フェンスの向こうのアメリカウラベニイロガワリ

栃木の勢いが止まらない・・・・

栃木在住の菌友レッドちゃんに「もしアメリカウラベニイロガワリが出たらさぁ、詳しい写真を撮ってくんないかなぁ?」とお願いしていた。
関西では完全にイグチ前線の訪れがピタッと止まってしまって、空梅雨ならぬ「空イグチ」に終わってしまうのではないか、という予想もちらほら出ているぐらいイグチやテングタケの仲間の「出」が悪い。

それに比べて栃木の方では、もうここぞとばかりにあちらこちらに出ているようなのだ。恐るべし栃木!!ただこの状態は栃木だけというわけではもちろん無いだろう。多くの関東エリアでは同じ様に出ているはずなのだが、いかんせんレッドちゃんほどの嗅覚を持った人はいないからなのか、何なのかわからないが、なんせ栃木の情報だけが目に飛び込んでくるのだ。

君はアメリカウラベニイロガワリなのか?

レッドちゃんは複数箇所で発見したアメリカウラベニイロガワリの写真を送ってきてくれた。それらの特徴は全て同じ、というわけではない。その場所によって例えば傘の裏の色が微妙に違っていたり、傘の色が濃かったりするのだが、そのどれを見てもアメリカウラベニイロガワリの特徴の範囲内には入っているようなので、少なくともアメリカウラベニイロガワリの近縁種で良いのではないか、と思われる。

では、恒例のアメリカウラベニイロガワリの特徴を列挙してみましょう。

アメリカウラベニイロガワリ (亜米利加裏紅変色)
Boletus subvelutipes Peck ※Subvelutipes → ややビロード状の柄

環境発生 夏~秋、 ブナ科樹林下に群生
分布 日本(本州、四国、九州)、台湾、北米東部
4~13.5cm、半球形→饅頭形→浅皿状
表面 湿時弱粘性でビロード状→平滑
色彩幅広く褐色、帯赤褐色、黄褐色、暗褐色などで傷つくと青変
5~14× 1~2cm、円柱形~逆棍棒形で中実
表面 黄色地に紅褐色の細粒や条線が覆い、ときに不明瞭な網目をなし
基部褐色の粗毛菌糸をまとう。
青変 触れると青変し後褐色しみ化
傘裏管孔 直生~離生し孔長5~10mm で黄色→オ リーブ黄色
孔口 血赤色~帯褐赤色で周辺淡く円孔、2 ~3個/mm
傷口青変後褐色しみ化
傘部 白色~淡黄白色で表皮下表面色を帯び
柄部淡黄色で点々とワイン赤部あり、ともに傷口は青変後退色し淡灰色化
その他無味菌臭あり

参考:北陸のきのこ図鑑

やはりざっと特徴と比べてみたらアメリカウラベニイロガワリの特徴にかなり近いと言っていいかと思います。

ではいくつかの場所でサンプルを撮ってくれたので、それを見比べてみましょう。

A地点のアメリカウラベニイロガワリ

  • 傘はビロード状でオリーブ色か、もう少し濃いオリーブ褐色
  • 柄は上部が黄色っぽく、そのすぐ下より赤褐色で基部まで覆われている
  • 柄は短く、太く、下部にいくに従ってぷっくりと太くなっている
  • 傘の裏はさほど赤くなく、黄色にやや赤い細粒がところどころにある
  • 肉の青変性は傘の方が高く、柄の中心部はやや青変が少ない

B地点のアメリカウラベニイロガワリ

  • 傘はビロード状でこげ茶色をしている
  • 柄は上部がオレンジ色っぽく、そのすぐ下より赤褐色で基部まで覆われている
  • 柄はやや太く、下部にいくに従って若干太くなっている
  • 傘の裏はかなり赤みが強く縁部にいくに従って赤みが薄くなる
  • 肉の青変性は傘の方が高く、柄の方はやや青変が少ない

C地点のアメリカウラベニイロガワリ

  • 傘はビロード状でこげ茶色をしている
  • 柄は上部が黄色みが強く、ササクレていて、下部になってようやく赤みが増す
  • 柄はやや太く、短く、下部にいくに従ってぷっくりと太くなっている
  • 傘の裏はやや赤みが強く縁部にいくに従って赤みが薄くなる
  • 肉の青変性は傘の方も柄の方もさほど変わらない

ここのアメリカウラベニイロガワリは、外皮のようなものが剥けているものがおおいらしく、もしかしてアメリカウラベニイロガワリでないかもしれない。

全体的に眺めてみる

A地点のアメリカウラベニイロガワリ

B地点のアメリカウラベニイロガワリ

C地点のアメリカウラベニイロガワリ

どうだろうか?
出る場所による「個体差」というレベルなのか、それとも別種なのか、、、
A地点、B地点、C地点、それぞれ出てくる場所の違いでこれだけの変化があってもいいのではないか?と個人的には思っているがどうだろうか?それとも、別種として疑う必要があるのか・・・・

牛研さんからの指摘(天からの声)がありました。
A地点のもの ・・・ オオウラベニイロガワリ
B地点のもの ・・・ 東日本のアメリカウラベニイロガワリ
C地点のもの ・・・ 不明
だそうです。

https://twitter.com/gyukankin/status/1147113715499536384

ちなみにアメリカウラベニイロガワリは西日本型と東日本型があるそうで、西日本型のアメリカウラベニイロガワリは富山が最東らしいです。

そして「A地点のものとB地点のものを見分けるポイントというのはどこにあるのですか?」と質問したところ天の声が返ってきましたので要約と僕なりの解釈を書き加えて置きます。

真(和製)の「アメリカウラベニイロガワリ」というのは、西日本で産出されたもので、特徴としては照葉樹林下(シイやカシ)で発生したもので、その他の特徴や胞子の大きさは新菌類図鑑の記載に一致するものであること。
それ以外のものは基本的には別種である。
つまり、牛研さんの指摘にあった「東日本のアメリカウラベニイロガワリ」というのは分かりやすくするためのものであり、実質は別種ということになるし、東日本にはいまのところアメリカウラベニイロガワリは存在しない、ということになります。

とすれば、「日本のきのこ」(ヤマケイ版)のアメリカウラベニイロガワリの写真は北海道で撮られたものなので正確にいうと真のアメリカウラベニイロガワリではない、ということになります。ただ、目視的にはほぼほぼ適合しているので、オッケーのレベルという感じで良いのかとも思います。

フェンスの向こうのアメリカウラベニイロガワリ

この記事のタイトルである。

「FENCEの向こうのアメリカ」へのオマージュ記事、であります(笑)。

あの柳ジョージ&レイニーウッドの名曲のなかの一つである「FENCEの向こうのアメリカ」は柳ジョージの子供の頃の思い出を歌詞に載せた曲である。

石畳の坂を登れば
海の見える陸に出た
防波堤に当たる波まに
俺を呼ぶ声が聞こえた
どんなに離れても消して忘れなかったよ
朽ち果てた俺の家と鉄のフェンス

「FENCEの向こうのアメリカ」柳ジョージ&レイニーウッド

横浜で育った彼の直ぐ側にはアメリカがあった。
しかしそのアメリカとは高いフェンスで分断され、向こうに住んでいる人たちと、そしてこちらに住んでいる人たちには越えられない壁が存在した。

そう、、それは今の僕たちと同じだ。

栃木とそれ以外の地域には越えられない壁があるのだ。

フェンスの向こうのアメリカウラベニイロガワリを僕らは指を加えて見ている他はないのである。

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