ヒラタケ(平茸)Pleurotus ostreatus

時期

冬から春にかけて
(福岡では11月~3月まで観察することができます)

発生環境

白色腐朽菌で、広葉樹(まれに針葉樹)の切り株、倒木などに重なり合って発生します。

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重なり合って生える姿

特徴

【傘】傘の大きさは3㎝から15㎝ほどで、まんじゅう型から半円型、ときにじょうご型になります。表面はなめらかで、幼菌時黒っぽい色をしていて、成長すると鼠色、褐色、淡褐色、老菌は白っぽい色になります。

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発生したてのヒラタケ。きのこ自体も頑丈
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傘の色は、古くなると色あせしてきます

【ヒダ】ヒダは密。初め白色をしていますが、成長するとともに淡黄土色のような色へと変化していきます。

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ヒダははじめ白色
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ヒダは時間が経つとややクリーム色を帯びてきます

【柄】柄はついている時とついていない時があります。環境の差が激しいです。
長い柄がある場合は白色で繊維状。湿り気があると弾力があり、根元は白い菌糸で覆われていることが多いです。柄が無い場合、枯れ木から直接生えているように見えます。こちらの場合も根元には白い菌糸がついています。

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切り株から生えていて、柄が見えない個体
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倒木の真上から発生した個体は、柄が中心から出ていました。

【根元】
幼菌も老菌も根元には白い菌糸を確認することができます。

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ヒラタケ赤ちゃんの根元も白い菌糸がいっぱい

愛される「ヒラタケ」。別名を「カンタケ(寒茸)」

「ヒラタケ」は冬を代表するきのこの一つで、古くから人々に親しまれていています。
冬真っ只中の雪が降り積もる山々では、岩に下がる氷柱、山道の白雪と共に、枯れ木に発生した凍ったヒラタケの姿をよく見かけます。凍ったヒラタケは石のように硬く、棒でたたいてみるとトントンと音が響いていました。

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カチカチに凍ったヒラタケ

「ヒラタケ」は地域での呼び方も多彩
ヒラタケは人工栽培もされているとてもおいしいきのこで、和風料理、中華料理、西洋料理などさまざまな分野の食材として用いられており、特に寒い冬場で育つ野生のヒラタケは肉厚で歯ごたえもあり、香りもよいため、きのこ狩りの対象として人気があります。そのため、日本各地さまざまな呼び方があります。今回はその一部を書いていきます。

  • カンタケ:(寒茸)寒い時期に生えることからこの名前がついています
  • カンナバ(宮崎県):ナバは九州地方で使われている方言のひとつ
  • カタヒラナバ(宮崎県):片方に傘を平たく広げることから
  • エノキナバ(宮崎県):冬場に猟師が狩りに行った際に持ち帰るきのこで、よくエノキから生えることから
  • あおけ(東北地方・秋田県)
  • おあけ(秋田県)
  • あわびたけ(福島県)
  • かたはみみたけ(新潟県)
  • かぬか(岩手県)
  • かのこ(秋田県)
  • がんたけ(大分県)
  • そうじ(熊本県)
  • ぶなかのか(秋田県)
  • よのみのき(和歌山県)
  • わかえ(岩手県・秋田県・長野県)

など。ちなみに海外では「オイスターマッシュルーム(形が牡蠣に似ていることから)」と呼ばれています。

歴史
ヒラタケは平安時代からマツタケと並んで好まれていたきのこで様々な書物に登場しています。※物語は一部省略しています

  • 「宇拾遺物語(うじしゅういものがたり)」

昔々、丹波の篠村はヒラタケがよく取れていました。しかし、ある年の終わりごろ村に住んでいる何人もの人たちが、お別れの挨拶をしに来た法師の夢をみました。翌年の秋、ヒラタケは全く見当たりませんでした。その後、この村に中胤僧(ちゅういんそうず)という説法の大変上手な徳の高い坊さんがおいでになりました。
「行いや心が不浄のまま人に説法した法師が、ヒラタケに生まれ変わるという事があるのですよ」と言われました。

  • 「今昔物語」

前出のツキヨタケのページでは、老僧を殺そうとワタリ(和太利(ツキヨタケ)をヒラタケと偽って食べさせようとして失敗した話などもその一つです。ほかには「谷に落ちた国司(藤原陳忠)がヒラタケを抱えて上がってきた話」などが有名です。
その他にも「平家物語」や「古今著聞集」などにも掲載されています。

きのことの出会いは一期一会
きのこ探しをしていると、思わぬ出会いとは突然やって来るものです。8年ほど前…雪もちらつく寒い日の出来事です。森の中に入っていつものようにきのこ探しをしていました。きのこを探しながら歩いていると一本の大きな倒木に見慣れないきのこが生えていたのです

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青っぽい色をしたヒラタケ

「ん?青い…ヒラタケ?」
そのきのこは特徴からヒラタケと判断しましたが、傘の色が薄藍色の美しい姿でした。ただ、残念なことに青いヒラタケに出会えたのはこの一回だけでした。

ヒラタケ白こぶ病

ヒラタケのヒダに白いこぶ状の組織が生じる病害で、キノコバエ科の一種により伝播され、ヒラタケシラコブセンチュウ(Iotonckium ungulatum)という線虫が寄生します。本病害の発生は、1978年に中国地方、九州地方、鳥取で同時期に発見されました。その後、1995年までには西日本一帯、新潟県や長野県など、さらには2010年頃には関東、東北でも確認されたようです。森林内で発生するものや原木栽培されたものなど、野外に発生するヒラタケに被害が見られました。この他にもウスヒラタケやトキイロヒラタケ、エリンギにも発生することがあり、栽培に大きな悪影響を与えています。

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ヒラタケのヒダに生じた白こぶ
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白こぶを開くと、中から線虫が観察できますが小さすぎるし色が透明なこともあり、肉眼で探し出すのは難しいです。(写真中央に写っています)
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先程の白こぶから線虫を採取し顕微鏡で観察

漫画「さすらいのきのこびと」

◾︎前回の物語「ツバキキンカクチャワンタケ」はこちら

【参考書・文献・webなど】
山渓カラー名鑑日本のきのこ(山と渓谷社)
ザ・高尾2キノコの誘(のんぶる舎)
見る・採る・食べるきのこカラー図鑑(講談社)
宮崎のきのこ(みやざき文庫116)
北陸きのこ図鑑
立田山で発生したヒラタケ白こぶ病(国立研究開発法人 森林研究・整備機構
ヒラタケに寄生する新害虫キノコバエ類(双翅目キノコバエ科)(「森林総合研究所研究報告」(Bulletin of FFPRI) Vol.12 No.4 (No.429) 171 – 175 December 2013)
きのことキノコバエと線虫の三者関係2012

注)きのこ豆知識は毎月2回更新をします。(第1、第2金曜日に更新を予定していますが、臨時休載、更新の変更などもあるかもしれないので、その際はご了承ください)

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