春に発生するハタケシメジは別種なのか?

Fig.1 2021.4.9 大阪

春まだ浅い4月。まだ肌寒さの残った屋外を歩く。
春の好きな子嚢菌たちは、すでにその活動を始めており、ブラック系アミガサタケなどは「もう終盤ですよ」といわんばかりに最盛期に比べてその発生量は少なくなってくる頃。

さて、じゃあそろそろ気の早い担子菌が出てくるころだなぁ、、と以前ヒトヨタケが大量に発生していた辺りを散策しに行った。ここのヒトヨタケはとても一夜で溶ける、なんて思えない頑強なやつらばかりである。思うに、よほど栄養がたっぷりで菌糸もとっても元気なので、大きく逞しい子実体を作れるのではないだろうか?

そんなエリアを散策していると、ふとシメジらしいものを見つけた。

ハルシメジ?

第一印象は春の風物詩ともいえるきのこ、その姿そのものであった(Fig.1)。

Fig.2 2021.4.9 大阪 幼菌の頃

しかし、周りを見渡していも「梅」はない。
あ、一つ言い忘れていたが、このハルシメジ似のきのこは「ウメハルシメジ」に似ているのですよね。
他のハルシメジの仲間(ノイバラハルシメジ、ハルノトガリイッポンシメジ等)とは似ておりません。

Fig.2 2021.4.9 大阪 成菌の状態

さてこのシメジの仲間らしきキノコは何ものなんだろうか?

知ってる範囲で名前を出すとしたら

ハタケシメジ

もうこれしかありません。
発生環境的に言えばまさにハタケシメジっぽいところから出ている、、ということは言えると思います。
でも、形態的に見ればハタケシメジと異なる部分が多いのです。
例えば

  • 傘の表面が繊維質であること
  • 傘の中央がやや尖っている
  • ヒダがややクリーム色
  • 柄も繊維状の筋が入っている

などなど、、、
これをFacebookの美菌俱楽部に投稿してみると3人のきのこ猛者(Rじかる氏、K島氏、S9氏)などから「ハタケシメジ」には見えない、、、とのご意見が、、、やばいやばい (;^_^A

そして、この3人のうち、2名からは「これイッポンシメジ属ではないのか?」とのご意見が。
だとすると、最初に僕が思ったものと同じで、例えばハルシメジの仲間などが候補に挙がってくるかと思われます。
ちなみにウメハルシメジを写真をアップしておきます、こんなやつね。

2015.4.11 大阪 ウメハルシメジ

傘の質感や、柄の質感など、かなりこのウメハルシメジと似てると思いませんか?
ただし、再度言いますがFig.1の周りにはいくら探しても梅は存在しません。
ウメハルシメジは梅の木の周辺2~3mから発生します。菌根性のイグチの様に10m先のコナラが宿主、、なんてことは一般的には考えずらい。なのでやはりウメハルシメジとは考えにくいのです。


普通に見るとやはりハタケシメジには見えないんですが、もしかしてこんな雰囲気のものもあるのだろうか??
と考えて一つの仮説を立ててみました。

春に発生するハタケシメジはこんな形態なのではないか?

以前春に発生したムラサキフウセンタケを見たことがあるのですが、ぱっと見の色が黒に見えるぐらい濃い紫色でした。教えてくれた方に聞くと「春に出るムラサキフウセンタケはこんな色なんです」とのこと。
ただし、それが本当にムラサキフウセンタケと呼ばれるものかどうかは不明なのですが、、、

ということで、このハタケシメジ疑いのキノコを検鏡してみました。

担子器のサイズ:22μmぐらい
シスチジア:発見できませんでした

Fig.3 胞子紋からの水封

胞子の形:ほぼ球形
胞子サイズ:6~7μm

さていかがでしょう?
この時点で「イッポンシメジ属ではない」というのがお分かりいただけたでしょうか?

ちなみにイッポンシメジ属の中で一番疑わしいキノコであるウメハルシメジの胞子を見てみましょう。

ウメハルシメジの胞子

ウメハルシメジの胞子である。

胞子の形:多角形、くちばし状突起が存在する
胞子のサイズ:8~10μm

イッポンシメジ属のきのこの特徴である「胞子の形が多角形」がFig.3の写真からはうかがえません。
また、逆に胞子の形がほぼ球形であることから、ますますハタケシメジの疑いが濃くなってきました。


秋のハタケシメジ

2021.11.12 大阪

「春に発生するんだったら秋にも発生するっしょ」

別に確信があったわけではないが、ハタケシメジは毎年同じ場所に発生する、という話はよく聞く。
土の中に埋められた材を分解し終わるまで発生し続ける、と言われているからだ。

だとしたら、春に発生した場所は秋にも発生する、、はず。
と思って見に行ったらまったく同じ場所に発生していた。

その姿を見て直ぐに

「こりゃ、どうみてもハタケシメジだわな」

と思ったものだ。
ハタケシメジを見て、ハタケシメジだと思う。
当り前のことではあるが、以前のハタケシメジ疑いのきのこと比べてあまりの違いに愕然としてしまう。

では詳細を見ていきましょう。

2021.11.12 大阪

傘の色は褐色で平滑、少し粉状。傘の縁はやや湾曲している。
以前のFig.1のきのこの様に繊維状ではない。
質感もかなりしっとりしている。
まさしくハタケシメジ品質!!

2021.11.12 大阪

ではヒダを見てみましょう。
柄に直生していて、かなり密なのが分かります。
また写真ではややクリーム色っぽく見えますが、実際にはかなり白いのですよね。
そして何よりピンクになりそうにないヒダの色でもあります。

つまりはイッポンシメジ属ではない。

これを見てさすがにイッポンシメジ属を疑う人はいないと思われます。

では柄を見てみましょう。

2021.11.12 大阪

柄はほんの少しだけ繊維状の縦線が確認できますね。ただしかなり薄い。
Fig.1で見られるような、明らかな繊維質のものではないですね。

どうでしょう?これはハタケシメジ、、、ですよね?
念のため胞子を見てみましょう。

ハタケシメジの胞子 胞子をスライドグラス上に落としたものを水封して撮影

胞子の形:ほぼ球形
胞子サイズ:5μm~7μm

ってことで胞子の形やサイズなどは図鑑のハタケシメジと同じであるし、同時に春のハタケシメジ似のきのこともほぼ一緒と言っていいだろう。

DNAを調べてもらう

Fig.1 2021.4.9 大阪

話は去年の春にさかのぼる。
まるで後出しジャイケンのようであるが(笑)、実はハタケシメジ疑いのきのこの話で盛り上がっていた時に、べべひろさんから

「例のハタケシメジ疑いのきのこ、DNA調べてもいいですよ」

との嬉しい申し出。
なんともはや、べべひろさんには頭が上がりません。
今度会ったらカレーおごるね(笑)

そして結果が出たのが8月。

「ITS配列がハタケシメジと99%一致でした!」

とのこと。
実は系統樹のことについては詳しく知っているわけではないが、「日本のきのこ」に載っている保坂さんの文章を引用してみたいと思う。

5.子系統樹の推定

解析の対象となるきのこの塩基配列を決定できたら、いよいよ系統樹を推定することができる。 系統樹は生物の進化を樹形で表したもので、進化的に近縁な種同士が近い位置に描かれる

「日本のきのこ」今関 六也 (著), 大谷 吉雄 (著), 本郷 次雄 (著) 

Fig.4 Fig.1のきのこの系統樹 作成:べべひろ氏

Fig.4の系統樹を見て欲しい。
赤の線で囲んであるのがFig.1のきのこのデータが属するクレードである。

良くはわからないが、クレード内の相同性が99.8~99.6%というのだから、「まぁ、ほとんど同じでしょ?」と言ってもいいぐらいなんでしょうね。

春のハタケシメジと秋のハタケシメジの形態が異なるのはなぜか?

春に発生するハタケシメジと秋に発生するハタケシメジは同種である、と今のところ考えている。

少なくとも春に発生するものは Lyophyllum decastes であることが確定したわけですし、同じ場所から発生している秋のハタケシメジもほぼ同種(恐らく同じシロのもの)だと考えるのが妥当だと思う。

だとしたら、この2つのハタケシメジがこんなにも形態が異なるのは何故なんだろうか?
ちなみに、春のハタケシメジについては1度行っただけではなく、気になったので何回も通っていたが、ずっとこの様な形態であった。

いくつか仮説を立ててみる

  1. 気温の違い
  2. 気温の変化の違い
  3. 雨の量
  4. 雨の降り方

こんなもんでしょうか?ほかに有ったらご指摘ください。

で、一つずつ見ていきますと、、、

1.気温の違い
2021年の月ごとの平均気温(気象庁)

春に発生していたキノコは主に4月通して発生していました。
大阪の去年の4月の平均気温を調べてみると15.5度でした。
それでは秋のハタケシメジが発生していた月はと言うと11月です。
では11月の平均気温はと言うと14.1度
およそ1.4度の差ですね。
この差がどれだけ形態に影響を与えられるのか、、、、ふーむ。

2.気温の変化の違い

春に関しては気温が低い=>暖かいという「変化」があります。
きのこが子実体を作ろうとする条件の一つとしてこの「温度変化」が発生のスイッチになると言われています。
つまり4月と言うのは

低かった気温から暖かくなる切り替えの時期

だと思われます。

また逆に11月と言うのは夏も終わり、秋も終わりを迎えようとする時期であり、気温が低くなるためのギアを入れ替えるタイミングということができる。こちらは4月とは逆に

暖かい時期から寒くなるスイッチが入る時期

でありますな。
そして上記のグラフを見てください。
4月から5月になる勾配と、11月から12月へ至る勾配を比べてみると11月から12月に落ちていく勾配の方が急ですね。
この勾配の差が形態の差を生み出すのか???うーーーむ。

3.雨の量

4月の雨の量を見てみると 224.0mm、11月を見ると98.5mmと4月の半分以下となっています。
こうやって見ると去年は梅雨時期の7月が268.5mmですので、4月とっては雨の量がとっても多かったのだと思われます。そう言えば、このハタケシメジを見に行ってた時は雨が良く降っていた様に思います。

もしかして雨の量が多ければ、ハタケシメジはこの様な形態で出てくるのだろうか??

この謎を解くには今年と比較してみないといけませんね。

4.雨の降り方


では最後の要因、雨の降り方です。
雨が降り続けるのか、一時期降らなくっていきなり降るのか、、、つまりは降水量の急激な変化が子実体発生の要因にもなるだろうし、もしかして子実体生長にまつわる大きな要因になるかもしれないと思うのです。
この去年の4月であれば、降水量が急激に増えておりますね。それに比べて11月はなだらかな減少傾向にある。この辺りの変化はもしかして、もしかするかもしれません。


ということで、あくまでも「妄想レベル」ではありますが、春に発生するハタケシメジと秋に発生するハタケシメジが何故形態が異なるのかを考えてみました。
また1年だけではなく、何年かは比較の為に行かねばなりませぬな。

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