ナラタケの根状菌糸束を分解する

2024.10.19 大阪

ナラタケの仲間である。
この写真はとある山のハイキング道の脇から発生しています。
良く見る倒木から発生しているわけでもなく、伐採された木の根元などから発生しているわけでもなく、ちゃんと「土」から発生しています。

この下に枯れた木が埋まっているのでは?

はい、それは正しい意見です。
厳密に言うと枯れた木が延ばしていた根がこのナラタケが出ている地下にあるのです。
しかしこういうのを見ていると「ナラタケの恐ろしさ」を感じます。
何故なら木の根っこと言ってもさほど食料とする部分は少なく、多くの子実体を作り出すだけの菌糸を作ることが出来ないはずだからです(この写真の下にも沢山の幼菌がありますね)。

なのでナラタケが子実体を作りだすだけのエネルギーを得ているのは別の場所にある枯れた樹木ではないか?と考えています。

そのエネルギーを運ぶための「機構」がナラタケにはあります。
それが根状菌糸束です。

2023.10.15 大阪

この木の樹皮の上で黒く張っている根の様なやつが「根状菌糸束」です。
特に珍しいものではありません(大阪の低山地では)。
ナラタケが発生している倒木やその周辺にある切り株などを探したら必ず見つけることが出来ます。

ナラタケはこの根状菌糸束をコナラなどであれば樹皮と内樹皮(師部)の間に這わせて自分たちの領地を確保します。いやぁ、まるで倒木を羽交い絞めにするような感じですな(笑)。
そしてそこから凄い量の子実体を一気に発生させますので、もうナラタケ好きがその光景を見た途端ウホウホ状態になるのは必至なのです(喜ぶ顔が目に浮かび過ぎる!!)。

2023.10.15 大阪 コナラの倒木から大量発生するナラタケ

ではこの根状菌糸束はどの様な役目をしているのでしょうか?

1.次の獲物(倒木など)を探しに行く捜索隊

根状菌糸束は持つと分かりますが、木の根よりも強く、手で引きちぎろうとしてもなかなか出来ません。
また、黒くコーティングされた部分は光沢があり、容易に内部に入り込むことが出来ないようになっています。

しかし他のキノコの菌糸と言えば、白く、肉眼で容易に確認するのが難しいほど細いものです。
その細さを利用して菌糸を地中に伸ばし水分やミネラルを吸収しているのですが、そのか細さゆえに外部からの菌に食べられたり、乾燥状態に陥ると途端に死んでしまいます。

この根状菌糸束はそんな一般的な菌糸とはまったく違う役割を担っているのではないでしょうか?

つまり根状菌糸束が地中でその生息域を拡大しているのは、黒くコーティングし外部からの侵入や乾燥から身を守り、より遠くへ獲物を探しに行くため、と考えて良いでしょう。

胞子を飛ばし、たまたま落ちたところが食料になり得そうな倒木であり、そこから発芽し、その樹木の中にじっくりと入りこんで行くという数打ちゃ当たる的な偶然戦略ではなく、自分自身で菌糸を延ばして獲物に到達するという侵略的戦略で生活しているという何よりの証なのですね。

それでは土の中で発見した根状菌糸束を見て下さい。

2023.10.21 大阪 土を掘ると根状菌糸束が出てくる。

これはナラタケが発生している倒木(これをA地点とする)からこれまたナラタケが発生している倒木(B地点とする)の間の深さ5cm足らずの土を少し掘ってみた写真である。

知らない人が見たら木の根と思うかもしれない。
しかし、木の根にしては黒すぎるし、ここから水分や養分を吸収するには硬すぎる様に感じませんか?
また、根っこであれば、小さく、細く枝分かれする部分があるはずですが、それも見えない。
さらにこの黒い根状の物体は横にずっと延びているだけで、下に延びようとしていないのです。

つまりこれは食べ物を探索するためだけの機構であり、根状菌糸束そのもので良いかと思います。

A地点で食料となる倒木を食い物にしたナラタケはそれを起点として根状菌糸束を延ばし、やがてB地点へとたどり着きそこでも食料を見つけ、地中から侵入し、やがて倒木の周りを取り囲む様に根状菌糸束を張り巡らせていくのである。

2.栄養を送るための補給路

根状菌糸束は手でちぎろうとしてもなかなかちぎれない、と書きました。
それは黒く、そして光沢を帯びた硬質なコーティングがされていて中に入っているものを頑丈な殻で守っているかの様です。
その殻は何かというと菌糸なのですね。
菌糸が自らが黒くコーティングされた外殻を作り、その中を通っている菌糸を守っているという構図なのですね。

そしてその中にある菌糸は何をしているのか?

もちろん食料を探索するために先に延びていくという役目を担っていると共に、伸張するための栄養を送っているのですね。当たり前ですが、暗い地中で延びていく際に黒くコーティングされた部分からは栄養を吸収というのは出来ないでしょうから、これは根状菌糸束の根元、つまり倒木に存在している根状菌糸束を経由して栄養を送ってあげる必要があるのですね。

それでは根状菌糸束の検鏡写真を見てもらいましょう。

2025.2.26 根状菌糸束の外殻部分

根状菌糸束の外殻部分をスライスしてみました。
非常に硬く、薄く切るのが大変なのですが、切片の端っこの部分を観察してみると菌糸の様な形状のものがずらっと並んでいるのが分かりますでしょうか?

すなわち根状菌糸束の外殻自体はやはり菌糸の集まりで作られており、それらの束をメラニンなどの物質によって細胞を硬くコーティングされているのです。

それではその外殻の内部はどうなっているのでしょうか?

2025.2.26 根状菌糸束の内部菌糸

外殻を丁寧に取り除き、内部の白い部分を検鏡してみました。
すると透明な紐状の細胞が沢山あるのが分かります。
これは恐らく菌糸であろうと思うのですが、通常の菌糸の様に隔壁があるのでしょうか?
もう少し拡大してみます。

2025.2.26 根状菌糸束の内部菌糸

隔壁らしきものも見えますが、一般的な菌糸の様に規則正しく隔壁は無いものと考えていいでしょう。

しかし、やはりこのひも状の形状から考えるに菌糸で良いかと思います。

つまり根状菌糸束とは頑丈に作られた外殻に守られて、その内部ではこの様な菌糸が栄養を運ぶための運搬路の役割を果たしているのですね。
先ほどの土の中で発見した根状菌糸束はA地点で得られたエネルギーを根状菌糸束の先頭で伸張している菌糸に運搬するため、外殻で守られた菌糸を運搬路として利用しているのだと考えられます。

いわば土中にある光ファイバーケーブルの様な存在なのでしょうね。

恐るべしナラタケの攻撃力

2023.10.15 大阪

ナラタケの攻撃戦略を分かってもらえたでしょうか?
他のキノコ達と違い、ナラタケはこの頑強な根状菌糸束を使ってあらゆる木に攻め入ります。

この写真はハイキング道脇に寝かされているスギの木から発生しているナラタケの仲間です。良く見るのはコナラの倒木から発生しているのを見るのですが、条件が合えばこの様に針葉樹をも食料にしてしまいます。もちろんこのスギの樹皮は根状菌糸束に羽交い絞めにされたように黒いひも状組織に覆われていました。

また、まだ生きている木の根っこ付近から出ているものもあります。

2023.10.21 大阪

この木はまだ生きている状態なのですが、ナラタケにだんだんと侵入されて枯れていくのかもしれません。

ナラタケの強さは根状菌糸束にある、と思っています。
胞子の拡散により、たまたま生息条件とあった樹木の上に降り立ち、発芽し、菌糸が樹皮から侵入していくのと異なり、ナラタケは後方に補給路が確保され万全の形で樹木に攻め入ることが出来るのですね。

弱弱しい他の菌糸たちは、この万全な状態で攻め込まれてきたらひとたまりもないかもしれません。

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