スッポンタケは『本当に』クサいのか?
2016年秋 こうべ森の文化祭
去年の秋のこと、こうべ森の文化祭で森を散歩しているときにスッポンタケを発見した。久し振りに見たのでメンバーにもその姿を見てもらいたいと思い、神戸キノコ観察会として出展しているテントまで戻り、そこにいるみんなにこう声をかけた。
「スッポンタケを見つけたよ~、見に行きたい人いる?」
見に行った人は5人ぐらいだったかな?それぞれが順番に写真を撮り、初めて見たという人もいてとっても喜ばれた。まさに「すっぽん冥利に尽きる」、と言ったところか。
ならばとサンプルとして引っこ抜き、出展しているテントまでそれを持ち帰ってきた。テントでお留守番している人たちにもそれを見せてあげようと思ったのでした。
丁寧に卵の部分から持って、先端のグレバが落ちないようにそっと歩きながら、ようやくテント下の机の上にそれを置くことが出来た。
そこに鼻の感度が犬よりの優れていると言われているI飼ママが嬉しそうにやって来た。
しかし近くに来た途端、嬉しそうだった顔が一瞬で曇った。
「わぁ、やっぱりクサいっ!」
さすが感度抜群、アンテナ良好。マスプロアンテナの様なその鼻は言わずもがなスッポンタケのにおいをいとも簡単に捉えていたのだ。
「スッポンタケ=クサい」
この公式はいつの時代にも通ずる。そうヴィクトリア朝時代にもね(笑)
しかし、そんな恒久なはずの「真実」が覆される日が来たのだ。
スッポンタケはクサい。
僕はそう思って、あまりそばに近づかなかったのであるが、それでもスッポンタケのにおいは漂ってくる。「におい」とはそういうものだ。風が吹き、においの元が風に乗れば5m先にだって「そのにおい」は香ってくるものだ。
でもね、、、、その時は違ったの。
いい香りがしたんだよね~
俗にいう「フルーティな香り」ってやつ。
でも誰も信じてくれなかった。
僕が「フルーティな香りがするんです!」と主張しても誰もが顔をしかめるだけ、そして顔を近づけてもそのしかめた顔は元には戻らなかったのだ。
「俺の鼻がおかしいのか、、、(ガクリ)」
その時はそれで終わった。多勢に無勢、しかも相手は「ニオイの巨人」I飼ママが向こうにいるのだ。
勝てるわけも無い、あえなく撃沈したのであった。
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2017年秋 六甲山大学山フェスタにて
それから一年、六甲ケーブル山上で2日間に渡って行われた六甲大学山フェスタでまた神戸キノコ観察会でブースを持つことになった。
写真を沢山貼り付けたパネルを4枚ほど用意し、その日の朝採取してきたキノコをスーパーで使われているようなトレイの上に小分けにして並べ、見学しに来た人たちにキノコの生態についてサンプルをベースにして説明したり、質問に答えたりするのでありました。
2日目、僕は朝早くから起きてケーブル下から歩いて登り、いくつかのサンプルを採取していた。既にその日の「目玉」となる野生のシイタケ(かなり大きめ)を取得していたので、他のキノコと合わせて既に申し分のない量ではあった。
それでも昨日シロタマゴテングタケを採取したところをふと見ると、白い個体がフニャっとよこに倒れているのを目にした。
昨日には「そこ」に無かったものだ。
良く見るとお尻には卵の殻をつけており、頭はどす黒くアミアミ状になっている。
「おぉ、スッポンタケだ!!」
誰にともなく小さくガッツポーズする。
1日目の目玉であったカラカサタケは大人気で、傘を訪問者に触らせて驚かすのは言わば「お約束」であり、その顔を見て僕たちは楽しんでいるのだが、2日目はこのスッポンタケのにおいを嗅いでもらう、という新たな「お約束」が出来た。
ほとんどサドやな・・・(笑)
クサいものを人に嗅がせて、クサがる様子を楽しむというのは実に悪趣味である。
でも楽しい(笑)
・・・いやこれは「キノコの生態を知る」という意味では実に重要な体験である。決して悪趣味ではなく、あくまでも「教育の一環」なのだ!!
そんな大義名分をぶら下げて僕たちはやって来る人を待った。
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そしてポツポツと来場者がやってきて顔を覗かせる。
「これ触ってみて下さい!」
リーダーがカラカサタケの傘を触らせる。
「わっ、なにこれ、ふわふわ!!」
掴みはオッケーだ。
そして僕が
「これ、ちょっとにおいを嗅いでみて下さい」
とスッポンタケのトレイを持ち上げる。鼻をトレイに近づける訪問者。
「うわっ、、、」
と言葉を無くすその姿を見てほくそ笑む我がメンバーたち。
やっぱ悪趣味だよね~~(笑)
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そんなやり取りをしばらく続けてお昼を迎える。
その日はとっても寒かったので、身体を動かすために昼食を食べた後「キノコ散策行ってきます」とテントを離れてしばらくキノコパトロールに出かけた。来た道を途中まで戻って、そして引き返してくるだけなので、さほど見つかるわけも無く、手ぶらで帰ってきた。
その時である。
置いていたキノコたちの中から例のフルーティな香りが漂ってきたのである。
「も、もしかしてスッポンタケの???」
僕の予想は的中した。
スッポンタケに顔を近づけて、ここぞとばかりに鼻に全神経を集中させてみる。
間違いなく「フルーティの主」はスッポンタケだ。
あれだけ「クサい」と思っていたスッポンタケのにおいが「フルーティ」に変化したのだ。
喜び勇んでリーダーに声をかける。
「スッポンタケのにおい、フルーティになりましたよ!」
リーダーの鼻元にスッポンタケのトレイを近づける僕。
「ん!!やっぱりクサい!」
あれれーーーー!!!
おかしい話だ。僕にはいい香りにしか思えないにおいが、他の人にはクサく感じる。
もしかしてそれって先入観のせい?
そう考えた僕はやってくる人にこう告げることにした。
「このキノコ、におってみて下さい、フルーティなにおいがしますよ!」
ほとんど誘導尋問(笑)
すると面白い結果が出た。
「クサい」って言う人の方が多いのだが、中には「あ、ほんと、いいにおい」という人も少なからずいるのだ。
統計は取っていないがリーダー曰く「7:3でクサいって感じる方が多いな」。
そうかな、、もっと多い気がするが、、まぁえぇか、誘導尋問やもんな(笑)
敢えてもう一度問う スッポンタケは本当にクサいのか?
「7:3でクサいって感じる方が多い」
これはたぶん頑是ない事実であろう。
それは認める。
それは認めるとしてもだな、3割というのは捨てておけない数字じゃないか?え?
この数字を捨てちゃうんだったら、野球の3割バッターはどうする?
長嶋は?落合は?そして王選手はどうなんだ?捨てちゃっていいの?
あかんよね?それぐらい大きな数字なんだよね~
なので、ここでは比率は敢えて置いておこう。
最大の問題は同じ「におい」であるにも関わらず、人によって「フルーティ」なのか「クサい」のかに分かれてしまう、という事実である。
この差はいったい何なのか?
味の好み、つまり「美味しい」とか「マズい」とかは言わば「好み」の違いである。しかし、「フルーティ」か「クサい」は好みの問題ではない、どちらかというと味覚において「甘い」ものが「辛い」と感じるのと同じではないか?ということ。
わかるかな?
甘いケーキを食べているのに、
「このケーキえらい辛いなぁ~」
って言うてるのに等しいのだ。
言わば「嗅覚」というセンサーの働きの違い、ということだ。
仮説を立ててみる。
たぶんスッポンタケのグレバから発するにおいというのはいろんな「成分」が混ざっているのだと思われる。
その中にはきっと「フルーティ」と感じる成分入っているのは確かだろう。
問題はその成分が
「何か別の成分が混ざっているせいで異臭に感じる」
のが7割で
「その別の成分のにおいを感じ取れないので、フルーティだけが残る」
のが3割。
つまりは鼻のセンサー感度が弱いのかもしれない、という仮説はどうだろう。
はっきり言って僕は嗅覚には自信がない。
アンズタケだってにおわないし、コウタケもにおわないというヤバい嗅覚の持ち主だ。
いまさら「俺の嗅覚はビンビンだぜ」なんて言えない。
なので先に白旗を上げとく(笑)
ちなみにチームイエローのI上さんもフルーティ派である。
スッポンタケを鼻に近づけながら
「わたしこのにおい、嫌い、じゃないわ♪」
「むしろ、、好き❤」
なんて、ドラマチックに答えたのはとっても印象的だった(笑)
スッポンタケはこのグレバから発するにおいで虫をおびき寄せて、その虫の体に胞子を付けることによって「虫による胞子の拡散」を図るという真に賢い生態をもったキノコである。言い換えれば、虫にとってこのスッポンタケのにおいというのは大好きなにおいなのであろう。
だとしたら、フルーティなにおいを感じる3割の者たちはより虫に近いのだろうか、、、
「ある朝、フルーティなにおいがする夢からふと覚めてみると、大きなスッポンタケのグレバの中で自分の姿が一匹の小さな虫に変わってしまっていることに気が付いた」
そんな変身、嫌だよね(笑)