毒キノコ事件簿 その7
「クリタケ」、、、そのなんとも甘い香りが漂ってきそうな名前に既に「美味しそう」と感じてしまう人は多いかもしれない。
ただその「味」については賛否両論ある。
「美味しくなかった~」という人、、「いやいや美味しいよっ!」という人。
僕自身食べたこと無いのでエラそうに言うつもりは毛頭ないが、一つだけ言っとくと「天然のキノコは美味しい」というのは単なる迷信である(笑)。
それは
「どんな毒キノコでも塩漬けして毒抜きすれば食べられる」
と言うぐらいに怪しい。
さてそんなクリタケに似ている毒キノコをご存知だろうか?
その名も「ニガクリタケ」。
誤食キノコ御三家(ツキヨタケ、クサウラベニタケ、カキシメジ)にこのニガクリタケも加えて「誤食キノコ四天王」とも呼んだ方がいいかもしれない。
ニガクリタケとは?
ニガクリタケは「猛毒」である。
が、しかし我々撮り菌たちにとっては、その「色」「ツヤ」「束生」などの姿からとってもフォトジェニックなキノコでもあるのです。
そういや、6年ほど前のカレンダーにもこのニガクリタケは採用されておりましたなぁ、、、
さて、ではでは、、、
ニガクリタケの特徴をピックアップしてみます(原色日本新菌類図鑑)。
- 傘の経は1~5cm
- 初め半球形~丸山形、のちまんじゅう形からのち開いて平となる
- 中央は時に鋭く尖り、あるいはやや盛り上がっている
- 淡黄色~鮮黄色で中央帯褐色
- 老成して周辺黒ずむ
- 表面は湿気を帯び、平滑
- 縁部に白色絹糸状のなごりを付着するが消失しやすい
- 肉は黄色で強い苦味がある
- ヒダは柄に湾生または上生し
- 初め淡黄色のちオリーブ色
- ほぼ一年を通じて種々の樹木やタケの切幹や切り株などに発生
- 通常多数が束生する
これらの特徴を見るとその黄色味がかった子実体の特徴や、食べたら苦いことからあまりクリタケとは間違わないように思われんですが、、、
毒キノコ事件簿(名古屋市港区にて)
食中毒ニュース.com
「登山道の近くに生えていたキノコを採って食べた男性4人がおう吐や下痢、毒キノコのニガクリタケか(栃木県日光市)」
http://xn--zck9awe6dy29o8f0bt53d.com/kinoko_shokuchudoku/
元の「NHK NEWS WEB」ではリンクが消失していたので、元リンクがありませんが、たぶんこのサイトでは原文そのままの引用がされていると思われます。
ですので、こちらでもちょっと拝借。
7日、日光市にハイキングに訪れた男性4人が、登山道の近くに生えていたキノコを採って食べたところ、食中毒の症状を起こして病院に運ばれ、警察は、4人が毒キノコを食べたものと見て、種類の分からないキノコは食べないよう注意を呼びかけています。
警察によりますと、7日午前、日光市の奥鬼怒に東京と埼玉県からハイキングに訪れていた46歳から67歳の男性4人が、登山道の入り口で、白っぽいキノコを2本見つけて旅館に持ち帰り、昼ごろに調理して食べたところ、夕方になって、おう吐や下痢などの症状を訴え、市内の病院に運ばれました。
4人のうち3人は大事をとって入院しましたが、いずれも命に別状はないということです。
4人のうち1人は「毒キノコのニガクリタケを食用のナラタケと間違えたと思う」と話しているということです。
警察は、4人は毒キノコを食べて食中毒を起こしたものと見て、確かな知識がなく、種類がわからない場合は、安易にキノコを採って食べないよう注意を呼びかけています。
(NHK NEWS WEB 2016年8月08日)
さてさて、僕はさんざん
「ニガクリタケはクリタケと間違って誤食された」
と書いておりますが、ここでは違うようです。
「毒キノコのニガクリタケを食用のナラタケと間違えた」
ん?ナ・ラ・タ・ケと?マジかぁ、、、
ちなみにナラタケ(広義)はこんな感じ。
まぁ「木から生える」という点では一緒だな(笑)
しかし食に目がくらんだ人はニガクリタケもナラタケに見えちゃう、っていう教訓ですな。。
でも死者が出なくてほんと良かったです。
『追記』
ニガクリタケは茹でてしまうと苦味がなくなるらしいです。
食に目がくらんでる人からのアドバイスなので間違いありません(笑)
なので、ニガクリタケは茹でる前に味見しましょう~(^_^;)
『追記2』(2017.11.17)
本日武闘派の菌友がニガクリタケを茹でて
「本当に茹でると苦味が消えるのか?」
という実験をしました・・・(やるかそれ?)
【実験結果】
・最初煮立った時のニガクリタケは元のやつより2倍ぐらい苦い
・茹で汁を少し味見してみると猛烈に苦いらしい
・しばらく茹でて味見しても苦いらしい
・しかし途中から(15分後ぐらい)「謎の爽やかさ」が現れる
・30分後、元の苦さよりもマシになってくる
・そして45分後、旨味だけが残る。
結局ニガクリタケの苦味は水溶性らしい。
でもね、苦味=毒ではありませんので、くれぐれも食べないように!!
毒キノコ事件簿(青森県)
しかしこちらは死者が出てしまった例です。
「ニガクリタケ」(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%AC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%BF%E3%82%B1
1956年5月3日。青森県の一家の中毒例。
佃煮にして6名で食したところ、子供3人(5、7、10歳)が2日後に死亡、13歳長女は4日後に死亡。
ともに6-8時間後に舌の痺れ、激しい嘔吐、その後意識不明、腹部から首にかけての紫斑などが現れ、急死。
38歳の母親は一時意識不明になるが4日後に回復。
46歳の父親も同様の症状を発症するが20時間で回復。
かなり過去の例ですが、ニガクリタケの毒の強さを証明するような事件です。
しかし痛ましい事件です。
親は何とか助かったものの、子どもたちに沢山の食事を食べさせようとしたことが仇になったとのこと。
ニガクリタケいろいろ
ニガクリタケの最大の特徴(見た目)はその色が「黄色い」ということです。
ただ、もちろんのことながら、「個体差」なんていうものも出てきたりしますので、いかにも「クリタケに近いニガクリタケ」なるものも存在するようです。
少なくとも僕はそんなニガクリタケに出会ったことはありませんが、そんな紛らわしい個体は存在するみたいです。
ここでは何枚かニガクリタケの写真を貼ってみましょう。
これは成菌からやや老菌になりかけているニガクリタケですね。
特徴が明確に現れているのが、傘の表面
「淡黄色~鮮黄色で中央帯褐色」で「老成して周辺黒ずむ」
ってとこですね。
これもその上の写真と同じように老菌になりかけていますが、
傘のところを見ると
「淡黄色~鮮黄色で中央帯褐色」で「老成して周辺黒ずむ」
は確認できますね。
そしてもう一つの特徴
「通常多数が束生する」
ってのが良くわかります。
この個体、めっちゃデカいのです。
しかも土から出てるように見えます。
最初その大きさからいつも見ているニガクリタケとは思いませんでしたが、特徴を見ていくとやはりニガクリタケなのでしょう。
「傘の経は1~5cm」で大きいのもあるみたい。
「中央は時に鋭く尖り、あるいはやや盛り上がっている」
「淡黄色~鮮黄色で中央帯褐色」
この3つでほぼ確定かな?(他に似たものがなければね w)
『追記』
三十九さんよりニガクリタケには少なくとも2種類ある、という指摘を頂きました。
大きめの方:Hypholoma fasciculare
小さめの方:Hypholoma subviride
だそうです。
もしかしてこの上の写真は「Hypholoma fasciculare」で、その他の小さいやつは「Hypholoma subviride」の可能性ありますね。「日本産 Hypholoma fasciculare( ニガクリタケ ) の 分類学的再評価」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/msj7abst/57/0/57_12/_pdf
こうやって沢山のニガクリタケ、クリタケを見ていけばきっと二つを間違うことはないでしょう。
しかし、、、、
ニガクリタケモドキなんてのもあるのよね、、、
こんなモノがあるとは思いませんでした・・・(涙)
それではニガクリタケニガクリタケとの違いは以下の2点らしい。
- 束生しないこと
- 苦くないこと
見かけはほとんど同じらしいので、この2種を分けるのは顕微鏡など使わなかったらこの2点ということ。
今までニガクリタケモドキなど存在することを知らなかったので、考えてもいなかったが、今度からニガクリタケモドキがあることを心に止めておきましょう、、、でも齧るだけで決して食べないけどね!!
【追記】クリタケいろいろ
では最後に、、、Facebookきのこ部のMさんから「怪しいクリタケ(笑)」の写真を沢山お借りすることが出来ましたので、クリタケの特徴とともにここに載せたいと思います。
まずはクリタケの特徴を列挙します。
- 傘の経は3~8cm
- 初め半球形~丸山形
- 後にまんじゅう形からほぼ平らに開く
- 表面は粘性なくやや湿り気をおび
- 明るい茶褐色~濃レンガ赤色
- 周辺部は淡色
- 初め白色の薄い繊維状の膜(被膜のなごり)が付着している
- 肉は緻密で堅く締まり黄白色
- 苦味または特有の匂いはない
- ヒダは直生~湾生
- 黄白色から帯オリーブ暗色となり、ついには紫褐色となる
- 柄は上部は白~黄白色
- 下部はさび褐色で繊維状をあらわし
- ツバはない
- 晩秋に出る
- 広葉樹の切り株や倒木、埋まった材などの上に
- 多数束生する
ちょっと多いですけどこれを踏まえて次の写真たちを見ていきましょう。
パッと見、クリタケには、、、見えません(笑)
しかしMさん曰く。
「噛んで苦くなく、クリタケの味」
だそうな、、、
僕自身「クリタケの味」というのは良く分かりませんがMさんが言うのだから間違いないと思うのですよね。
ではでは特徴を良く見てみると、、、
「傘の色」については一致しているんですよね。
・表面は粘性なくやや湿り気をおび
・明るい茶褐色~濃レンガ赤色
・周辺部は淡色(これ重要!)
・初め白色の薄い繊維状の膜が付着している(下の個体にはある!)
こうやってじっくり特徴を追っていくと見えないものが見えてきますね~
では傘の裏を見ていきましょう、、、
しかし食べる気満々やん(笑)
まぁでもこの段階でニガクリタケにはまったく見えませんね!
かと言ってクリタケというのもパッと見では判別しかねます。
なので、じっくり特徴を見ると
・ヒダは直生~湾生
・黄白色から帯オリーブ暗色となり、ついには紫褐色となる
・柄は上部は白~黄白色(これ重要)
・下部はさび褐色で繊維状をあらわし(これも重要)
・ツバはない
ってことで、いくらパッと見ただけではクリタケに見えないものもこうやって特徴を踏まえていけばクリタケに見えてきますよね(笑)
そこで、、、これはどちらでしょう?
やはりMさんにお借りしたものですが、Mさん曰く、、
「こやつは、エノキの駒を打ったところに出てきた、憎っくきヤツです!!」
との言葉から察するにこれは「ニガクリタケ」なのです。
ヤバイですよね、、、絶対にヤバイ。
傘の表面など見ていたらクリタケの特徴と同じですもんね。
強いて違うところをあげれば
・周辺部は淡色
・初め白色の薄い繊維状の膜が付着している
であるが、なかなか判断しづらい、、、柄やヒダもしかり、、、
では何で判断するのか、、、
とりあえず「齧る」しかないのかもしれないね。
これもこっと怪しげであるが、傘の色はクリタケですね。
・表面は粘性なくやや湿り気をおび
・明るい茶褐色~濃レンガ赤色
・周辺部は淡色
・初め白色の薄い繊維状の膜が付着している
こちらは一つ上の写真のクリタケを採ってきたところ。
傘の裏は確かに特徴に似ているが、、、、
・ヒダは直生~湾生
・黄白色から帯オリーブ暗色となり、ついには紫褐色となる
ここまではいい。
しかしこれからが、、、
・柄は上部は白~黄白色
・下部はさび褐色で繊維状をあらわし
・ツバはない
柄は若い頃のやつは特徴出てますが、成菌は過ぎたものには非常にわかりづらい。
特に
「ツバがない」
というものはどうなんんだろう?
ツバが在るような、無いような、、、、(笑)
そして極めつけはこちら
なんか妙にデカイ(笑)
しかし傘の経は「3~8cm」なのでギリギリMAXの大きさです。
・後にまんじゅう形からほぼ平らに開く
・表面は粘性なくやや湿り気をおび
・明るい茶褐色~濃レンガ赤色
・周辺部は淡色
・初め白色の薄い繊維状の膜(被膜のなごり)が付着している
違和感アリアリの大きさなのですが、特徴的には違うところは見受けられないのです。
こうして見ていくと、いままで「怪しいやっちゃなぁ~」というクリタケもちゃんとクリタケに見えてきますよね。
ただ、クリタケに似ているニガクリタケは齧らないと分からない、ってことがわかりました(笑)