イッポンシメジ図鑑「ワカクサウラベニタケ」
今年の6月の事である。
是非ともお会いしたいと熱望していたキノコが向こうから
「わたしも貴方にお会いしたかったの、、」
と僕の目の前に現れたのだ!!
午前9時、関西では例年より早く梅雨入り宣言されていて、きのこびとたちがざわざわし始めていたそんな朝。
会社に出勤してきて何気にTwitterを眺めていたらフォローしているケイさんがこの写真をアップしていたのだ。
傘の細鱗片、天頂が少し窪んだようになっているところ、そして薄っすらと見える条線らしきもの、そしてそして何よりその輝くような黄緑色。それはまさしく夢にまで思い浮かべていたキノコに違いなかった。
ワカクサウラベニタケ
同じ「若草」という名前を冠したワカクサタケも相当素敵で可愛いきのこであるのが、その可愛いきのこを遥かに凌駕するぐらいの輝きを持ったキノコであることには間違いない。
しかもこの写真、まるで自らが光を発しているかのような蛍光色で輝いて見えるのは僕だけではあるまい。
そこで、ケイさんにメッセージで連絡を取ってみると「案内しますよ~」とのことだったので、その週の週末に蛍光色のキノコが発生していた場所に連れて行ってもらうことになった。
ワカクサウラベニタケを分解する
ケイさんがワカクサウラベニタケを発見してから4日。
こういう小型のイッポンシメジ属のキノコがたった4日だけでどれだけその姿を変えているか、、、それを想像するのはさほど困難な事ではない。
多くのキノコを見てきた経験からすると、あの蛍光色に輝いていたキノコは萎れてほぼ原型を留めていないだろう、、、という予測を立てていた。
しかしだ、一本発生していたということは、それ以外にも何本か新たに発生している可能性もあるし、幼菌で見逃していたのもあるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きつつ、そのポイントに着いた。
苔が壁面を覆うような場所で、その緑で覆い尽くされた中から、間違いなく保護色であろうと思われるか細い一本のキノコを探すのは有った場所を知っている人であっても困難を極めた。
例えばかぐや姫の様にこのキノコが蛍光色を保っていたならば、それはまだ少しは容易だったかもしれない。しかし「あの輝き」を目印にしていたら、永遠に見つからないかもしれない。我々は20mぐらい続いている苔の壁面をヤモリの様に張り付きながらローラー作成を実施した。そしてやっとのことで以前輝いていたであろう1本をケイさんが発見したのでした。
その姿を良く観察すると、まさに以前発見したものと同じ子実体であり、輝きは失われているものの、かろうじて原型を留めており、その姿を見る限り小型のイッポンシメジ属であろうという特徴はちゃんと備えているのであった。
ではでは、その細かい特徴を図鑑の記載からチェックしてみましょう。
図鑑は「北陸のキノコ図鑑」
ワカクサウラベニタケ(若草裏紅茸)
Entoloma incanum (Fr.) Hesler (incanum→灰白色の)
大分類 | 中分類 | 内容 |
生態 | 発生 | 夏~秋 |
場所 |
山林内の路傍や牧草地に少数群生、稀
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分布 |
日本(福井、兵庫、大阪)、欧州、北米、南米(南 部)、 パキスタン、 パプア・ニューギニア、 ニュージー ランド。
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傘 | 径 | 1~6cmの小型菌 |
形 |
はじめ饅頭形~頂部の切断された円錐形~ほぼ平らに開く
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色 |
表面オリーブ緑色、黄緑色、レモン黄色など
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表面 |
中央部は細鱗片に覆われ、多少へそ状にくぼむことあり、湿時やや放射状の条線を表す。
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柄 | 大きさ |
2~6×0.2~0.3cm
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形 |
下方やや太く中空、
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色 | 淡黄色~緑黄色 | |
表面 | 平滑 | |
色変化 |
特に下部では手で触れると速やかに青緑色に変わる
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ひだ | 付き方 |
直生~やや垂生、
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色 |
白色または僅かに緑色→ピンク色
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密度 | 疎 | |
肉 | 色 | 薄くオリーブ色 |
味 | 無味 | |
臭い |
強い悪臭(むれた靴様?)あり
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色変化 |
傷つくと青変する。
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胞子 | 形 |
不規則な六~七角形
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大きさ |
9.5~12.5(13.5)×7.5~9 (10)μm
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シスチジア | 有無 | なし |
菌糸 | クランプ | なし |
説明 |
全体が黄色~黄緑色をおび、傷ついた部分が青緑色に変わるという、、きのこ類ではあまり例をみない特徴をそなえている、美しい可憐なきのこ
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図鑑では「頂部の切断された円錐形」という表現が使われていますがまさにその通りですよね?
これはなかなか面白い特徴で他の小型のイッポンシメジ属でもこの様な特徴がみられます。恐らく傘の頂部にある窪みと何らかの関係があるのじゃないか?と疑っておりますが、、、さて?
それともう一つ特徴的なのは傘の条線ですね。この子実体は既に傘の色が変色するぐらい老成化してきているので、細かい鱗片は完全に消失しています。その代り、多少湿っていることもあり条線が明確化してきているのが分かります。
これは「溝線」という感じではないので、恐らくヒダと傘が付着している部分が透明化してきているのではないか?と考えております。
ヒダであります。
図鑑では「白色または僅かに緑色→ピンク色」と書いてありますが、もうすっかり胞子も熟してしまっておりますので、かなり褐色を帯びた肌色になっておりますね(小麦色に焼けた肌色ね w)。
ヒダとヒダの間は疎。また柄に対しては直生している、という感じでいいでしょう。
柄は本来傘と同色だったのでしょう。
しかし、傘の老成化による色変化のため、柄のみが元の色を保ったままなのでしょう。
表面は平滑で鱗片はまったくありません。
などの特徴から、このキノコはワカクサウラベニタケで間違いないと思われます。
ただ、贅沢を言わせてもらえば、もっとフレッシュな子実体を見たかった、、、というのが本音ですが、発生条件もわかりましたし、しっかりと検鏡もできましたのでヨシとしましょう・・・・。
・・・・としたところへ、またケイさんから画像が「無言」で送られてきた(なんで無言なんじゃ~w)。
僕がちょうど阿寒湖へキノコ調査に行っていた真っ最中である、、、、
僕は思わずこんな顔になった・・・ (@_@) 「えっ?」
以前発見したのが6月。そして今回が9月。
暑くなったり涼しくなったりと気温の変化が激しい今年なのだが、この日は台風が過ぎ去った後でたっぷりの水分がワカクサウラベニタケ下の苔たちを潤していたのであろう。
まさに、ドンピシャのタイミングで再訪した、ということになるね、、
素晴らしい!
そして北海道から飛んで帰りたかったよ(笑)
ここで改めて言うと、このワカクサウラベニタケの発生は「稀」である。
長年キノコをやってきた人もこいつを見ることなく一生を終える人だっているのだ(笑)。
もう一度図鑑の「分布」を見て欲しい。そこにはこう書かれている。
日本(福井、兵庫、大阪)、欧州、北米、南米(南 部)、 パキスタン、 パプア・ニューギニア、 ニュージー ランド。
日本では福井と兵庫、そして大阪にしか発生例がない、ということ。
これはワカクサウラベニタケがこの地域独特のもの、というよりも発見例が図鑑を作成する時点でこの3県しかなかった、、というのが正しいだろう。
それだけ発生自体が稀なキノコだと思ってもらっていいかと思います。
そして宮城でも発見された!
仙台へ出張に行く際に少し時間に余裕があれば「S会」の方たちに近郊のキノコスポットに散策へ連れて行ってもらったりして非常に良くして頂いている。この間はS竹さん特製のカレーなどを振舞っていただいたりして、ストイックな関西のキノコ散策と違い、とっても贅沢なキノコライフを過ごさせてもらった。
そんなS会の方たちが、あの「おかえりモネ」の舞台である気仙沼までキノコ散策に行ったそうな。
そこで見つけたのがこれ、美しすぎるほどのワカクサウラベニタケ。
まさしく蛍光色!!これを見るたびに世の中に初めて蛍光ペンが発売されたことを思い出す(笑)。
傘頭頂部にある細鱗片、そして平らな部分からゆっくりと中央に向かうにしたがって窪んでいく感じなど特徴が良く出ている。
この子実体は傘全体に細鱗片をちりばめて、傘の縁部が波打っておりますね。この特徴は図鑑の記述にはありませんが、傘が大きく成ればこの様に波打つのかもしれません。
また全体に緑色からは退色し、ややオリーブ色を帯びた感じになっております。
恐らく成長するにしたがって緑 >黄色へと変化していくのだと思われます。
現在ワカクサウラベニタケの発生場所をネットで検索してみると北海道と兵庫の2か所ぐらいしか出てきません。
やはり発生件数はかなり少ないのでしょう。
今回はその2つの県に加えて宮城県が追加されました。
ワカクサウラベニタケはその黄緑色の蛍光色に輝く美しさと引き換えに、場所によっては、かなり見つけにくいキノコであります。
今後、この記事をきっかけに多くの場所で発見されればいいなぁ、、なんて思っています。