きのこはどうやって胞子を遠くに飛ばすのか?(11)

Twitterにて役に立たないきのこ氏「(流体力学的)きのこの仮説」というコラムを書いた、というTweetが流れてきた。
実はこれ、以前から気になっていたのですが、まったく手を付けられずにいました。そんな僕にとって「我が意を得たり」と思い読み進めて行った記事は、僕の想像の遥か3000m以上上空を飛んでおりました (@_@;)
この記事は役に立たないきのこ氏から許可を得て、画像、文章を転載させていただくことになったものです。また転載の際には僕なりの批評も付けてね、と言われちゃいましたので最後にちょこっと感想も付け加えておりますので、最後までお読みください。


臭いものに風

【注意】
この話は科学に無知な筆者が付け焼き刃の知識を基に書いた、いわゆるエセ科学と同等の記事で、内容的な正確性は未検証です。

第1仮説から第7仮説までは、きのこが風を使っていかに効率的に胞子を散布するかを検証して来ましたが、きのこの中には胞子を直接飛ばすのではなく、昆虫などの生物を利用して運ばせる、いわば植物の虫媒花のようなグループがいます。これらのきのこにも流体力学は関係するのでしょうか。

Fig.8-1

この手の虫を使うきのこの最も大きなグループはスッポンタケ目に属するきのこで、糞臭や腐敗臭といった臭いを発する粘液状の胞子(グレバ)をで虫を誘うのが特徴です。ということは直接胞子は撒かないものの、虫を呼び寄せるために臭いを拡散させる必要があり、当然そこには気流が必要となるのです。

それではまず気流がどう作用するかを考えるために、きのこの形を見てみましょう。[Fig.8-1]はスッポンタケ目の名前を代表しているスッポンタケですが、その形は太い柄の先端にグレバを蓄えた頭部があります。第4仮説で柄の空力特性について考察しましたが、この形態にはそれ、つまり柄の風下側に発生する乱流による拡散が当てはまるものと思われます。

Fig.8-2

ここまでは比較的シンプルに話が進むのですが、このグループのきのこはもう一つ、形が奇妙奇天烈という大きな特徴があります。中でも有名なのはスッポンタケ目スッポンタケ科に属するキヌガサタケでしょう。残念ながら私がまだ実物を見たことなないので絵での紹介となりますが、キヌガサタケは[Fig.8-2]のようにスッポンタケの頭の下からレース状の膜が広がったような形をしていて、その優美な姿からきのこの女王と呼ばれています。

このレース状の膜の役割については諸説あるようですが、その有力な一つが地表を這う虫がこれを登ることでグレバにたどり着きやすいというものです。なるほどキヌガサタケの膜は地面まで届いており、目も詰んでいるので小さな虫が乗っても耐えられそうです。

Fig.8-3

ところがキヌガサタケの仲間には、他にも形が少し異なるものがあり、その一つは冒頭の写真にあるマクキヌガサタケです。このマクキヌガサタケが異なるのはレース状の膜の丈が短く地表に届いていないことと、目も粗いことです。この丈では虫が這い上がるのに不向きですし、強度的にも不安があります。

だとするとこのマクキヌガサタケのレース状の膜には他の役割があると考えるのがふさわしく、今度は流体力学的な観点で見てみましょう。上部に垂れ下がる膜に風が当たるとどうなるでしょうか。[Fig.8-3]は上がスッポンタケ、下がマクキヌガサタケをイメージした模式図ですが、幸いマクキヌガサタケのレースは目が粗いので、気流は完全には遮られずに網目の間を通り抜けようとします。しかしレースの目は不規則で断面も板状に近いため、すぐにはく離して周囲に不規則な乱流を発生させると考えられます。

Fig.8-4

今度はこれを横から見てみましょう。スッポンタケでは軸の上から下まで同じように軸の風下側に乱流渦を生じますが、マクキヌガサタケではグレバに近い上部で複雑な乱流が発生します。それにより渦がグレバ付近にも及んで周囲に臭いを広く拡散させることになるのではないでしょうか。[Fig.8-4]

一方この考え方では圧力抵抗が大きくなって、遠くに臭いを運ぶには不利になります。ただそもそも胞子を運ぶのは風ではなく虫なので、わざわざ遠くから呼び寄せる必要はなく、近所から動員すればよいわけです。そしてキヌガサタケとマクキヌガサタケのレース状の膜の使い方の違いですが、キヌガサタケのグレバは糞臭であるのに対し、マクキヌガサタケは熟れた果物の発酵臭になっています。キヌガサタケの臭いはハエだけでなく地面を這うダンゴムシなどもターゲットになっているのに対し、マクキヌガサタケはショウジョウバエ(体も小さいのです!)など飛行する虫を意識していると考えると、丈の違いも納得できるのではないでしょうか。

これが流体力学的きのこの第8仮説、スッポンタケ科のきのこの一部は乱流渦を利用してグレバの臭いを周囲に拡散させ、虫を呼び寄せているというものです。いかがでしょうか。


【この仮説における問題点】

  • この考察の通りであればスッポンタケよりキヌガサタケやマクキヌガサタケの方が勢力を拡大していそうだが、実際にはスッポンタケのほうが多く見つかっている
  • 冒頭の写真ではマクキヌガサタケのレース状の膜にハエが止まっており、マクキヌガサタケの膜に関する仮説と相反する可能性もある


編集後記

さて、今回のコラムはいかがでしたでしょうか?
ここで出てくるスッポンタケ、キヌガサタケ、マクキヌガサタケなどは一般的に「腹菌類」と呼ばれているキノコたちですね。これらはいわゆるハラタケ型のキノコと違って胞子を風ではなく別の方法によって拡散するという生存戦略なのですね。この3種は「虫」を媒介として胞子を拡散させているのですが、虫を集める方法としては「臭い」という武器を使っているのですね。臭いを遠くへ飛ばせれば飛ばせるほど多くの虫を引き寄せられる、、というわけです。
ただ、腹菌類のなかで、キヌガサタケの様なレースをまとったキノコはキヌガサタケの仲間以外にはありません。なぜキヌガサタケの仲間たちだけがこんなにも複雑な構造のレースを作り出したのだろうか?キヌガサタケのレースをよっこらよっこら登っていくダンゴムシがいたらその答えを是非聞いてみて欲しい(笑)。


【参考文献】(敬称略)

『流れのふしぎ』遊んでわかる流体力学のABC
日本機械学会編 石綿良三・根本光正著(講談社ブルーバックス)

『鳩ぽっぽ』初心者のための航空力学講座
Oki (https://pigeon-poppo.com)

『機械設計エンジニアの基礎知識』流体力学の基礎を学ぶ
MONOWEB (https://d-engineer.com/monoweb.html)

『楽しい流れの実験教室』
日本機械学会 流体工学部門 (https://www.jsme-fed.org/experiment/index.html)

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