モエギアミアシイグチを分解する
モエギアミアシイグチと初めて出会ったのは、今ほどキノコに興味を持ってない頃。
一人で山に入ってキノコを探しては、写真をパチパチ撮り、図鑑やネットで撮った写真と見比べては、あれかなぁ、それともこれかなぁ、、とキノコの絵合わせをやっていたものです(今でもそんなに変わらないけどね w)。
ただ、当時は綺麗なキノコだけを選んで撮っていたため、色があまり良くなかったり、形が崩れているものなどは、まったく被写体の対象にはなり得なかった。
そしてこのモエギアミアシイグチも「黒い」というだけですでに写真映えしないので、撮る気が起こるかと言うと「う~ん」と考えてしまうぐらいのものであったが、「黒い」というのが逆に珍しいキノコでもあったので証拠写真として撮っておいたのがこれである。
あまり気合が入ってないか?(笑)
この後、家に帰ってこのキノコが「モエギアミアシイグチ」だというのをネットで調べて分かった。検索ワードは「黒 きのこ」ですぐに出てきましたな (*^^*)
さて、そんなちょっとツレない出会いではあったものの、何か僕の中で引っかかるのものがあった。その引っかかりを次に追っていきましょう。
「モエギ」って何?
三田市へキノコ観察会に行った時の話。
その日は雨降りの何日か後だっただろうか、かなりキノコの数が多く、その中にこのモエギアミアシイグチの子実体も3つほど確認することが出来た。
1つめはサンプルとして採取したので2つめはそのまま放置されていた。しかし傘が黒いだけで、もし違うキノコだったらいけないので僕が傘の裏を指でさわり確認していたところ、その姿を見ていたメルヘンヤスコからこういうあだ名を付けられた。
「触診先生」
いやいや、一応だね、傘の裏がもしヒダだったら、、と思って触っていただけなんだけどね、、。しかも、傘の裏っちゅうても管孔かヒダか、そして管孔の孔口が大きいか小さいか、ほんでからヒダは疎なのか、それとも密なのか、、、それぐらいしかわからないので、触診したいうても大した判断材料にならんのよね、、、
なんて話をしつつ、ふと疑問に思った。
何故モエギアミアシイグチは「モエギ」って名前が付くのだろう??
この黒い子実体をしみじみ観察し、そして触診し、もしかしてこの「黒」が変化して「モエギ」に変化するのかも、、、なんて考えたものだ。
するとまたもメルヘンヤスコがその考えに割り込みを入れてきた
「柄のアミアミの下はモエギ色をしてるんですよ!」
げげっ、アッパーカットで顎をぶち抜かれた気分だ。なるほど、なるほど、その辺り触診ではわからないデータだ(笑)
しかし、この黒っぽい柄のどこにそんな色を隠していたのだろうか、、うかつにもそこには注目していなかったのでまったく気づいてなかった。
もえぎ色かぁ、、そうかぁ、、で、もえぎ色ってどんな色なんだ?
ということで調べてみて驚いた。
「もえぎ色」というのは1つの色ではないのです。
まず「もえぎ」というのはかなり曖昧な色みたいでWikipediaによると
「鮮やかな黄緑色系統の色。春に萌え出る草の芽をあらわす色」
となっていて3種類の漢字と色に分かれている。
それぞれ
(1)萌黄(芽吹いたばかりの若葉の色)
(2)萌葱(ネギの芽の色)
(3)萌木(新緑が萌え出るような草木の色)
という感じ。おなじ「もえぎ」でもこれだけ漢字が違って、これだけ色も違うっていうのは日本語の豊かな表現のひとつでもあり、海外からしたら複雑で分かりにくいところでもありますね。
では「モエギアミアシイグチ」の「もえぎ」はこの3つのうちのどれかというと「萌黄」となるので (1) の色ということになります。
モエギアミアシイグチの柄はただ黒い網目があるだけ、と思っていたあなた。
この網タイツの下に隠された「萌黄色」を見たいと思いませんか?
ですよね?では分解してみましょう。
モエギアミアシイグチを分解する
今年の観察会に向かう道すがら、久しぶりにモエギアミアシイグチを発見した。
前回見つけたのが触診をした時なので、約3年ぶりに出会えたことになる。ずっと待ち望んだこの出会い。「どれだけこの萌黄色の肌に黒い網タイツを見たかったか!!」、と書いてしまうとちょっとスケベっぽい印象を受ける読者もいるかもしれない。
それはね、当たらずとも遠からず(笑)
たぶん、男の深層心理の中にはこの網タイツに対する茫漠とした憧れが存在するのかもしれないな、、、(遠い目)
ではここでモエギアミアシイグチの特徴を列挙してみます。
参照はこれ「北陸のきのこ図鑑」
大項目 | 小項目 | 内容 |
発生 | 時期 | 夏~秋 |
樹種 | アカマツ混生林下に単生、群生 | |
傘 | 径 | 4~7 (14)cm |
形 | 半球形→饅頭形→盾状 | |
色 | 粘性なくオリーブ灰色~ほぼ黒色で微毛あり触れると黒ずむ | |
柄 | 長さ・径 | 4~7× (12)×0.7~1 (3)cm |
形 | 逆棍棒形で基部末端尖り中実 | |
表面 | 傘より淡く全面に明瞭な網目模様あり | |
色 | 黄色~オリーブ黄色~帯褐黄色を示す 網目は触れたり老成で黒ずむ。 | |
管孔 | 形 | 上生~離生し孔長 7mm |
色 | 内外またはそれ以上で淡灰黄色~帯緑灰色→帯橙灰色~帯紫灰色 | |
孔口 | 小角形で傷つくと黒変 | |
肉 | 傘部 | 傘部は厚く質しまり灰白色で表皮下淡帯緑黄色 |
柄部 | 上位 灰白色、中位淡帯緑黄色、下位は下方ほど黄色が濃い | |
傷口 | 淡灰色→暗灰色 | |
味など | 無味無臭 |
特徴の中で「色」に関するものをボールドにしてみました。
まずは傘を見てみましょう
質感がわかりますかね?
少し微毛が生えていて、ビロードの様な質感が感じられませんか?
そして、右側の傘に黒く傷ついている部分があるのが分かりますかね?これは何かが触れて黒変しているのだと思われます。
では次は傘の裏を見ましょう。
管孔はこんな感じになっております。
これを見て何色に感じますかね?僕は単に「灰色」に見えちゃいます。
ところが、北陸のキノコ図鑑にはこう記述されています。
淡灰黄色~帯緑灰色 → 帯橙灰色~帯紫灰色
そう言われて良くみるとところどころで黄緑色のような色を帯びているのがわかります。
そして、傷をつけたとことはあっという間に黒変します。
こういう姿にギュッと心を鷲掴みにされてしまうのですよね、、ワタクシ(変態やな)。
さて、それでは今回の注目部位である柄の部分を見てみましょう。
雑感を言いますと、白の下地に黒の網目があり、ところどころシミの様に黄緑色が見える、、という感じ。
「日本のきのこ」の表現にあるような
「帯緑色の地に隆起した網目模様」
という様には見えません。
残念ながら「萌黄色の肌に黒い網タイツ」という萌えスタイルではありません(笑)。
ただネットにアップされている写真を見ていると、この表現にピッタリのものも見受けられますので、恐らくこの子実体の黄緑色は薄いのか(個体差)、それとも生長して薄くなったのかと思われます。
また、手で触れたところとか、何かに当たったとことなどは管孔に負けないぐらい黒変していますね。このワイルド感がたまりません(やっぱ変態やな w)。
そしてカットしてみました。
若干黒変しているように見えますが、その色は薄いです。
また(ここからが重要)、柄の中部から下部に渡って色がグラデーション状に薄い黄緑色から濃い色に変化しております。
これはつまり「北陸のキノコ図鑑」が言うところの
柄の中位は淡帯緑黄色。下位は下方ほど黄色が濃い。
という記述にばっちり合っています。
この色はもう「萌黄色」と言っていいでしょう。この萌黄色が柄の表面にまで露出しているのがこのモエギアミアシイグチの原形態なのでしょうね (*^^*)
紛らわしいヤツラ
さてさて、ここまでいろいろ見てきて、モエギアミアシイグチの魅力、分かってもらえたでしょうか?
そして、モエギアミアシイグチの特徴もしっかりと頭に入れてもらえたかと思うのです。大丈夫よね?(笑)
ということで、見て欲しい写真があります。
愛知県在住ののS木さんからちょいとお貸しいただいた写真であります。
キノコはこんなのがおるので悩まされます。
- 傘の色は黒
- 柄には黒い網目がある
- ガッシリした見た目
- どう見てもイグチの風貌
というと直感的に「モエギアミアシイグチ!」と答えてしまいますよね。
もういっちょいきましょ。
この写真を見たら「ん?」となりますか?
モエギアミアシイグチと傘は確かに似ている、傘の裏もこんな色をしておりますな。そして柄のアミアミも黒いんだけど、、、、
そう、萌黄の地肌が見えない、、どこにも。
アミアミはあるけど、とっても黒が濃く、そして深い。
これですね、実は「ミカワクロアミアシイグチ」という猛毒キノコなのです。
「ミカワ(三河)」というだけあって、愛知県を中心にした中部地域でしか発見されていないみたいですが、、、どうなのでしょうね?
それとそれとこれです。
クロアワタケの仲間ではないか、と言われたもの。
最初はこの柄を見て「ヤマイグチの仲間?」と思ったのですが、アミアミの形が微妙に異なります。また管孔は茶色っぽくアワタケっぽい管孔をしておりますね。
そしてモエギアミアシイグチ決定的に違うのが、管孔を傷つけると茶変すること。
黒変するモエギアミアシイグチと比べてインパクトが薄いの(笑)
さてさて、今回モエギアミアシイグチを取り上げてみましたがいかがでしょうか?僕が「萌黄色の肌と、黒い網タイツが見たい!」という気持ちが十分伝わったのじゃないかと思います。
読んだみなさんもモエギアミアシイグチの虜になったことでしょう。
ではモエギアミアシイグチを見つけたら「何をしたらいいのか」分かりますよね??
そう 「触診」です(笑)