毒キノコが笑ってる
自称「シロウトによるシロウトのための実録キノコ狩り入門」。
シロウトの強みか、「この本を読んで毒キノコにあたったり、山で遭難しても、著者および出版社はなんの責任も負いません」のフレーズで始まるこの本は、内容にも大量に毒が盛られている。
絶品キノコを毒キノコと鑑定してシロウトから巻き上げる強欲キノコ鑑定士の話、首吊り現場に毎年生えるキノコの話、マツタケのシロをめぐる騙し騙されの陰湿な争奪戦の話、キノコから湧く大量のウジ虫の話……。タイトルからお察しのとおり、変に明るい口調でこういうことを語られると、キノコの毒はもちろん、人間の悪意もウソも間違いも、すべてが笑い飛ばすべき親友であるような気がしてくる。それでたとえ、人が死んでも……まあ気にすんなってハッハッハ。
「わからないキノコに手を出してはいけません」
「キノコの判別は正確に行いましょう」
「『縦に裂けるキノコは大丈夫』などの毒キノコ判定法はすべて迷信です」
そう、その辺のことは知識として知っている。正しいとも思う。でもさ……人間の脳ミソってのは自分で思ってるほどには合理的に出来ちゃあいないわけよ。「ちょっとぐらい間違ってたっていいじゃない、大丈夫大丈夫、何とかなる」って言ってるうちに何が本当だかわかんなくなっちゃってさ……結局は人間万事結果オーライ。
それが人間って生き物の本性だと思うんだよね。だから、科学よりも迷信を愛してしまうのも、これはひとつの道理だと私は思うんだけれども。ダメかな?
――最近ありがちなテレビのバラエティ番組っぽいノリ。ガセネタが多いことも含め、俗っぽい内容に眉をひそめる人もいるかもしれない。でも、強欲・迷信・ウソに悪意に間違いにと、ダーティーパワー満載っていうのが、むしろキノコにはしっくりくる。なかなかこういう本ってなかったから、そういう点でかなり貴重な本だと思う。
聖なるもののようでありながら俗っぽくもある……キノコってのはふところが深いねぇ。
「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)2009年08月30日に掲載分を再掲載