謎イグチ図鑑 その10

公園の階段を上っていたら変なイグチを見つけた。
傘の色や表面の特徴だけ見ても該当するものは思い浮かばなく、ではと思って柄を良く見ると網目らしきものが確認できた。
という段階で、余計にわからなくなった・・・💦
イグチに関わらず、、だけど、ある程度発生環境によって変異することがある。
また幼菌や老菌になどでも大きくその姿を変えることがあるので、種を特定するためには図鑑だけを見るのではなく出来るだけ多くフィールドに出てその種がどの様な変異をするのか、ということを目で見て経験を積む必要が出てくるのですね。
しかし、このイグチはその変異の範囲にはなく、そして「知っているそれらしい候補」もない。
こういう時はちゃんと記録しなければならない、、、という事でこれから特徴を書いていきたいと思います。

傘:径は5cm、色は全体に赤黒く、粘性無しで、凹凸があります。
コメント:この凹凸はコウジタケの幼菌時にたまに見られるものと同じで、この謎イグチも生長するにしたがって、ここに割れ目などが生じるのかもしれません。

柄:2cm x 6cmで、下部に行くにしたがってやや太まっている。
色は上部が黄色で、下部に行くにしたがって赤みを帯び、基部は赤黒くなる。
柄全体に縦長の細かい網目があることと同時に赤い細鱗片が全体にちりばめられています。
コメント:赤い細鱗片と言えばアメリカウラベニイロガワリを想像しますが、この細長い網目がアメリカウラベニイロガワリとは異なる特徴であると考えています。

柄を少し引っ掻くとあっという間に青変します。

管孔:孔口は黄色で、中央はやや褐色を帯びています。管孔は黄色でまだ幼菌のため管孔自体は口を開けてはいない状態です。柄に対して直前で陥入しています。
管孔の高さは傘の肉とほぼ同じで、かなり長い管孔をしています。

管孔を引っ掻くと、即座に青変します。

柄の基部はこんな感じです。

肉:傘は白っぽく、柄は黄色で下部は赤黒くなっております。
真ん中でカットすると傘、柄、共に青変します。
DNAを調べてみた

イグチに関してはDNAを見てもらうことは無いのだが、これについては胸騒ぎがしたので、いつもお世話になっている阿部さんのところに送ってシーケンスを取ってもらうことにした。
そしてBLASTしてみた
一致率が一番高いものは中国で登録されている「Boletellus sp.」が99.57%となった。
99.57%というのはかなり高い一致率だと考えてよい。
また種名が書かれているもので言えば 「Boletellus putuoensis」というこれも中国で登録されたものと99.26%の一致率となっているので、同種とはいえないまでもかなりの近縁種という事が出来る。
参考のためにシーケンスもここにアップしておきます。
AAGTCTAGCTTTGTCAGTCGTCAGCCTTGTCAACGTTCGCCGTTCACTGTTCGCCGTTCGTCCATATGCATGCACACGGACTAGTAGGCTAGTAGGCTAGTAGACTAATAGCTAGCAAGACCTCCCGACCACCACTGAGATTAGAGGATCTTGGAATTAGAAGCAAATCGAGGCTTGTCTATGCATGGTCTATGACGGACGCTCCAGCCACGACGATCATTATCACGTCAAAGGCCGTGCACGTCCAGAAGACCATAGCACACCCCATTGCTAATGCGTTTAAGGAGAGCTGACCGCTTTCGCAGCCAGCAACCCCCACATCCAAGCCATGTGCTCAAAGTCAATCGAGACATGGTTGATAGTTACATGACACTCAAACAGGCATGCTCCTCGGAATACCAAGGAGCGCAAGGTGCGTTCAAAGATTCGATGATTCACTGGAAATCTGCAATTCACATTACTTATCGCAATTCGCTGCGTTCTTCATCGATGCGAGAGCCAAGAGATCCGTTGCTGAAAGTTGTATTTTATTATGACATTCTAGACATACGGCGGGTGTGATATGATAAAGACATAGATCCTCTTTCGAGGACCTACAAAAGGTGCACAGGTGTGAAGGGGTGTGGATGGGTAAAAGGTCGACGTCAAGATGAGAGACGTGCACATGCACACTCCGAACGAAGAGTGCCA
ここから言えることは今のところこのイグチはBoletellus sp.だと考えてよいと思う。
Boletellus というのは和名で言うと「キクバナイグチ属」という事になります。
あのキクバナイグチと近縁なのか???
と思われる方も多いと思います。
実はこの間の富士山きのこ合宿に種山さんも来ておられたのでこの結果を伝えたらやはり驚かれておりました。
形態と近縁関係が一致しないというのは良くあることで、これもまた同様の例の一つだと思われます。
とはいえ、諦めの悪い僕は「Boletellus」でiNaturalistを検索して似たものがないか探してみました。すると投稿された中にこんな写真を見つけました。

傘の色、形、凹凸などそっくりです。
また柄の色や網目具合、管孔などもよく似ていますね。
これの学名は「Boletellus sinapipes」となっており、この名前で検索してみると似たもの、似てないものがいくつか出てきます。
https://www.inaturalist.org/observations?taxon_id=1240450
僕のこれで見る限りはコウジタケの仲間に似ているようにも見えるのですが、何かの基準でBoletellus なのでしょう。
また、確かにBoletellus sinapipesには似ているのですが、今のところGenbankにはITSが登録されておらずこのイグチがBoletellus sinapipesとどれだけ近縁かを確かめる術がありません。
ですので、結論的には
Boletellus sinapipesにかなり形態が近い Boletellus sp. です。
ということになります。