キチャワンタケが青緑色に変色する謎を調査してみた

久しぶりにキチャワンタケに会いに行ってきた。
3月に
「そろそろ春のチャワンタケ祭りも始まってるしなぁ、、もしかして出てるかな?」
と思って行ってみたんだけど流石に早すぎたようで、影も形もありゃしませんでした。
そこで以前見つけた日程から推測して「もうそろそろ」という時期に行ってみるとばっちりしっかり出ていてくれました。
ここのキチャワンタケはモミの樹下に発生しており、発生する時期になるとその辺り一面に黄色い子実体がちょこちょこ出ている、、という風景を見ることができるのですね。
実はこのエリアでヒイロチャワンタケも一度だけ見たことがあり(2016年辺り)、まだ初心者であった僕は「キチャワンタケ見つけました」と観察会で報告したのですが、「これねぇどちらかというとヒイロチャワンタケの方だね」と言われたことがあるのですね。
ヒイロチャワンタケはこれよりももっとオレンジ色をしており、そして決定的に違うのがヒイロチャワンタケの方は青緑色に変色しない、とその時は教えてもらいました。
つまり、キチャワンタケの最大の特徴は
「傷をつけるとか、古くなると青緑色に変色する」
ということなのです。
傷つけると青く変色すると聞くと思い出すのがイロガワリ系のイグチの仲間ですね。
イロガワリなどが青変するのは、肉が空気に触れると肉の中に含まれているバリエガト酸、キセルコム酸、プルビン酸などが酸化反応を示し青くなるのですね。
だとしたらキチャワンタケも同じなのか???
と考えていたのですが、、、
ふとFacebookの美菌倶楽部を見てみたら Maru Mei さんがこんな写真を投稿をしていたのです。

キチャワンタケで外皮層のところが青緑色に変色しているのが分かります。
が、しかし
これ、傷つけて青緑色になっている様に見えるでしょうか?
僕にはとうてい見えません。
どう見えるかというと、
茶碗の外皮層がカビの様なものに覆われているのではないか・・・
てな感じに見えちゃいます。
流石にこれは「傷つけた」ものでもないし、「古くなった」わけでもなさそうです。
ということで、これは是が非でも確かめなければなりません!!きのこびとですから!!(笑)
キチャワンタケの「青緑」を観察してみる

キチャワンタケの子実層面は鮮黄色~オレンジ色で似たような色を持つチャワンタケの仲間に上でも書いてあるヒイロチャワンタケや富士山など亜高山帯で見ることができるキンチャワンタケなどがあります。
それぞれに特徴はありますが、やはりキチャワンタケの最大の特徴は「外皮層が緑色に変色する」ということでしょうか?
ではその典型的に変色した写真を見てもらいましょう。

お茶碗の外皮層の縁の部分が青緑になっているのが分かりますね?
MushroomExpert.com などの記述によると「傷つくと青緑色に変色」「特に椀の縁で傷つくと青緑色に変色」と書かれていますので、この縁にある青緑はキチャワンタケの典型的な特徴と言っていいでしょう。
これは割と大きな子実体で、しかもちょっと古くなったものなので椀の縁周辺が青緑になったという風に考えることができます。
しかし Maru Mei さんと同じく僕が行った時にも外皮層全体が青緑色になっているものがありました。
それがこれです。

茶碗の縁周辺どころが外皮層全体が青緑色に覆われているのがわかります。
しかもこの子実体は発生してさほど日が経っておらず椀が大きく開いているわけではないので「古くなった」という事はあまり考えにくいかと思います。
それではもう一つ、こういうのを見てもらいましょう。

今までは椀の外皮層が青緑に変色しているものがほとんどでしたが、見ていると内皮層も青緑色に変色しているものがありました。
これはなかなか特異なものでDiscomycetes etc.などでは
「緑色をしている部分は普通は外皮層最外部に限られ、内部の組織は変色しない」
と記されている。
外皮層と内皮層では細胞の組織が異なる。
内皮層の表面を見るとずらっと子嚢が並んでいるのだが、外皮層にはそれがなく、Discomyces etc. の言葉を借りれば外皮層は「淡黄色の丸みを帯びた不整形細胞からなる」とあります。
ですので外皮層は青緑に変色しても内部は変色しない、、と思っていたのだがどうもそうではないようだ。
では傷つけてみるとどうなのか?

持って帰ったものに対してピンセットで何本か傷をつけてみました。
例えばイロガワリの様に即座に青変するのとは違い、少なくとも1時間内では色の変化は見られませんでした。
ですので、「傷つけたら青緑に変色」というのはちょっと疑わしい表現だと思っています。
ただ、実際に地面から出ている状態で傷つけたらどうなるか?とか、傷つけて1週間したらどうなるか?という事は確かめられていないのでもしかしてそういった条件の下では青緑に変色するのかもしれませんが。
キチャワンタケの「青緑」を検鏡してみる

2025.4.12 神戸 40倍
まずは断面の写真です
上の方が子嚢がずらっと並んでいるので茶碗の内側で、下のやや濃くなっている方が茶碗の外側の層となります。この写真では確認できませんが、この濃くなっている層に緑色の組織があると考えていいでしょう。

子嚢と側糸です。
子嚢はほぼ色はついておりませんが、側糸の方は黄色味を帯びていますね。
ここから分かるのは、
キチャワンタケの内皮層の黄色は側糸の色によって決定されている
ということですね。

子嚢胞子はほぼ円形で子嚢内ではまっすぐに並んでいます。
子嚢は非アミロイドでメルツアーで染色しても色は変わりません。
それでは青緑に染まった部分を見てみましょう。

茶碗の外側の組織をピンセットで摘まんだのですが、胞子とかも見られますので、持って帰る間に胞子が振りまかれてついてしまったのでしょうね(笑)。
それは置いといて、青緑の塊がいくつか見えるでしょうか?
ここから読み取れるのは
- 組織が染まっている
- 青緑の組織がある
のどちらかで、もし1ならばもっと綺麗に染まっている様に見えるんですよね。
では別の写真をお見せしましょう

なんじゃこりゃ、という感じの写真ですね。
明らかにチャワンタケの組織の一般的なものとは別に、この青緑の内容物を持った組織があるように見えます。
もう少しアップしてみるとこんな感じです。

これ、どう見えますか?
実は良く分かりません(苦笑)。
胞子の大きさから比較してもかなり小さいものではありますが、かといってよくあるキノコの組織とはまた違うようにも見えます。
Discomycetes etc.では「青緑色の部分の細胞には、暗緑色の顆粒状の内容物がある」と書かれていますが、これだと「もともとその色」だったのか「何かで染まった」のかは不明です。
しかし、この様な細胞が外皮層に付着、または出現して青緑色に染まるということは確かなようです。
青緑色にならないキチャワンタケ?
Discomycetes etc.内でも書かれている様に青緑色に変色しないキチャワンタケの仲間というのがあるようです。
最初に見つけたのは oso さんのサイトです。
「Caloscypha sp. (キチャワンタケ属 No.001)」
http://toolate.website/kinoko/unknown_fungi/caloscypha_sp_001/index.htm
見つけられたのはスギ林。
僕が見つけたのはモミの林なので同じ針葉樹の樹下ではありますが、発生環境は異なると考えて良いでしょう。
形態的には色が少しレモン色が強く、水っぽくって脆い(Discomyces etc.)そうだ。
一度見てみたいが、春のスギ林に行く習慣がないので見つけられるかどうか・・・(笑)。
今のところは別種の可能性が高いかな?とは思っていますが、もしかして発生環境によって少し形態が変わる可能性があるので、DNAレベルの比較があればいいなぁ、、と思っております。
参考
MushroomExpert.com「Caloscypha fulgens」
https://www.mushroomexpert.com/caloscypha_fulgens.html
Discomycetes etc. 「Caloscypha fulgens (Pers.) Boud.」
https://chawantake.sakura.ne.jp/data/Caloscypha_fulgens.html
oso的キノコ図鑑 「Caloscypha sp. (キチャワンタケ属 No.001)」
http://toolate.website/kinoko/unknown_fungi/caloscypha_sp_001/index.htm