ヌメリスギタケの柄は滑っているのか?

「皆さんはこれを何だと思いますか?」
以前Facebookのきのこグループにこんな問いかけをして、この写真をアップしてみた。
僕的にはその特徴からコレだろうという目星はつけていたものの、自分なりの確証を得たかったためである。
コメントには幾つもの興味深いコメントが頂けました。
主にその外見的特徴から「ヌメリスギタケ」か「ヌメリスギタケモドキ」が候補として挙げられるんですが、どちらかと言うと「ヌメリスギタケ」という答えが多かったのでした。その根拠として図鑑に載ってない様な意見もあったので、ここで列挙してみたいと思います。
ヌメリスギタケは
- 柄が白っぽい
- 傘の鱗片が規則的
- 傘の鱗片がお上品
- モドキより華奢な感じ
- 束生している
- 柄に滑りがある
ヌメリスギタケモドキは
- 丸っこくって肉厚でササクレに迫力あるやつがヌメリスギタケモドキ
- ヌメリが無くて昔流行った頭皮をポンポンマッサージするヤツみたいなの
- ササクレはかなりシッカリしており
- 味は杉臭く
- ヤナギの木によく出ている
などなど、とっても興味深い意見ばかりで、とっても面白かった。
ここでの結論はほぼ「ヌメリスギタケ」である、と言っていいかもしれない。
図鑑の記述で比べてみる
ではいったい、図鑑にはどの様な感じで載っているのだろうか?
今回は一番特徴が多く載っていた「青森県産きのこ図鑑」で特徴を列挙してみました。
大分類 | 小分類 | ヌメリスギタケ Pholiota adiposa スギタケ属 |
ヌメリスギタケモドキ Pholiota aurivella スギタケ属 |
傘 | 大きさ | 通常6cm位 | 通常8cm位、 ときに15cmに達する |
形 | 初め丸山形のち平らに開く中央部はやや隆起する | 初めまんじゅう形、のち中高の平たい丸山形に開く | |
色 | 鮮黄色 | 黄色~淡黄褐色 | |
粘性 | 粘性があり | 表面はゼラチン質 | |
鱗片 | 圧着したまたは多少反り返った褐色~赤褐色のゼラチン質な鱗片でおおわれる | 三角形の圧着した褐色の大形鱗片を散在するが脱落しやすい | |
ひだ | 柄に | 直生~上生 | 直生~上生 |
形 | 密 | 密 | |
色 | 初め淡黄色のちオリーブ褐色~さび褐色 | 淡黄色のちさび褐色 | |
柄 | 大きさ | 通常長さ7cm、幅1cm位 | 通常長さ8cm、幅 1.2cm位 |
形 | ほぼ上下同幅 | ほぼ上下同幅ときに基部は膨らみ、偽根状 | |
ツバ | 上部に繊維状で消失しやすいつばがある | 上部に早落性繊維状のつばをつける | |
色 | 黄色 | 上部 黄色、下部さび褐色 | |
粘性 | 粘性のある黄褐色ささくれ状鱗片におおわれるがのちほぼ平滑で粘性も弱まる | 粘性無く、つばより下は繊維状 の小さな鱗片でおおわれ、のちほぼ平滑 | |
生態 | 季節 | 初夏または秋 | 初夏~秋 |
場所 | 広葉樹、とくにブナの枯れ木や立ち木に束生 | ヤナギやダケカンバなどの広葉樹の立ち木や枯れ木上に束生 |
赤線の部分がこの2種が異なっている部分です。
「あぁ、結構違いを見分けるのって簡単やん♪」
と思ってるアナタ。その認識は誤っております(笑)
ただ、この図鑑にも「肉眼での見分け方」というのを書いてありまして、大まかに言うと
- ヌメリスギタケモドキの方が大形
- ヌメリスギタケモドキは柄に粘性を欠く
という2点で区別が出来ると書かれています。
はて、、さて、、果たしてそんなに簡単に区別ができるのでしょうか???
柄の滑りをつぶさに観察してみる

「これの柄は滑っていないのでヌメリスギタケモドキですね!」
こういう言葉を何度か聞く機会があった。
ヌメリスギタケか、ヌメリスギタケモドキかを判断する際に出てきた言葉である。
その都度思うことがある。
その特徴だけで判断して良いのだろうか?
ヌメリスギタケとヌメリスギタケモドキは外見的特徴がとってもよく似たキノコである。
「青森県産きのこ図鑑」でも「柄に滑りがあること」が2つの種を区別するための大きなポイントと書いてあります。
では、改めて聞きます。この上の写真の柄は滑っている様に見えますか?
これは一番最初の写真のキノコを裏返したものである。
柄は滑っているか?と聞かれると僕にはそうは思えませんでした。
そして家に帰ってからじっくり観察し、撮影したのですが、果たして柄に「滑り」があると感じたことはありませんでした。

この画像をみても「滑り」があるようには思えません。
では、これは「ヌメリスギタケモドキ」なのでしょうか?
最初の束生した写真では「ヌメリスギタケ」という意見が大半でした。
しかし、この子実体たちの柄には「滑り」は感じませんでした。
かと言って、これを「だったらヌメリスギタケモドキじゃないの?」と言い切るわけにはいかない、と僕は思うのです。
乾燥していたら柄に滑りは無くなるんじゃないか?
と考えているからです・

こうやって見ると傘には「粘性」らしきものが確認できます。
傘全体を覆っている膜みたいなものは、一様に湿度を保ち、そして傘全体に粘性をもたらしているように見えます。
反面、柄に関しては肉の部分が白く露出していて、そこにささくれ状の鱗片がまだらに存在していますが、そのどちらにも粘性があるようには見えません。
そこで改めて「青森県産きのこ図鑑」の記述を読んでみますと「粘性のある黄褐色ささくれ状鱗片」という記述になっています。決して「柄自体に粘性がある」とは書いてありません。
つまり厳密に言うと「柄に粘性がある」のではなく「ささくれ鱗片に粘性がある」というのが正しいのでしょうね。
だとすると、この鱗片ってとっても乾燥しやすいと思うんですよね。
つまりは「柄の粘性は乾燥したら直ぐに無くなる」と言っていいんじゃないかと思っています。
ヌメリスギタケか?ヌメリスギタケモドキか?
ヌメリスギタケ VS ヌメリスギタケモドキ論争をしていたら、S木さんが、その経験を元に分かりやすく違いをまとめてくれました。
転載の許可をもらいましたので、ここにアップしておきます。

ヌメリスギタケ
- 秋~晩秋にかけて、広葉樹(主にブナや楢系)に出る
- 束生して株状に生える事が多い
- 比較的小さめ(傘の径5cm以内)で温和で上品で女性的
- 柄は白っぽくて滑りがあるが、洗うと柄の滑りは落ちてしまう
- かなり美味しい

ヌメリスギタケモドキ
- 晩夏~初秋にかけて広葉樹(ヤナギが多い)に出る
- 株状にはならず、散生する事が多い
- 比較的大きめ(傘の径10cmにもなる)でゴツゴツとして男性的
- 柄は茶色っぽくて、最初から滑りはない
- あまり美味しくない
食べ菌のS木さんらしく、最後の「美味しい/美味しくない」がかなり重要な要素であるとともに、その卓越した味覚で区別できる抜群の舌をもっているのでしょう。
まさに一口毒キノコを食べるか否かで生死を分けるという、食べ菌の研ぎ澄まされた感性と理性がそれを見事に区別しているのに違いない、と思うのです。
またこの考察はほぼ最初の考察(Facebookでの)とも、図鑑の解説とも一致し、しかも図鑑に載っていない特徴まで記載されているという、とっても優れた考察だと思います。
では、この考察と、図鑑などの情報を元に検証してみましょう。

最初のこれです。
これは柄に滑りはありませんでしたが、以下の特徴から「ヌメリスギタケ」と判断しました。
- 11月ブナの木に出ていた
- 束生して株状に生えている
- 比較的小さめ(傘の径5cm以内)である
- 多少反り返った褐色~赤褐色のゼラチン質な鱗片(三角形ではない)
- 柄は白っぽい
- 傘の鱗片がお上品
- 傘の鱗片が規則的
- 束生している
いかがでしょうか?
柄に滑りがなくってもこれだけの要素があれば、ヌメリスギタケと判断していいと思います。
では、この画像はどちらでしょうか?

これ、典型的な「ヌメリスギタケモドキ」に見えますよね?
特徴を挙げていきますと、、、
- 比較的大きめ(傘の径10cmにもなる)でゴツゴツとして男性的
- 株状にはならず、散生する事が多い
- 柄は茶色っぽくて、最初から滑りはない
- ササクレの鱗片はかなりシッカリしている
もう一枚見てみましょう

こちらはかなりヌメリスギタケとは感じが異なりますね。
完全に傘は開いていない状態ですが、傘の鱗片はかなり大きく、綺麗に並んでいない状態です。
これもヌメリスギタケモドキと言っていいかと思います。
ではレッドちゃんが送ってきてくれたこの一枚を見て下さい

柄など見なくても傘の鱗片だけを見ればこれがどちらか?というのはわかりますね。
- 規則的にならんだささくれた鱗片
- 小さ目の鱗片
- 傘の形がゴツゴツしていない
という感じからこれは「ヌメリスギタケ」に見えます。
ではでは、これはどちらに見えますか?

かなり生長した姿をしておりますね。
ここまで傘が開いてしまったらなかなか写真での判別は難しいですが(しかも乾燥してるし)、レッドちゃんによるとこれは「ヌメリスギタケモドキ」だそうです。
これを見てる限りでは傘の鱗片が三角形で大きめ、というところがポイントでしょうか?
ただ、正直僕はこれを見て「ヌメリスギタケモドキである」という自信はありません。
恐らく周りの環境や、もしかして近くにわかりやすい子実体がでていれば確信を持てると思うのでしょうけど。
それではそれでは、これは何に見えますか??

難しいですよね~(笑)
一つ上の画像と見比べると余計に難しくなります。
これ、うかっとしてたらどう見ても同じ種類に見えてきます。
もう一枚別角度で撮ったのを見て下さい。

傘の鱗片がとっても規則的に並んでいます。
そしてその鱗片がとっても上品な感じがしませんか?(笑)
そう、おそらくこの2枚は「ヌメリスギタケ」なのです。
その根拠としては
- ブナの木から出ている
- 傘の鱗片が上品に並んでいる
- 傘の鱗片がゴツゴツしていない
と言った感じでしょうか。
そしてこの写真を見て下さい。

すぐ近くにあったこのキノコの幼菌です。
この幼菌の姿はまさに「ヌメリスギタケ」なのです。
レッドちゃんのヌメリスギタケモドキの最初の写真には沢山の幼菌が写っています。
その写真を見る限り、幼菌は成菌と同じ姿をしております。
そしてこの幼菌は成菌とはかなり異なり、色が焦げ茶色をしており、傘の鱗片は少し尖った感じになっております。
これを見てヌメリスギタケを想像しずらいのではありますが、逆にこの姿がヌメリスギタケの幼菌と覚えてしまえば、ヌメリスギタケモドキとの違いは直ぐに見分けることが出来ますね。
では、ヌメリスギタケか、ヌメリスギタケモドキか考えてみよう~!
まず、この2枚の写真から行きましょう~雪国美女が提供してくれた写真です (*^^*)


1枚めの写真は柄がよく写っていますね。白っぽい感じで、かなり弱々しい柄をしています。
また、柄は滑っていなかったそうですが、これはヌメリスギタケではないか、と思っています。
2枚めの写真は同じ個体を採取して並べているものです。傘が綺麗に写っていますね。鱗片は規則正しく並び、ささくれ具合も上品な印象を受けます。やはりこのタイプはヌメリスギタケで良いかと思います。
では次なのですが、これも別の仙台雪国美女から提供していただいた写真です。


1枚めも2枚めも幼菌から少しだけ大きくなったものだろうと思われます。
傘の鱗片のささくれはかなり大きく、そして1つ1つの間隔が広い。ヌメリスギタケモドキの特徴がとっても良く出ている写真じゃないかなぁ、、と思うんです。
そして柄も太く、ヌメリがまったくなく、いろも傘のいろとさほど違いは見られません。
ヌメリスギタケとヌメリスギタケモドキの違い、、、よく分かりますよね?
では、ちょっとレベルをかなりアップします(笑)
北海道のN嶋さんに提供して頂いた写真です。


さて、どうでしょう?
傘が開いたものはかなり判断に悩みますよね? (*^^*)
N嶋さんによると、N嶋さんの周りではヌメリスギタケは見たことがない、そうなのです。
たぶん、ヌメリスギタケはブナなどに良く出るので、ブナの木が無い北海道ではとっても希少種なんだと思うのです。
なので、これはヌメリスギタケモドキ。
きのこアドバイザーの資格をもっておられる中嶋さんなので、まず間違いないでしょう。
しかし、ほんとこの写真での判断は難しいですね。
ただよくよく見ると傘の鱗片は流れかかっているものの、規則性のなさや、逞しさの名残が見えますね。
では最後に最難問のこれ、いってみましょう~!!
京都のS田さんから提供して頂きました。
結構難易度は高いです(笑)


この2枚の写真は同じ子実体の幼菌(やや成菌)と成菌(やや老菌)だそうです。
さてこれを見てヌメリスギタケかヌメリスギタケモドキのどっちか分かりますか?
今までこの記事を読んできた人ならきっとわかるはずです。
特徴を一つ一つ押さえていけばね!!(*^^*)