きのこはどうやって胞子を遠くに飛ばすのか?(5)

Twitterにて役に立たないきのこ氏「(流体力学的)きのこの仮説」というコラムを書いた、というTweetが流れてきた。
実はこれ、以前から気になっていたのですが、まったく手を付けられずにいました。そんな僕にとって「我が意を得たり」と思い読み進めて行った記事は、僕の想像の遥か3000m以上上空を飛んでおりました (@_@;)
この記事は役に立たないきのこ氏から許可を得て、画像、文章を転載させていただくことになったものです。また転載の際には僕なりの批評も付けてね、と言われちゃいましたので最後にちょこっと感想も付け加えておりますので、最後までお読みください。


きのこの柄は必要悪か

【注意】
この話は科学に無知な筆者が付け焼き刃の知識を基に書いた、いわゆるエセ科学と同等の記事で、内容的な正確性は未検証です。

Fig.4-1

第1仮説から第3仮説ではきのこの傘に的を絞り、柄はないものとして話を進めて来ました。しかし少なくとも地上性のきのこの多くは柄を持ちますし、第3仮説で取り上げたような、傘をほぼ水平に開いたきのこを考えるならば、柄が気流に及ぼす影響を無視するわけには行きません。きのこが胞子を散布するに際し、柄の存在はどう作用するでしょうか。

柄の及ぼす影響でまず思い付くのが空気抵抗でしょう。実はこれまでの説明では敢えて空気抵抗という表現を避けて来たのですが、ここではまずその空気抵抗について確認してみます。

流体力学においては、空気抵抗は摩擦抵抗と圧力抵抗の2種類が存在します。摩擦抵抗は流体と物質表面の間に働くもの、圧力抵抗はく離によって生じる抵抗で、今までの説明でも触れてきたように、胞子を風に乗せて散布する上では後者の圧力抵抗がとくに重要な役割を果たします。

Fig.4-2

それではきのこの柄に風がぶつかった時、空気抵抗はどのように働くでしょうか。Fig.4-2にきのこの柄を想定した円柱と気流の関係を図示してみました。図中の黄色い矩形は摩擦抵抗を、青い矩形は圧力抵抗をイメージしています。

きのこの柄が平滑であった場合(A)、気流は摩擦抵抗により生じた境界層(層流境界層)を作りながら柄に沿って流れますが、ある点に達するとはく離を起こしてそこから先の乱流が圧力抵抗となります。この圧力抵抗が大きいと柄に負荷が掛かって破壊を招く恐れがありますので、できれば小さく抑えたいものです。

圧力抵抗を抑える方法としてまず考えられるのは(B)のように柄を細くすることです。実際柄の細いきのこは存在しますが、強度的には柄だけでなく担子器を配置する傘も小さくせざるを得ません。

Fig.4-3

傘の面積を減らさずに圧力抵抗を減らすには(C)のように流線型にする方法はありますが、風向が一定でない自然環境下では逆効果なので、もう一つの方法として(D)のように柄の表面を荒くすることになります。第2仮説でも取り上げたように摩擦抵抗は増しますが、粗い表面上には細かな乱流による乱流境界層が生じて、結果的に平滑な円柱よりもはく離が遅延して圧力抵抗を生む後流の乱流が小さくなるのです。

以上を念頭に置きながら、実際のきのこ(地上生で束生しない、柄の径と長さの比が5:1以上のもの)の柄の径と表面の粗さの関係を見てみましょう。

明確な相関関係ではありませんが、柄の太いきのこではイボやささくれなど表面が粗いものが多く、細いものは平滑や粉状など平滑度が高いものが多い傾向にあるようです。[Fig.4-3] こう見て行くと、きのこはその大きさに応じて境界層制御の手法を使い分けながら、柄にぶつかる気流をうまく受け流しているのではないでしょうか。

ここまでは、きのこの柄や柄にかかる空気抵抗をどちらかと言えば必要悪的に見てきましたが、これらは本当に必要悪なのでしょうか。第3仮説までは傘より上の気流を使って傘の下から放出される胞子を巻き上げるという想定をしましたが、より胞子を効率的に巻き上げるには、直接傘の下に発生する気流を使う方がふさわしいはずです。

ここで先ほどの柄の周囲の気流の考察を見直してみると、柄の後方に正じる圧力抵抗を下げるということは、気流を失速させないことでもあることがわかります。(ゴルフボールのディンプルの役割を思い出してください)

Fig.4-4

こう考えるときのこの柄は、掛かる負担をなるべく抑えつつ、強い気流を保ったまま効率よく後方に発生する乱流を使って胞子を下からも巻き上げる役割も果たしているのではないでしょうか。[Fig.4-4]

これが流体力学的きのこの第4仮説、きのこの柄は避けることのできない空気抵抗を境界層制御により低減させつつ、下からも胞子を巻き上げることで胞子拡散に貢献しているというものです。いかがでしょうか。


【この仮説における問題点】

  • 柄の径と表面荒さの相関関係については、当てはまらない例が多くやや無理がある
  • 柄の後方に生じる乱流に関しては、圧力抵抗が小さいほどよいというのは根拠が薄く、構造上耐えられるならば逆に大きい方がよいとも考え得る

編集後記

さて、今回のコラムはいかがでしたでしょうか?
柄というものをじっくり眺めていると、何故柄が存在するんだろう?という疑問がわいてきます。まず最初に思いつくのはズバリ「胞子を遠くへ飛ばすため」と考えていいでしょう。地面すれすれに柄があるよりも、柄を伸ばすことにより背が高くなり、地面に胞子が落下する距離を伸ばすことができる、、、そう考えますよね?
そこからもう一つステップアップして、流体力学的な見地から柄を眺めてみると実は気流にとっては邪魔だと思っていた柄が実は胞子を遠くに飛ばす事への一役を担っているのではないか?という役に立たないきのこ氏の発想は本当にお見事だと思います。
ただ一つ感覚的にひっかかるのが、柄によってできた乱流は横向きの渦が出来るのではないか?とすれば、傘の末端で発生した乱流と合流?した際に果たして胞子を巻き上げるような気流が起こるのか・・・という疑問が残ります。
さて、真偽はどうなのでしょう?


【参考文献】(敬称略)

『流れのふしぎ』遊んでわかる流体力学のABC
日本機械学会編 石綿良三・根本光正著(講談社ブルーバックス)

『鳩ぽっぽ』初心者のための航空力学講座
Oki (https://pigeon-poppo.com)

『機械設計エンジニアの基礎知識』流体力学の基礎を学ぶ
MONOWEB (https://d-engineer.com/monoweb.html)

『楽しい流れの実験教室』
日本機械学会 流体工学部門 (https://www.jsme-fed.org/experiment/index.html)

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