的に子実体を形成
  発生時期
9月から12月、まれに6月

マツシメジを見分けるには「傘の縁に条線がある」というのがもっとも有力な特徴の様です。
ただし、幼菌などではなかなか条線が見れない場合もありますし、傘の縁が内側に巻いている子実体もあったりします。
そういう場合は傘が開いた成菌を確認する必要がありますね。
また、二葉マツ(クロマツやアカマツ)の樹下でしか発生しませんので、それもマツシメジを判定する大きな特徴となるでしょう。
その他、傘の赤みが強いとか柄が褐色味を帯びているとかの特徴はあるようですが、他のカキシメジの仲間との決定的な違いとは言えないようです。

ミヤママツシメジ(Tricholoma miyama-matsushimeji)

大分類 小分類
特徴
平坦から饅頭型。縁は波打つ
 
中央は褐色、縁は淡褐色
  表面
平滑から本来繊維質で、わずかに条線状であるか、または条線がない
  粘性 湿潤時粘性
白色から淡褐色
  表面 頂部は粉状
白色
  疎密
  柄に 湾生
  その他
後に褐色を帯びる
胞子 大きさ
3.7–4.6–5.9 × 2.7–3.3–4.3 µm
  Q値 1.1–1.4–1.7
 
楕円形から主に楕円形
担子器 大きさ
23.0–27.1–34.1 × 5.3–6.3–7.5 µm
 
棍棒形から円筒形
  胞子性
2胞子性または4胞子性
  アミロイド 非アミロイド
  クランプ 観察されない
小柄 大きさ
1.9–3.6–5.5 × 1.1–1.5–1.8 µm。
傘表皮 組織
粘液性皮膚組織から粘液性毛状被覆組織
  菌糸の大きさ
28.6–60.3–124.6 × 3.3–5.1–9.0 µm
  菌糸の形 円筒形
  色素
細胞内褐色色素あり
  クランプ なし
生態 季節
  樹種
ハイマツの低木の下

ミヤママツシメジに置きましては、現在ハイマツと特異的に共生しているため一般的にはほとんど目にすることはないでしょう。
また現在この種は利尻島のみで発見されているとのことですので、利尻島に行った際にハイマツ樹下でカキシメジらしいキノコを見つけた際は「これはミヤママツシメジかも?」と疑ってください!!(#^.^#)

またマツシメジとミヤママツシメジはDNA的にもかなり近いそうなので将来両種は同種になる可能性もあるとのこと。

マツシメジ、食べられるのか、食べられないのか、それが問題だ

マツシメジ 写真提供:青木さん

前述のN島さんの話で、

「マツ林に発生するカキシメジをマツシメジと呼んで食べている」地域があるらしく、これを「カキシメジであり、毒なのですよ」と指摘すると抗議を受ける

という件。
これはとてもとても危険な事です。
論文によると

  • カキシメジ(Tricholoma kakishimeji)にはウスタル酸が含まれる
  • マツシメジ(Trichoroma matsushimeji)にはウスタル酸は含まれていない

というのが分かっていますので今のところカキシメジは毒キノコであり、マツシメジは毒キノコではない(少なくともウスタル酸を含んでいない)、ということになります。
が、しかし

マツ林に発生するものは全てマツシメジなのか?

という疑問があります。
前回のカキシメジの記事を見ていただきたい。
「カキシメジ論文を分解する(本物のカキシメジとはどれなのか?)」
https://kinokobito.com/archives/10663

この中でカキシメジの宿主として「マツ科」というものがありますので、マツ林に発生しているからと言ってそれがマツシメジである、とは言えません。
また、青木さんの実験でもカキシメジがアカマツ根に菌根が形成されるということが確かめられています。
※In vitro host relationships of ectomycorrhizal Tricholoma kakishimeji and closely related species reflect their habitat characteristics

ですのでマツ林で発生しているものでもまずは「カキシメジではないか?」というのを疑ってかかる必要があると思われます。

とはいえ、

「昔からこの地域のマツ林で発生しているマツシメジをワシは食べとる」

という方がおられるとすれば、恐らく採って食べているそのカキシメジ似のキノコはマツシメジなのでしょう。

カキシメジの毒成分(ウスタル酸)は若いうちは傘の周辺部などに多く、上手く毒抜きして食べられているのかもしれませんが、たぶんそこまではされていないでしょう。
ですのでもし他の地域で「マツ林に発生しているのはマツシメジだから食べられる」と思われた方は、マツシメジの最大の特徴でもある「傘の条線」は確認することが大事だと思われます。

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