毒キノコ事件簿 その3
キノコの愛好家に比べて、花の愛好家は圧倒的に多い。
何故だ?
といつも思うのだが「そら綺麗だからでしょ!」と言われるのがオチである。
「いやいやキノコも綺麗だぞ!」
と言い返してはみるものの花の愛好家にとっては「花の」美しさが好きなのであり、「キノコの」美しさは好きでないかもしれないわけで、いくら言ってみたとて平行線をたどるのは必至なのですな。
でも良いのです、キノコには必殺技があるんだもん!
これで一発逆転とまでは行かないものの、もしかしてダウンの一つぐらいは奪えるかもしれないのです(ボクシングじゃないけどね)。
それは
「食べられる」
ということ。
まぁ、ニセアカシアの花や、藤の花を天麩羅にして食べちゃう人もいるが、それらは例外的な話でキワモノ的発想であり、一般的ではない。
しかし、キノコは「食べる」方こそ一般的であり、見る、愛でる、観察する、撮る、、なんて言う行為は、一般人からしたらキワモノに違いないよね???
はいそうです(認めちゃう w)。
そんな「食べる」キノコも「天然モノを食べる」という発想はあまり無いであろう。
あくまでも栽培モノ、スーパーなどで売っているもの、限定の話。
なので、天然モノを食べる、というのは、ある意味「禁断の樹の実を食べる」ような、そんな秘匿なワクワク感があるのかもしれない、、、
毒キノコ事件簿(兵庫県西脇市)
では事件のURLを以下に示します。
「すまし汁、食べたら毒キノコ 60代夫婦が食中毒(神戸新聞)」
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201610/0009559635.shtml
記事が無くなったら駄目なので引用もさせていただく
兵庫県加東健康福祉事務所は6日、西脇市内の60代夫婦が毒キノコの一種「クサウラベニタケ」を食べ、食中毒になったと発表した。下痢や嘔吐(おうと)を発症し、妻は一時入院したが、2人とも既に回復しているという。
同事務所によると、夫婦は5日、友人が西脇市内の山林で採ったキノコを計5人ですまし汁にして自宅で食べたところ、妻は約1時間後、夫も18時間後に症状が出た。クサウラベニタケはホンシメジなどに似ているという。
今回はもう犯人が特定されてますね。
クサウラベニタケ
記事の重要な部分を抜き出すと
- すまし汁で食べた
- 妻は一時間後
- 夫は18時間後
- 下痢や嘔吐の症状
- 妻は一時入院した
ということで、じゃあ残りの3人はどうなかったのか、、というと、症状が出なかったのか、あまり食べてなかったのか、それは不明。
でもたぶん、食べたけど症状はでなかったのでしょうね。
しかし何故食べたのでしょう?
そして何と間違えて食べたのでしょう?
記事の中では
ホンシメジなどに似ているという
という曖昧な書き方がされていますが、これは恐らく記事を書いた記者が「聞伝え」で書いたのは間違いないでしょうけど、誰から聞いたのか?はこの記事からは読み取れません。
ただし、本人たちから聞いたのであればこんな書き方はしませんね。
おそらく「ホンシメジと間違えて食べた」と書いてるはず。
たぶんキノコをやっている人からしたら
「ホンシメジと間違えるなんてあり得ない」
「ホンシメジはまったく似てません」
という言葉が返ってくるでしょうね。
でもね、素人さんにはそんなこと分かりません。
ではクサウラベニタケとは何者なのか?
クサウラベニタケはこんなやつ
美味しそうですか?(笑)
美味しそうかどうかは別として、キノコらしいキノコですな。
食べられる、と言われたら食べてみたいかもしれません。
このキノコは9月末に撮りました。
たぶん例年と同じぐらいの時期だったと思いますので中秋あたりに出るキノコなんでしょうね。
漢字で書くと「臭裏紅茸」(ハラタケ科イッポンシメジ科イッポンシメジ属)。
てっきり「草」かと思っていましたが「臭」なんですね!(笑)
で、この「イッポンシメジ科」のキノコはなかなか判別も難しく、「特定できなければ食べてはいけない」キノコ達でもあります。
でも間違って食べる人は「本人なりに特定している」ところがコワいところなのですな。
毒成分としては溶血性タンパク、コリン、ムスカリン、ムスカリジンなどがあり、症状としては神経系及び消化器系の食中毒。
まぁ死亡例もあるそうだが、感触的には「猛毒」というほどでも無いと思う。
ではこのクサウラベニタケ、一体なんていうキノコと間違えるんでしょうか?
僕達キノコ愛好家の中で上がってくる名前はただ一つ。
それは「ウラベニホテイシメジ」である。
名前も良く似ておりますわなぁ、、、パッと聞かれるとどちらか分からなくなりますぞ(笑)
さてではそのウラベニホテイシメジとはどんなキノコか?
ウラベニホテイシメジはこんなやつ
一枚目の写真もそうなのですが、この写真もパッと見「クサウラベニタケ」と判断はつきにくい。
しかも、このクサウラベニタケとウラベニホテイシメジはまるで意地悪テストのように
「同じ時期に、同じ様な場所に」出るキノコとして名高い。
僕達キノコ愛好家は、その姿形もさることながら、ある程度データを持っていて
「この時期に、この場所にでるんだから、◯◯タケだろう」
なんて判断もする。
なので、少なくともこのクサウラベニタケとホンシメジは間違わない。
だって、こんなクサウラベニタケが生えているところにホンシメジがあるわけがないからだ。
だから逆に言うと、このこのクサウラベニタケとウラベニホテイシメジは戸惑うんですよね。
ちなみにこのウラベニホテイシメジは食菌です。
バター炒めとか天ぷら、あとは煮物に入れたりするみたいですね。
僕はあまり食べないんですが、好きな人はこのウラベニホテイシメジの苦さが好き、だといいます。
傘の部分を齧ってみればわかりますが、確かにこのウラベニホテイシメジは苦い。
逆にクサウラベニタケは苦くない。
毒キノコ=苦くない & 食べられるキノコ=苦い
というまたも我らを惑わす公式なんですよね、、普通逆やろと(笑)
クサウラベニタケとウラベニホテイシメジの違いを見極める
ではではそんな紛らわしいクサウラベニタケとウラベニホテイシメジなんですが、似てはいるものの、結構判別は出来ちゃいます。
まずはその特徴を並べてみました。
部位 | 特徴 | クサウラベニタケ | ウラベニホテイシメジ |
---|---|---|---|
傘 | 色 | 灰褐色、黄褐色 | 灰褐色、赤褐色 |
模様 | 放射状の絹目模様 | 放射状のかすり模様 | |
指で押したような斑紋 | なし | あり | |
ヒダ | 色 | 白やがて淡桃 | 白やがて淡桃 |
柄 | 太さ | 弱々しい | がっしりしている |
中 | 中空 | 中実 | |
長さ | 地上のみ(短い) | 地中まで(長い) | |
味 | 苦さ | 苦くない | 苦い |
臭い | 臭いか? | 独特の嫌な臭い | 嫌な刺激臭 |
なかなか見極めにくいですが、慣れてきたら感じでわかるようになるかと思います。
ただこれは関西の話で、もう少し北へ行くとここにイッポンシメジが入ってきてこれよりも難しくなる、と言います。
まとめ
結局この食中毒した人たちが、「何と間違えて」このクサウラベニタケを採ったのかは不明です。
もしかしたら単に「美味しそうだから」という理由かもしれませんし、もうちょっと傘の色が濃いいハタケシメジと間違った可能性も捨てきれません(出る場所が違うんですけどね)。
ともあれ、このイッポンシメジ科のキノコには迂闊に手を出さない方がいいでしょう。