謎ザラミノシメジ図鑑(コザラミノシメジ近縁種)

Fig.1 2025.4.29 大阪

5月に近づいてきたら「もうそろそろ」というぞわぞわした感情が込みあげてくる。

この「もうそろそろ」とは

「ウッドチップ上に沢山のキノコが出てくるので見に行かないとあかんよなぁ~」

という「もうそろそろ」である。分かるかな?(わかるかい! w)
そして菌友達から「行ってきてこんなのをみつけましたー」という報告が続々入ってくる。
そんな報告を聞くと流石にじっとしてはおられず、ぞわぞわした気持ちを抑えきれずにその場所に突入するのである。

そこで見つけたのがこの写真(Fig.1)のキノコ。
傘の上からだけ見ていたら良く分からなかったのだが、唯一閃いた事柄があった。
それは

「去年Nさんが見つけたものと同じ?」

ではないか?と。
Nさんは去年この公園に行った際に「これ何だろう?」って送ってくれたのだが、そのこげ茶色の傘と中央が盛り上がっている点、そしてアキニレが近くにあるという点などから「ニレの下に発生するハルシメジではないか?」と答えた。
実際にこの公園ではニレの下でハルシメジの発生を確認しており、その姿と良く似ている、と考えたのであった。

ただ、写真では判断しずらく、できれば実物を見たいと思っていたのであった。

そして今年、、、

ふふふ、、見つけたぞ、おぬし。
そのウッドチップの道を歩いていた時に何かの葉っぱに紛れて少し傘に光沢があるキノコを見つけたのだ。
それは去年写真で送ってきたものと同じく傘の天頂が少し盛り上がっており、少し粘性を帯び、傘の色はこげ茶色で見るからに「シメジ」の仲間を髣髴とさせる容貌はまさにNさんが送ってくれたそれに違いなかった。

しかしだ。

そこに有るはずのアキニレの木が無いのだ。
近くに木はあるが、ニレ科のものとはまるで違うものだし、かなり8mぐらい先にはケヤキがあったのだが、ケヤキの根が延びてウッドチップまで来ているとは到底考えられなかった。

見つけたのは良いが、おぬしは誰だ??

胞子を観察してみた

Fig.2 2025.4.29 大阪

まずはヒダ縁の切片を作って顕微鏡で覗いてみる。
100倍で視た後に400倍で覗いてみると明らかにそれは「ハルシメジ類ではない」というのが分かった。
ハルシメジの胞子は5角形で、このキノコの胞子はご覧の通り楕円形をしている。

100%ハルシメジではない!

それでは何か?ということであるが、それもこの胞子を視たら推測がつく。
胞子の表面に何らかの模様があるのが分かるだろうか?
まぁ、胞子の表面に模様などがあるのは少なくはないが、キノコの形態とこの胞子から察するに恐らくザラミノシメジ(漢字では粗面胞子占地と書くらしい)の仲間には間違いなさそうだ。

では、細かく特徴をまとめてみましょう

このザラミノシメジを観察してみる

Fig.3 2025.4.29 大阪

傘径は5~7cmで、茶褐色、平滑、湿時粘性、傘の中心が少し盛り上がった饅頭型をしています。
実際の見た目はもう少し濃い茶色をしていました。

Fig.4 2025.4.29 大阪

ヒダはやや密で、小ヒダあり。色は白~少し茶色味を帯びた白。柄に湾生。
特に注目は柄との接点。この少し湾生気味なところと柄との接触部に残るヒダの溝が「ザラミノシメジらしい」部分となります。

Fig.5 2025.4.29 大阪

では柄を見てみましょう。
傘の径とほぼ同じぐらいの長さで約5~7cm。
色はやや褐色を帯びており、表面はほんの少し繊維状のものに覆われている様な感じです。
下部がやや膨らみ、菌糸束に覆われています。

検鏡してみました

Fig.6 2025.4.29 大阪 ヒダ縁

ヒダの縁部を100倍で撮ってみました。
尖っているものがいくつか見えますが、これは縁シスチジアですね。
いくつかのザラミノシメジではこの様な先のとがった棘状のシスチジアを持つものがあります。
ちょっと拡大してみましょう。

Fig.7 2025.4.29 大阪 縁シスチジア

縁シスチジアの先端には結晶が付着しております。
結晶が無いものもありますが、それは結晶が取れてしまったのか、それとも元々ないのかもしれません。

Fig.8 2025.4.29 大阪 側シスチジア

ヒダの側部も視てみました。
縁部と同じ様な形態のシスチジアがありました。
本家ザラミノシメジにはシスチジアが存在しませんので、本種に関しては本家ザラミノシメジではありませんね。

Fig.9 2025.4.29 大阪 側部担子器

担子器は見えにくいですが4胞子性でした。

Fig.10 2025.4.29 大阪 胞子

胞子は楕円形で色は透明。サイズは 6.6-7.9 x 4.3-5.3 (Ave 7.3 x 4.9)。

このザラミノシメジの正体は?

さてここまでで思い当たるザラミノシメジの仲間はいるでしょうか?
ざっと調べたところザラミノシメジの仲間では

  1. コザラミノシメジ(Melanoleuca polioleuca (Pers.) Murrill)
  2. ザラミノシメジ(Melanoleuca melaleuca
  3. ツブエノシメジ(Melanoleuca verrucipes (Fr.) Singer)
  4. オオザラミノシメジ(Melanoleuca grammopodia (Bull.) Murrill)
  5. スナジツヤザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca exscissa var. exscissa (Fr.) Singer)
  6. ホテイザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca rasillis var. rasilis (Fr.) Singer)
  7. スジエノザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca brevipes (Bull.) Pat.)
  8. アシボソザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca alboflavida
  9. ネズミザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca griseobrunnea

などがあるが、このほとんどが形態、生態を比較すると異なります。
しかし唯一肉眼的と顕微鏡的に似ているのがあります。
それは

コザラミノシメジ

です。
ここでコザラミノシメジの特徴を整理してみましょう。

大分類 小分類 内容
通常7cm位
 
初めまんじゅう形、のち開いて中高の平らとなる
  表面 平滑
  灰褐色~暗褐色
 
傘中央で厚く、 白色、古くなると汚クリーム色、ややかび臭あり
ひだ 柄に 湾生状上生
  疎密 密、やや広幅
 
白色、古くなると汚クリーム色
大きさ
通常長さは傘形よりやや長く、幅10mm位
 
ほほ上下同幅で根もとがやや膨らみ、やや中実
  表面 繊維状
 
傘と同色またはやや淡色
生態 季節
  場所
林内、草地、畑地などの地面に少数群生する
胞子 楕円形
  大きさ 6-9.5 x 4.5-5μm
  表面
粗いいぽにおおわれる。
シスチジア(縁・側)
便腹状紡錘形(あるいは下膨れ紡錘形)、先端に向かって細まって尖り、頂部に細かい結晶を付着する
コメント  
従来、本種の学名としてM. melaleucaが広く用いられてきたが、現在、M.melaleucaはシスチジアを欠く菌との解釈が有力で、本菌に対しては M. polioleuca が採用されている。

こうやって見るとどう見てもコザラミノシメジですなぁ(赤は合致していることろ)、、、。
もうコザラミノシメジでも良いかと思ったのですが、実は詳しく検証する前に「これはきっと新種だ!」とかなんとか言って、DNAシーケンスを取ってもらえるようにお願いしていたのでした。

では次にDNAの結果をお知らせしましょう。

DNAを読む

調べてもらったシーケンスはこれである。

NNNNNNNNNNNNNNNNNNAGGATCATTAATGAATAAACTTGGTGGATTGTTGCTGGCTCCTAGGAGTATGTGCACATCTGTCATTGTTTCATTCTTTCTCCACCTGTGCACCTTTGTAGGCTTGGACCCTCTCAAGAGATGTATTCTCTTGGAAATAAGGACTGATTTCTCACTTAGAGAAAGCTTTCCTTTACATTCAAGTCTATGTTTTTATCTACACCCTATTAGAATGTTTCTGAATGTATTACAAATTTGGCCCTAGGCCTTATTAAAACCTTATACAACTTTCAACAACGGATCTCTTGGCTCTCGCATCGATGAAGAACGCAGCGAAATGCGATAAGTAATGTGAATTGCAGAATTCAGTGAATCATCGAATCTTTGAACGCACCTTGCGCTCCTTGGTATTCCGAGGAGCATGCCTGTTTGAGTGTCATTAAATTCTCAATCCTCTCTGGGTTTTTTCTCAGTTAGGATTGGATAATGGGGGCTTTGCTGGCTTGAATAAGGTCAGCTCTCCTAAAATACATTAGCAAGACTCTTGTTGCAGCCTTCTATATGGTGTGATAATTATCTACATCATAGATTGCATGCAGTAAAAAAAATNNNAGGCTTCNAACAATCCATTNGACTTGGACNAACTAANTTGACAAATTTGACCTCNNATCNNGNANGGANNACCCCGCNNAA

見てわかる人はいないよね?(笑)
これでBLASTした結果を一覧してみました。
少し多めのデータですが、被ってるものを省いてスコアが高い順に並べてみました(一致率順ではありません)。

学名 一致率 登録国 産地
Melanoleuca bataillei 98.76 Kingdom
Portugal: Amieira, Sesimbra
Melanoleuca aff. cinereifolia 98.76 USA
Mexico: Jalisco, Canon del Floripondio
Melanoleuca bataillei 98.76 USA
USA: Arizona, Coconino
Melanoleuca cinereifolia 98.6 USA
Sweden: Bohuslan, Forshalla
Melanoleuca cinereifolia 98.45 China
Melanoleuca bataillei 98.59 Spain
Italy: Toscana, Arezzo, Passo dello
Melanoleuca bataillei 98.28 China China
Melanoleuca leucopoda 98.28 China China
Melanoleuca communis 97.98 USA
Mexico: Estado de Mexico, La Marquesa,
Melanoleuca communis 97.98 China China
Melanoleuca cinereifolia 97.84 China
Melanoleuca melaleuca 97.83 Mexico
Mexico: Mexico State, TEMASCALTEPEC, Agua
Melanoleuca subcinereiformis 97.83 USA
USA: California
Melanoleuca leucopoda 97.83 China China
Melanoleuca leucopoda 97.83 China China
Melanoleuca leucopoda 97.83 China China
Melanoleuca polioleuca 97.83 Turkey Turkey
Melanoleuca melaleuca 97.67 Mexico
Mexico: Mexico State, ZINACANTEPEC, El
Melanoleuca cinereifolia 97.97 Pakistan Pakistan
Melanoleuca subcinereiformis 97.68 USA
USA: Washington, Island County, Camano
Melanoleuca communis 97.68 USA
Mexico: Estado de Mexico, National Park
Melanoleuca granadensis 97.67 Czech Republic
Czech Republic: Rohova National Nature
Melanoleuca leucopoda 97.67 China China
Melanoleuca polioleuca 97.83 USA
Sweden: Vastergotland, Lugnas
Melanoleuca leucopoda 97.81 China
Melanoleuca melaleuca 97.52 USA
USA: California, San Bernardino County, Big
Melanoleuca subcinereiformis 97.53 USA USA
Melanoleuca melaleuca 97.52 USA
Melanoleuca leucopoda 97.81 China
Melanoleuca leucopoda 97.81 China
Melanoleuca bataillei 98.71 Czech Republic Germany
Melanoleuca friesii 97.67 Italy Italy
Melanoleuca cinereifolia 97.23 Pakistan Pakistan
Melanoleuca granadensis 97.36 France
France: Bois de Bernouilles
Melanoleuca melaleuca 97.36 USA
United Kingdom: Scotland, Mid Perthshire
Melanoleuca bataillei 98.54 Czech Republic Italy
Melanoleuca cinereifolia 97.51 Turkey
Melanoleuca bataillei 98.39 Czech Republic Slovakia

種ごとに色分けしてみました。
97%の中に沢山の種が入っておりますね、、しかもなかなかバラバラの状態です(苦笑)。
BLASTした結果の一致率が高ければ「近い種である」とは言い難いのでこの表はあくまでも参考値であると思ってもらうのが良いでしょう。

ではここから何種かピックアップしてその特徴を簡単にまとめてみましょう(雑感です)。

学名 一致率 コメント
Melanoleuca bataillei 98.76 形態は本種と良く似ており、生態も腐植土の上など散在的に発生と良く似ております(ヨーロッパに広く分布)。
Melanoleuca cinereifolia 98.76 形態はややにているが、生態的には発生場所はほぼ海岸の砂丘であることから種としては異なると思われます。
Melanoleuca leucopoda 98.28 中国で最近2013年に記載されたもので、発生場所などは良く似ているが、傘の色・柄の長さなど形態が異なる
Melanoleuca melaleuca 97.83 形態は本種と良く似ている。また発生場所なども同じく腐植土の上などで発生する。アメリカ大陸での発生が確認されている。
以前はコザラミノシメジにこの学名があてられていたのだが、シスチジアが無いということでこの下のMelanoleuca polioleucaが現在のコザラミノシメジにあてられている。
Melanoleuca polioleuca 97.83 これは和名コザラミノシメジ。
形態、生態とも非常に良く似ている。
しかし海外産のMelanoleuca polioleucaとコザラミノシメジが同じかどうかの再検討は必要だと思われます。
Melanoleuca polioleuca
(筑波実験植物園)
98.76 筑波実験植物園でMelanoleuca polioleucaで登録されている種。
98.76%の一致となっている。

それではこれらのデータを元に系統樹を描いてみました。

大阪産の Melanoleuca sp. はやはり少しだけ離れている感じになりますね。
筑波産のものとは微妙な距離感があります(笑)

このキノコは何ものか?

やはりこのきのこはコザラミノシメジ(Mekanokeuca polioleuca)とかなり似ているものの、完全に一致しているものとは言えないと考えています(DNA的に)。
また筑波産のものや栃木の図鑑などのものと比べると柄の長さや太さ&傘柄比率など、形態的にもかなり異なるのではと思っています。

ただし、上でも書きましたが「コザラミノシメジとは何か?」という根本的なところから始めなければいけないと思っています。

よって形態も少し異なるし、DNAレベルでみても少し異なる。
ということで、このキノコはコザラミノシメジの近縁種ということで良いかと思います。

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