きのこの話

『きのこの話』新井文彦

人気ウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』(通称“ほぼ日”)において連載されているコンテンツ「きのこの話。」を元に誕生した、ちくまプリマー新書の一冊。

著者の新井さんは、きのこ写真家で、ライターかつコピーライターかつネイチャーガイド(どれが本業じゃ?)をしておられる方。北海道の阿寒をフィールドにして、美しいきのこ写真をたくさん撮っている、今いちばんホットなきのこ写真家だと思う。阿寒の森は、同じ日本とはとても思えないくらいに雄大だ。人里から遠く離れた奥深い森だからこその美しく豊かな自然は、もちろんキノコも豊富にもたらしてくれる。撮影をするには最高の環境だ、うらやましー!(寒くて不便なので住みたくはないが)

「ほぼ日」の連載では、キノコを毎回一種類ずつ、かんたんなエピソードやウンチクを添えながら、軽妙な語り口で紹介していく形式だったけど、本書ではその形を放棄して、まったく新しく文章を書き起こしている。ターゲットは、おそらく「ほぼ日」ではじめてキノコというものに興味を持った人たちなのだろう。キノコって何だろう?キノコの森はどんなふう?キノコにはどんなものがあるのか?など、そういったキノコ学序論みたいなものを、やさしい口調で語っていく。

連載をそのまままとめ上げただけでも、それなりの読み物になるところを、あえて新しく一冊の本に仕立て上げたところに、著者のキノコに対する意気込みと、読者に対する誠意が感じられる。

美しい写真ももちろん健在。望遠を生かして小さなキノコを可憐にとらえたもの、大きくひいて阿寒の幽玄な景色をバックに写しこんだもの、その他、キノコ以外の動植物も含め、さまざまな写真を文章の合い間合い間にたっぷりと楽しむことができる。構図は、観察に観察を重ねて、それぞれ最適なアングルを吟味したものだとの話。なるほど、キノコを含め、自然を愛していないとできないワザですなー、これは。

ただ、ちょっと残念なのは、多すぎる写真のために、読み物としての流れが途切れがちになってしまったことと、写真の美しさがフルに生かされていないこと。どちらも本の作り上、しかたない制約だ。

ここはもう新書なんてケチくさいことは言わずに、ハードカバーでデカくてガチッとしたものを上げてくださいよー。多少高くても買いますから。お願いしまーす。

アンコール!アンコール!

「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)に掲載分を再掲載

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