なめこインサマー
――ファミレスに行く。
ファミレスは今まであまり行くことがなかったが、ファミというだけあり、子どもから老人までフォローするメニューはみごとである。
老人メニューのひとつ、なめこそばを頼む。娘には子ども用のケチャップ色したセットのやつ。
食べる前にいってほしいものだが、それぞれのものを食べ終わったあと、娘が、
「私もなめこが食べたかった!」
と悲しい顔をした。
子どもの好き嫌いは、小さいうちはあっという間に変わっていくものらしいが、最近はキノコではなめことしいたけが好き、しめじとマッシュルームが嫌いなのだという。
じゃあ今日のおやつはなめこにしよう、と冗談でいうとニッコリうなずいた。
本当かよ、と思いながらスーパーでなめこを買う。
さて、おやつなのでそばをゆでてやることもないだろうと、とりあえずめんつゆを少し用意した。なめこをさっと湯通しし、めんつゆであえる。それだけだ。汁が少ないしぬるいので、なめこ汁ですらない。
一、二個試食をして見たら、あたりまえだがめんつゆの味のただのなめこだった。
喜んで食べましたね、娘は。
これがある夏の日の午後四時ぐらいのおやつである。本人は満足そうだった。
...「吉田戦車の珍ごはん なめこインサマー」より
さすが吉田戦車、笑わせてなおかつ寂しげな余韻を残すそのワザは、漫画ばかりでなくエッセイにも発揮されてあまりある。
それにしても表紙のなめこ男爵(知らん。わたしが勝手に名づけた)の造形もみごとであるなぁ。
「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)2010年05月3日に掲載分を再掲載
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