日本の毒きのこ

『日本の毒きのこ』 長沢栄史 監修

食用キノコのオマケとして毒キノコを紹介する図鑑は多くとも、毒キノコ一本で勝負する図鑑は少ない(私の知る限り2冊だけ)。本書はそんなニッチな一冊。

そもそも出版業界としては「売れないものは作りたくない」というのがある、当然だけど。いきおい、きのこシーズンが始まる頃になると出版されるのは、大衆受けのするキノコ狩りノウハウ本や、キノコ初級者から中級者までをターゲットにした写真の綺麗なカラー図鑑、ということになる。結果的に近年発行されたものの多くは、内容的に似たり寄ったりの小粒のものばかりだった。

そんな中で発行されたのが本書。どういう意図で出版したのかは外部からうかがい知れるものではないが、実にいい狙いをしている。いやー、それにしてもこの図鑑、内容がとにかく硬い。しかも単に硬派というだけではない。スペースいっぱいっぱいまで文字で埋めつくさないと気が済まない、一行とて余すものか!という気迫すら感じられる執筆意欲がとにかくすさまじい。読む者が気押されてしまうほどだ。

掲載種は一撃必殺の猛毒菌から食べ過ぎると食傷を起こすものまでピンキリの240種。あまりにも厳密な解説を読んでいると、全て猛毒のように思えてくるのでなかなかに怖い。こんくらい脅しが効いた方が、安易に食べて自爆するバカも減るだろうとの意図が見える。純粋に図鑑として見ても、写真の質が高いのもあり、出来はかなり良い。携帯しやすい大きさもグッド。テングタケ狙いの日ならば、サブ図鑑として持ち歩くという使い方もアリだと思う。

この内容なら各地の保健所に常備できる、価値ある一冊。しかしここまで記述が厳密だと、キノコ初心者には百パー読みこなせんと思うんだが…いったいどこの読者層を狙ったんだろう……。

ちなみに写真のは2003年の初版のもので、現在は増補改訂版が出回っている。装丁は古いのの方が断然カッコよくて上品。改訂版のはひどすぎる……

※現在売っているのは改訂版の方です ↓↓↓↓↓

こちらも同じ名前の本だけど作者はまったく別みたいです

「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)2010年11月17日に掲載分を再掲載

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