ブドウニガイグチ論争

今年少し衝撃的な事実が判明した。

今まで自分がブドウニガイグチと思っていたものは、実は別のものではないか?

というとんでもな事実。
今年一年を締めくくる記事に、そんなものを書くのが相応しいのかどうかは知らぬが、自戒の意味を込めて、そしてこの一年の誤同定の反省の意味を込めてこの記事を書いてみたいと思う。

ブドウニガイグチとの出会い

ブドウニガイグチとの出会いは今を遡ること8年前。
神戸の摩耶山であったキノコ観察会に参加したときのことであった。
参加者の一人が見た目がイマイチで、少し地味なキノコを発見したのだ。

ブドウニガイグチと教わったもの

なんだろう?と思って説明を聞いてみると

「これはブドウニガイグチですね」

という事であった。
その容貌を良く見ると傘の色は確かにくすんではいるものの紫色であるのには間違いなく、これがこのキノコの名前の由来であることは容易に想像できた。
傘の裏を見ると確かに「イグチ」の特徴である管孔になっており、先生の言うとおりに少し齧ってみると強烈な苦さに舌全体が覆われたのだった。

まさしくこれも「ニガイグチ」という名に相応しい、と思ったものである。

これがきっかけとなったのかどうなのか、、僕がその頃良く行っていたフィールドでもブドウニガイグチらしきものを続々と発見したのであった。

ブドウニガイグチ?と思っていたもの

ブドウニガイグチ?と思っていたもの

傘が紫色のイグチはブドウニガイグチ?

傘が紫色のイグチはブドウニガイグチやなぁ、、なんて簡単に思っていた僕でしたが、もちろん違うものもいっぱいある、というのは分かっていましたよ、そりゃ。

だってムラサキヤマドリタケも紫だし、ビロードイグチなんかもどちらかと言うと紫に近い。とは言うものの、僕のフィールドである神戸で「くすんだ紫色のニガイグチ」といえばブドウニガイグチで良いのではないか?という感じで良いのではないかという考えはずっとありました。

ですので、このビジュアル的に悪く言えば「イマイチ」のキノコのは僕の写真の被写体にはなりにくいものでありました。
なので、残念ながらもしブドウニガイグチがそこにあったとしても余程美人ではないとカメラを向けることはありませんでした。

そして「その時」もほとんど僕のカメラはそれをスルーしており唯一証拠写真として撮ったのはこれであった。

う~む、色がちゃんと出ておらぬではないか (T_T)

この被写体のキノコは、ちょっと神戸キノコ観察会の帰り、アミちゃんと駅に向かって山を降りていく時に見つけたもので、その時の僕の言葉をそのまま忠実に言うと

「あぁ、これブドウニガイグチやね」

いかにも「知ったか君」だったよな(笑)
ところが家に帰ってから、このブドウニガイグチを持って帰ったアミちゃんからものいい が付いた。

「おじちゃん、これブドウニガイグチやないけん!」

くすんだ紫色のニガイグチはブドウニガイグチと頑なに信じていた僕は、えぇ~どうみてもブドウニガイグチやろ~
と自信たっぷりに言ったものさ。

しかし、、、

「おじちゃん、これなぁ、ニガイグチモドキだわぁ、、」

との指摘。

ん?ニガイグチモドキ???こんな色なん???

と怪しんだ僕。
ニガイグチモドキなら傘はもっとオリーブ色しているはずだ、、、とネットで検索したり、過去の写真を調べてみたりした、、、

ニガイグチモドキってこんなやつ

僕は認識していた「ニガイグチモドキ」とはこんな感じのものでした。

ニガイグチモドキと思っているもの

ね?これニガイグチモドキの典型でしょ??

さて、ではニガイグチモドキの特徴を列挙してみましょう(「日本のきのこ」(ヤマケイ版より)。

  1. 傘は径6~11cm
  2. まんじゅう形からほぼ平らに開く
  3. 表面はオリーブ掲色~帯紅褐色
  4. ややビロード状で粘性はない
  5. 管孔は上生~ほとんど離生し
  6. 白色のち淡紅色を帯びる
  7. 孔口は小形
  8. 最初から淡紅色~ワイン色を帯び
  9. 変色性はない
  10. 柄は6~11cm x15~25mm
  11. 上下同幅または下方にやや太まり
  12. 表面は傘とほぼ同色
  13. 頂部は淡色でこの部分に管孔から連続した細かい網目を有することが多い
  14. 肉は白色
  15. 変色性はなく
  16. 強い苦味がある
  17. 夏~秋
  18. 通常ブナ科の樹下に発生
  19. アカマツ・コナラ林に多い

この中で注目して欲しいのは「3」の傘の色です。

僕はニガイグチモドキの傘の色は「オリーブ色」と思い込んでいたのですが、、確かにオリーブ色はその象徴的な特徴ではあるものの、それに加え「帯紅褐色」というのも書いてありますね。

「紅褐色」 というという色はつまり赤と茶色の中間みたいな色なので、人の見た目には紫色にも見えそうな色なんですよね~(@_@;)

正直冷や汗をかきました(笑)

今まで見てきた「ブドウニガイグチ」は本当にブドウニガイグチなのか?

という疑問がふつふつと湧き出してくるではないですか!!

ちなみにアミちゃんが夜に送ってきたブドウニガイグチ改めニガイグチモドキの写真です。

確かに傘の色は「紅褐色」と言われても間違いではない。
僕が思っていた典型的なニガイグチモドキとはちょっと違っているが、本当にブドウニガイグチか?と聞かれると自身がなくなるのよね~(笑)

アミちゃん曰く、ブドウニガイグチは傘の色がもっと鮮やかなのだそうな。
ただ、このキノコも上記の特徴と照らし合わせて考えると、ニガイグチモドキか?と聞かれると、絶対にそうだとも言い切れないところがある。

ではではブドウニガイグチの特徴を列挙してみましょう(北陸のきのこ図鑑)

  1. 夏~初秋
  2. アカマツ・コナラ林
  3. コナラ・クヌギ林などの樹下に発生
  4. 分布 日本
  5. 傘の径5~11cm
  6. 半球形→饅頭形→縁部反転ぎみ
  7. 表面粘性なく帯紫赤褐色で全面霜降り状に見える
  8. 柄 5~13 ×1~1.5cm
  9. 逆棍棒形で中実
  10. 表面は傘同様で頂部淡く下方ほど条線密で基部白色
  11. 管孔は上生~離生し孔長5~8mm で白色→淡紅褐色
  12. 孔口角形で2~3個 /mm
  13. 断面は徐々に暗褐色化
  14. 肉は白色で厚くしまり
  15. 苦渋く臭温和で断面は淡赤褐色

なんか似たような感じですなぁ、、、
ちょうど北陸のきのこ図鑑にこんなことが書いてありました。

ニガイグチモドキとよく似るが肉に赤変性があり苦渋いことで区別できる。

これはとっても重要な事ですね。
確かにアミちゃんが切断しているニガイグチモドキに似ている写真は赤変性がありません。なので少なくともブドウニガイグチではないことは確かな様ですね。

過去の ブドウニガイグチらしきやつを振り返ってみる

今回のものはブドウニガイグチでなかった、としても過去のものはブドウニガイグチなのではないか?いったいどうなのか?

という事でちょこっと写真で検証してみましょう。

と、その前に、アミちゃんからこんな写真が送られていました。

スミレニガイグチ
スミレニガイグチ

これは「スミレニガイグチ」というそうです。

ブドウニガイグチはこのスミレニガイグチの近縁種らしく、傘の色などがこの様に鮮やかな紫をしているらしいのですね。

ではでは、過去画像を貼り付けてみましょう。

これはかなり怪しい(笑)
たぶんニガイグチモドキの方ではないかと睨んでいる。
2010.8.29 神戸で撮影

これは微妙な線(笑)
もしかしてブドウニガイグチかもだし、もしかしてニガイグチモドキかなぁとも思う。もうちょっと切ったり貼ったりしてよく調べないといけないよね?
2010.9.26 生駒近辺で撮影


傘の色はかなり濃い紫色をしている。
僕的にはブドウニガイグチと思ってはいるのだが詳細は不明。
2015.9.15 神戸で撮影

兵庫県三田市で見つけたブドウニガイグチらしきキノコ(2016.9.25)
あまりにも可愛すぎて抜くこともせず、傘の裏も撮らず(笑)

さてこんな感じでブドウニガイグチを見てきましたが、どうでしょう?何となくこれがブドウニガイグチと分かってきましたでしょうか?
なかなかニガイグチモドキとも区別しづらいですが、何点かポイントをよく見れば分かってくるかと思われますね。

『2022.07.23日追記』

Twitterにて高橋春樹さんよりブドウニガイグチとその類似菌の見分け方についてご指摘を受けましたので、許可を得てここにその内容を追記したいと思います。

ブドウニガイグチ類似菌の見分け方についてかなり混乱しているようなので、肉眼的特徴に基づいてポイントをまとめてみました。 ブドウニガイグチのデータは原記載(Hongo 1979)を参考にしました。

傘が紫色を帯びる国内産ニガイグチ属の仲間は形態分類において肉の変色性の有無に基づき、以下二つの系統に分けられます。

1. 変色性のないもの。
この仲間は北米産Tylopilus plumbeoviolaceus complexに近縁と思われます。

スミレニガイグチ:
西表島産、柄の特徴や子実体の大きさ、類型などを総合的に判断すると、恐らく系統的にニガイグチモドキに近縁と思われます。

2. 肉または管孔に変色性があるもの。

クロムラサキニガイグチ:
傘は最初暗青紫色、のちしばしば黒褐色を呈し、肉は不変色、管孔は傷を受けると褐変する。

ブドウニガイグチ:
傘は帯褐赤紫色、肉は空気に触れると微かに帯紅色に変わり、管孔は傷を受けると褐変する。

ブドウアマイグチ(仮称、Tylopilus aff. vinosobrunneus Hongo):
肉に甘みがある以外は形態的性質においてブドウニガイグチとほぼ一致する。

クロムラサキニガイグチとブドウニガイグチは混同されやすいですが、クロムラサキニガイグチは傘と柄が青紫色を帯びるのに対し、ブドウニガイグチの仲間は主に傘が帯褐赤紫色(ブドウ酒色)を呈する点で見分けられます。

きのこびとさんの「ブドウニガイグチ論争」で、兵庫県三田市で見つけたブドウニガイグチらしきキノコ(2016.9.25)とされているお写真は子実体の色(青紫色)から判断してクロムラサキニガイグチに近いと思われます。


「ブドウニガイグチ類似菌の見分け方について」
https://twitter.com/har_takah/status/1550846539135823872

高橋さんに指摘していただいたクロムラサキニガイグチ疑いのキノコはこれです。

なるほどです、、、妙に綺麗だと思った(笑)

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