シモコシはかくして毒菌になりにけり(前編)
「シモコシ」漢字で書くと「霜越」という字があてはまる。
関西では晩秋に出るきのこではあるが、まだ霜の降りる時期には少し早いかもしれない。だた、ややレモンイエローのその頭が、松の木の下からぴょこんと出だし始めたら、もうきのこシーズンも終盤なんやなぁ、、と一抹のさびしさを想起させてくれるきのこでもあるのだ。
シモコシという和名は覚えやすく、とっても親しみを感じる名前ですな。「~タケ」「~シメジ」「~イグチ」という名前がつくきのこの中で「シモコシ」という和名がついているのは、恐らくこのきのこが古くからそう呼ばれてきた事へのオマージュなのかな?と思ったりしているのだが、果たしてどうなのだろう・・・・。
そんなシモコシであるが、以前はちゃんとした食菌であった。
「以前」というのは曖昧ではあるが、よく聞く話では
「海外でキシメジの近縁種を食べて死亡した例がある」
という何とも曖昧なもの。
ついでに言うとまだ日本では死亡例が無いということだが、その辺りも本当にそうなのか?と聞かれれば「たぶんね」というぐらいのものなのでしょう。
ただ、その「海外の例」をとってシモコシが食菌でなくなった、と言うことにいくつか疑問が湧いてこないだろうか?
- 日本ではまだ中毒例が報告されていないのに関わらず、毒きのこ扱いされなければならないのか?
- 死亡例は「キシメジの近縁種」なのに、なぜシモコシまでそのとばっちりを受けるのか?
今年仙台に行ったときに「野生のきのこ」を売っている道路脇の店に連れて行ってもらったことがある。見ると「シモコシ」と書いたプレートが置いてあり、ずらりとシモコシが並んでいた。
ここ仙台では海外の中毒例などは、遠い遠い国のおとぎ話しのように思えてしかたがないのだ・・・。
「海外」の中毒例を読んでみる
「海外からの中毒例がある」という記述を目で追うだけでは、確かにそれは「対岸の火事」の様な気持ちになる。
海外とは一体どこなのか?そしてどうやって食べて、どんな中毒になるのか?その辺りの情報を探していたらこんな論文が見つかったので、その内容をわかりやすくまとめてみることにする。
ほとんど直訳なので日本語の文章にかなり違和感がありますが、ご辛抱下さい(笑)
また、文章の中で出てくる「Tricholoma equestre」と「 T.equestre」はキシメジの近縁種のことで、とっても重要ですので、この学名は暗記して下さい(笑)
「A series of cases of rhabdomyolysis after ingestion of Tricholoma equestre」
「キシメジ属T.equestre摂取後の横紋筋融解症の一連のケース」
と第された論文である。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5287993/?fbclid=IwAR2p7Bw78HoSdJITX8BHGsnCdnKy1apkEt92LPDUyz5dGbHtpKJ9iSXD4qI
まずこの論文のINTRODUCTIONを読むことで「海外」というのがフランスとポーランドの2カ国であることがわかる。そしてこの2カ国で置きた食中毒は「横紋筋融解症」であることも。
横紋筋融解症については以下の引用を読んでみて下さい。
横紋筋融解症は、特に骨格筋に見られ、骨格筋を構成する筋細胞が融解・壊死することで、筋肉痛や脱力を生じる病態です。 そのまま放っておくと、起き上がることや歩行が困難になり、腎不全などを合併し、回復に長期間を要すことがあります。
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/kensa/column/column20170727.html
そしてこの論文では4つのケースを解説しているので、その要点を列挙してみます。
■ケース1
- 56歳の男性
- 6日の間、1リットルのボイルした T. equestreを1日あたり3回食べた後に入院
- 消費されたキノコの重量は不明
- 少量の同じきのこを食べた他の3人には徴候が出なかった
- 最終摂取日に患者は非常に弱く吐き気、および食欲の減退が表れ
- 5日目に状態が悪化し疲労、発汗、筋肉痛が悪化
- 14日目にはそれらの症状がゆっくり消えて、退院することが出来た。
■ケース2
- 73歳の男性
- 1ヶ月の間メイン・ディッシュとしてT. equestreを1日あたり1、2回食べた後に入院
- T. equestreの正確な重量は不明
- 最後に食べた2日後に患者は弱り、発熱はなかったが過度な発汗があった
- 利尿が減少し、足が弱り痛みが表れる
- 患者の妻と娘もきのこを食べたが徴候は出なかった
- 妻と娘が消費したキノコの量は患者よりも少なかった
- すべての症状および生化学の異常は入院して10日以内に無くなる
■ケース3
- 55歳女性
- 1週の間0.5リットルのT. equestreを1日あたり1回食べた後に入院
- 最後の摂取の2日後に、彼女は疲れを感じ始める
- 胸のあたりの吐き気と不快感が始まる
- 彼女は病気を持っておらず、医薬品などは使っていなかった
- 医者に診てもらったものの状態が悪化し、筋肉のが弱くなっていった
- 大量の発汗は観察されなかった。
- 11日後、体調が回復して退院することができた
■ケース4
- 44歳男性
- 3日間メイン・ディッシュとしてT. equestreを1日あたり3回食べた後に入院
- 最後に食べた日に、筋肉痛、疲労、筋力低下、および発熱なしの大量の発汗があった
- 患者はアルコール中毒者であるのは知られていた。
- T. equestreを食べた後、6日目に患者は心臓発作のため死亡
T. equestre の毒性についてのまとめ
拙い和訳でどうもすいません (^_^;)
もしこう言う訳の方がいいよ、というのがあればご指摘下さい(ありすぎるだろうけど w)
さてそんな拙い和訳でも食中毒するポイントが見えてきましたでしょ?
「T. equestreを何日かにわたって過剰摂取する」
これによって
「筋肉痛、疲労、筋力低下、大量の発汗があり、最悪の場合は死に至る」
というものですね。
なので、過剰摂取しなければ大丈夫か、、、というのはわかりませんが、以下のサイトを見る限り「数日間150g以上」摂取するとアウトの様です。
キシメジ(Tricholoma equestre/Tricholoma flavovirens)には、他にもChevalier、Bidaou、Canari又はJaunetといったさまざまな呼び名がある。キノコに関する書物の大半で食用キノコとして紹介されているが、実際は数日間に過剰摂取(生のキノコならおよそ150g以上)すると危険であることが明らかになった。
「フランス経済財政産業省(MINEFI)及び厚生省、キシメジの過剰摂取による危害について注意喚起」
http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu01130430341?fbclid=IwAR2gYwOqGNvbE7dsr1knkSI-NitMgrPvJWLRRTjjOT6qdrjlBragwJ3FByk
そう言えばこの前、菌友のS氏からこんな体験談を聞きました。
「シモコシを食べたあと肩こりになった」
T. equestre を食べたら「筋肉痛、疲労、筋力低下」が起こるってことは、もしかしてシモコシを食べたら「肩こり」になることは、あながち無関係だとは言い難いものがある。
ただ、肩こりに関して個人差があったり、「気のせい」でなったりする場合もあるので、絶対にシモコシが原因とも言えないだろう。
しかし本当にそうであれば、、、これは厄介な話ですなぁ、、、
だって先の仙台の例もありますが、メルカリなどの個人間の通販では当たり前の様にシモコシが販売されています。販売者はこのコトを認識して販売しているのかな?
「日本ではまだ中毒例も無いし、何より代々俺たち食ってきたもんな!」
というのは販売者側の論理だよね。
なんて考えたら、一つ前の記事を彷彿とさせますよね。
「毒キノコ事件簿 その10」
https://kinokobito.com/archives/4637
この記事でカキシメジを販売したおばさんとメルカリでシモコシを販売することに何の違いがあるのだろうか?
でもね、T. equestreっていうのは「キシメジの近縁種」であり、シモコシとは異なります。しかし「日本のきのこ」ではキシメジと同じく毒キノコ扱いされています。
その辺りは「後編」で調べてみたいと思います。
『参考』
「横紋筋融解性を有するきのこの毒性と分類」
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-25560409/25560409seika.pdf