ツバキキンカクチャワンタケから探る、菌核とはなにか?

2025.03.08 京都

ツバキキンカクチャワンタケ。
毎年早春に安定的に椿の樹下で発見することが出来る有難い種である。

こやつは子実体を発生させ、胞子を勢いよく舞いあげて花に感染し病気を起こすことで知られており、その後、落下した花弁や萼(がく)の部分を菌核化してまた翌年以降に子実体を発生させる、、というサイクルを繰り返しておるのですね。

最近では晩秋に出ているものも報告されているので、もしかして冬に咲く寒椿や山茶花などには咲く時期に合わせて発生するというサイクルになっているのかもしれませんね。

さてそんなツバキキンカクチャワンタケですが、先ほどさらっと「菌核化して」と書きました。

が、菌核とはそもそも何でしょうか?

その辺りからちょっと深堀してみたいと思います。

菌核を撮ってみた

ツバキキンカクチャワンタケの白バック写真

珍しく白バック写真を撮ってみました (#^.^#)

ツバキキンカクチャワンタケの部位としては左から茶碗の部分、柄の部分、そして菌核から成り立っています。
この写真では右下の黒くなっていることろが「菌核」と呼ばれているものになりますね。
ではその菌核をアップにしてみましょう。

ツバキキンカクチャワンタケの菌核

何か黒い四角形の物体がありますが、これが菌核と呼ばれるもので、ツバキの花弁や萼(がく)をベースにして作り出された菌糸の塊なのですね。
ではその菌核を半分に切ってみます。


ツバキキンカクチャワンタケの菌核を切ってみた

菌核を切ってみると外側の硬い皮があって、中身は肌色で木の様な質感が見えています。
この構造はまるで樹皮と木の内部構造の様ですね。
まぁもともとが花弁と萼という植物の細胞をベースに作られたものですから、そういう事も考えられなくはないですが、異なるのは菌がこれを作り出しているということです。
また「菌核」というぐらいですから、この木材内部の様な質感のものは菌糸だよね?ということになりますが果たしてどうなのでしょう。

菌核とはなにか?

ツバキキンカクチャワンタケは通常菌糸の状態で地中で生活を送ります。
地中と言うと「安全地帯」と思われがちですがそうではありません。そこには他の菌類や細菌、そしてキノコを食べる微生物などが存在し苛烈な生存競争を行われている場所でもあります。

また、最も菌類たちにとって恐ろしいのは乾燥です。
菌糸細胞の多くは水分でできており、これが枯渇することは死をも意味するからです。
その分、地中であれば直射日光が射さない分、乾燥しにくい面もありますが、例え地中であったとしても何日も雨が降らなければ乾燥状態から逃れることはできません。

ツバキキンカクチャワンタケ(イラスト:岩間杏美

そこでツバキキンカクチャワンタケは感染した花弁などを材料として「菌核」という組織を作り上げたのですね。
菌核といういわば強固な家を建て、その中でいくばくかの水分を蓄え、もし地中が乾燥状態になったとしても耐えうるような構造になっているのでしょう。
またそれは外敵(細菌や微生物)の侵入を防げるように、頑丈な殻をまとい中にいる菌糸を守っているのだと考えられます。

ここからツバキキンカクチャワンタケがツバキやサザンカの花に感染するのは菌核を作るための言わば「下地作り」をしているのかもしれません。
なるだけ早く宿主に感染して自分の領地を確保しコロニーをつくって、他の菌類や細菌が侵入してきそうになるのを防いだりしてるのかもしれませんね。

菌核病に罹って茶色く変色した細胞を見てみると、ツバキキンカクチャワンタケのコロニーがあり、顕微鏡で覗いてみると菌糸が蠢いている姿が見えるかもしれません。

菌核は何から出来ているのか?

ツバキキンカクチャワンタケの菌核の薄切り

菌核は何から作られているのか?

と考えるに、ツバキの花弁から発生するので、恐らく花弁の細胞を使って、もしくは花弁自体を変化させて外殻を作り、中に菌糸から作られた細胞があるのでは?

という仮説を立てていた。
しかし、ネットを検索しているとosoさんのサイトでキボリアキンカクキン属(Ciboria)は遊離菌核を作るため菌核の中に植物の細胞はなく、ニセキンカクキン属(Ciborinia)は植物の細胞が取り込まれている、と書かれています。

なんと!!そんな違いがあったのですね!!

ではこのツバキキンカクチャワンタケはどちらでしょうか?
学名は 「Ciborinia camelliae」となっているのでニセキンカクキン属、つまりは菌核の中に植物細胞が取り込まれていることになりますね。
ではではそれを意識して菌核の中に入ってみましょう~!!

ツバキキンカクチャワンタケの菌核の組織(100倍)

菌核の組織は大きく2つに分かれています。
菌核の外皮層(黒い部分)と内部組織(茶色い部分:髄部ともいう)である。
この黒い部分の外皮は硬く、まるで材木片の様な質感です。めちゃくちゃ薄く切らないとその構造はわかりません。

内部には楕円形をした構造の組織があります。その楕円形の周りには茶色く縁取りみたいなものが見えます。
もう少しわかりやすい写真を貼ってみます。

ツバキキンカクチャワンタケの菌核の組織(100倍)

内部の細胞です。
楕円形の細胞がいくつか見えますが、これはいったい何なのでしょうか?
この様な細胞が髄部のあちこちに見られ内部の細胞を形作っています。そして良く見ると菌糸の様な糸状の細胞も見ることができます。

この細胞をもう少し拡大してみましょう。

ツバキキンカクチャワンタケの菌核細胞(400倍)

先ほどの楕円形の細胞です。
良く見ると内部には菌糸の様なぐにゅぐにゅした細長い細胞が中に存在しているのがなんとなく見えてきました。
もしかしてこの細胞は菌糸を守るために作られているのではないでしょうか?もしくは菌糸の保管庫となっているのか?なかなか興味深い細胞ですね。

ツバキキンカクチャワンタケの菌核の組織(100倍)

菌核の細胞としてはこの様なものもあります。
茶色く染まっておりますが、これは糸状の細胞なので恐らくこれも菌糸由来の細胞、もしくは菌糸そのものだと思います。

それと面白い細胞を見つけましたので貼っておきます。

ツバキキンカクチャワンタケの菌核の組織(100倍)

この捻じれた糸状の細胞はなんでしょう?
これ結構ありましたが、実は宿主(つまりツバキ)の道管要素のらせん状壁肥厚(spiral vessel)、通称「らせん状導管」というらしいです。
そう言われればちょっと植物的ですよね(笑)
ツバキキンカクチャワンタケは菌核を作る際に花弁などの植物の組織を取り込んでいく証拠がここで確認することが出来ました。

それではいよいよ核心部分の植物の組織を見てみましょう。
もしかして楕円形の菌核組織が植物の組織と関係しているのかも?と思っていたのですが、osoさんのサイトでは外皮と内部との境目に植物の組織がある、と書かれています。

それを探し当てましたので見て頂きましょう。

ツバキキンカクチャワンタケの菌核の組織(400倍)


たぶんこれが植物の組織の名残だと思われますがいかがでしょう?

と、ここで中島さんからものいいが付きました (@_@)

これは植物の組織ではなく菌核の外皮層(cortex)ではないか?と。

中島さんから教えてもらった資料には確かに菌核外皮(rind)と外皮層(cortex)の写真があり、外皮層には上記写真の様な網目があります。

ということは菌核は2層構造ではなく外皮・外皮層・髄層という3層構造になっているというのが正確な表現ですね。

また、中島さんから以下の論文を教えて頂きました。
「A taxonomic reassesment of Sclerorinia camelliae Hara, with observations on flower blight of camellia inJapan」
http://www.ascofrance.com/uploads/forum_file/Kohn-amp-Nagasawa-1984-Ciborinia-camelliae-0001.pdf

これによると宿主の組織は

「embedded among the cortical and medullary sclerotial hyphae」

つまり、

「皮層と髄層それぞれの内部に埋まっている」

と解釈できる、ということですので明瞭な組織が残っているのではなく所々に分かれて残っているのではないでしょうか?

ツバキキンカクチャワンタケの菌核の組織(100倍)

ということで、撮った写真を見てみますとこの様な写真がありました。

中央部に魚の骨の様に縦に筋が何本も入っている組織が見えます。
これはツバキの組織である「らせん状導管」が埋まっている状態ではないでしょうか?
まるで琥珀のなかで植物の化石が残っている様にも見えます!!

僕は前に「ツバキの花弁や萼(がく)をベースにして作り出された」と書きましたが、じつは花弁などをベースにしているではなく、菌核を作っていく最中に花弁などの植物の組織が「残ってしまった」とするのが適当ではないか?とも思っています。

つまりこうです。
ツバキの花弁に感染し、花が落ちてからもそれを栄養源にして土の中で菌核を作り出して行くのですが、花弁の細胞は薄く切り離しにくいので菌核を作る際に菌糸の中に紛れてしまい結果外殻と内部の隙間に組織が少し残ってしまったのではないか?

・・・なんて妄想をしております。

まるで巻き込まれ事故ですね(笑)

まとめ

いかがでしたか?今回は「菌核」という組織について考えてみました。
菌核は

・地中にいる微生物などから菌糸を守る
・乾燥から菌糸を守る
・子実体を作り出すための菌糸を蓄える

などの役目をもっていて、地中に落ちた花弁などを養分としてその様な組織を作り上げていきます。
また、春になり、子実体を作る際はその菌核の中に蓄えられた菌糸や栄養分をベースにして偽根を延ばし柄を長くして地上に子実体を作ります。

そう考えると、

今回検鏡した菌核はもしかして子実体を作った後の「出涸らし」を見ていたのでは?

と思い当たりました。
確かに菌核というのは最終的に子実体を作るための食糧庫みたいなものです。
とすれば子実体を作ってしまったあとの菌核は既に食料も食い尽くして抜け殻状態になっているのかもしれませんね。

次は子実体が出てきていない菌核を探さねば・・・・

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