2018年中国で新種記載されたテングタケ属の紹介(5)
2025年のキノコ活動(いわゆる菌活)を振り返れば「テングタケの年」だったと言っても過言ではありません。ある研究者さんにテングタケ属のキノコが見つかれば標本を送り、少しだけその結果をお聞きして「あぁ、やはりこんなにも日本で未報告のものが多いのかぁ、、」と驚いたり、嘆息したり。
そんな日々の中、もっとも参考にしたのが2018年に中国から発表された論文であります。
ResearchGateからダウンロードすれば全文読めるので、興味ある人は読んでみて下さい。
内容はというと、主に中国で採取することが出来たテングタケ科(Amanitaceae)のキノコを包括的に分子系統解析して、判明した内容を整理して掲載したものですね。
この論文の中では中国産のテングタケ科のキノコが162種も掲載されています。
まるで図鑑ですな(笑)。
この162種の中には既知種も含まれているのですが、驚くことに50種の新種も含まれています。それらは写真なども貼り付けられておりますので、日本の既知種などと比較して
「もしかしてこの不明種はこいつではないか?」
とか
「この種だと思っていたんだけど、もしかしてこちらでは?」
などを考えたり、わいわい討論するきっかけになれば良いのでは?と思っています。
それでは新種記載(またはそれに準ずる)キノコたちの紹介をしたいと思います。
※ちなみにここで貼り付けている写真は全て論文からの引用となります。
マツカサモドキ亜属Roanokenses節の仲間たち(2)
前回に引き続きRoanokenses節(旧マツカサモドキ節)の新種のキノコ達です。
もう一度おさらいしておきます。
マツカサモドキ節の特徴は以下の通り。
傘の表面は濃色を帯びることはなく、多くは白色~淡色。縁部には被膜の破片が垂れ下がる。
原色日本新菌類図鑑ⅰ p.116
胞子は球形~円柱状楕円形。ツボは膜質。
または傘が開く際、細かく砕け落ちる。
今回のキノコ達はあまり見たことがないものが多いのですが、それでも「これ、もしかして」というやつがあったりします。
たぶん、この中でいくつかは日本にも存在しているのでしょう、きっと。

Fresh basidiomata of novel species in Amanita sect. Roanokenses.
- a–c Amanita pannosa (a HKAS 78471, b–c TYPE,HKAS 77447)
- d–e Amanita parvivirginea (TYPE, HKAS 79051)
- f–g Amanita pseudomanginiana (TYPE, HKAS 83470)
- h–i Amanita pyramidata (TYPE, HKAS 87943)
- j–l Amanita roseolifolia (j–k TYPE, HKAS 101403,l HKAS 34566)
- m–o Amanita rubiginosa (m–n HKAS 57045, o HKAS57726)
それでは1つずつ見ていきましょう。
Amanita pannosa Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
まったく見覚えのない感じのアマニタですね。
傘の地色は白っぽいのですが、ところどころ褐色を帯びる様です。また傘の上には褐色のイボが傘全体に散らばっている様に存在しますね。肉は傷つけるとピンク~褐色になるのと、柄の基部も球根状でツボの破片が目立っているのがわかります。
学名の pannosa:ラテン語 pannosus(= ボロ布のような・ぼろぼろした・粗い布状の)に由来。
傘表面のフェルト状・布状のツボ残片の質感を表している。
「識別形質」
- 傘:褐色〜汚白色、フェルト状〜粉状・剥離可能な褐色ツボ残片
- 肉質:白色、傷で桃色〜褐色に変色
- 基部球根:亜球形、微細な円錐状褐色〜赤褐色ツボ残片を有する
- 担子胞子:楕円形、8.5–10.0 × 5.5–6.5 µm
- クランプ連結が普遍的に存在
Amanita parvivirginea Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
印象的にはササクレシロオニタケっぽい感じを受けますね。
Amanita virginea や Amanita virgineoides (シロオニタケ) などに似ていると書かれておりますが、それらに比べて子実体が小さいとのこと。
また論文ではコササクレシロオニタケとの比較していると書かれていますが、胞子の大きさが異なるとの事です。
学名の parvivirginea:ラテン語の parvus(= 小さい)+ virginea(= 純白の・乙女のような、既存種 A. virginea を指す)の合成語。すなわち「小型の virginea」を意味し、白色で小柄な外見と A. virginea への形態的類似性を端的に表している。
「識別形質」
- 子実体:小型・白色
- 傘および柄基部:角錐形〜いぼ状の鱗片を有する
- 担子胞子:亜球形〜広楕円形
- クランプ連結:欠如
Amanita pseudomanginiana Qing Cai, Yang-Yang Cui & Zhu L. Yang, sp. nov.
コテングタケモドキ(Amanita pseudoporphyria)と良く似ていますし、論文の中でも同様に触れられています。コテングタケモドキとの違いは
- 傘径約5–15 cmの比較的大型の子実体
- 大型で頂生〜亜頂生のつば
- 膨大〜棍棒形の基部球根
- 柄基部のツボ残片中に球形・亜球形・楕円形・紡錘形〜膨大棍棒形の細胞がある
となっています。
その他にも以下の5つに類似しています。
- A. manginiana は比較的頑丈な子実体、厚みのある永存性のつば、柄基部に厚い灰色のツボ残片を持ち、その内部には球形・亜球形・楕円形〜棍棒形の膨大細胞が非常に豊富に存在する。
- A. caojizong は傘径約5–15 cmの比較的大型の子実体、大型で脆弱な頂生のつば、膨大〜棍棒形の基部球根を持ち、柄基部のツボ残片中の膨大細胞は乏しい。
- A. griseoturcosa は薄い頂生のつばを持ち、担子胞子が比較的大型(8.4–12.0 × 5.6–7.6 µm, Q = 1.29–1.69, Qm = 1.5 ± 0.13)である。
- A. roseolifolia は白色でしばしばピンク色を帯びるひだを持ち、担子胞子が比較的大型(9.0–11.0 × 6.0–8.0 µm, Q = 1.32–1.57, Qm = 1.45 ± 0.09)である。
- A. modesta は頂生〜亜頂生のつばを持ち、担子胞子は球形〜広楕円形(5.5–7.5 × 5.0–6.0 µm, Q = 1.1–1.36, Qm = 1.23 ± 0.07)である。
これらコテングタケモドキ似のキノコはいくつかあり、去年見つけたコテングタケモドキか?と思うものがあったのですが、またDNAの解析が終わっていないので、結果が楽しみである。
学名は pseudo-:ギリシャ語 pseudēs(= 偽の・似て非なる)に由来する接頭辞。
manginiana:フランスの植物学者・菌類学者 Louis Mangin(1852–1937)に献名された既存種 A. manginiana を指す。
全体として「偽の manginiana」=「A. manginiana に似た別種」を意味し、形態的類似性と分類学的独自性を同時に示す命名。
Amanita pyramidata Zhu L. Yang, Yang-Yang Cui & Qing Cai, sp. nov.
これもあまり見た覚えがない種。
ちょっと写真がイマイチなので良く分からないが、学名からして(ピラミッド)傘のイボなどがピラミッド型なのだろう。
本種はトウヒ属(Picea)およびモミ属(Abies)の樹木の下の亜高山帯林に発生するとの事。
関西では見ることが出来ないが、北海道などでは見れるかもしれない。
学名の pyramidata:ラテン語 pyramis(= 角錐・ピラミッド)に由来する形容詞。
「角錐形の」を意味する 柄基部を覆う鱗片が帯状に並び角錐形を呈する外観、あるいは傘上の角錐形いぼ状構造を指して命名されたと考えられる。
「識別形質」
- 傘:灰色〜汚白色
- 柄基部:蕪形〜亜球形、灰褐色で反り返った鱗片が帯状に並ぶ
- クランプ連結:普遍的に存在
- 生育環境:Picea・Abies 属樹木との共生、亜高山帯林
Amanita roseolifolia Yang-Yang Cui, Qing Cai & Zhu L. Yang, sp. nov.
傘の表面だけ見ているとコテングタケモドキとかにも見えますが、このキノコの最大の特徴がこの学名「roseolifolia」から分かるようにヒダがピンク色を帯びる様ですね。
それと写真では分かりにくいのですが、傘の表面がやや緑色を帯びている様に見えませんか?
これは中国ではAmanita griseoturcosa(アオミドリタマゴテングタケ)と誤同定されていたようで、ぱっと見同じじゃない?と思ってしまいました。
学名の由来は roseoli-:ラテン語 roseus(= バラ色の・ピンク色の)の縮小形 roseolus(= 淡いピンク色の)に由来
-folia:ラテン語 folium(= 葉)に由来し、ここでは「ひだ(lamellae)」を比喩的に指す
「識別形質」
- 傘:灰色、内生繊維あり、ツボ残片なし
- ひだ:白色でピンク色を帯びる
- つば:脆弱
- ツボ:縁取り状に広がり、柄に密着しない
- 担子胞子:広楕円形〜楕円形、9–11 × 6–8 µm
- クランプ連結:欠如
Amanita rubiginosa Qing Cai, Yang-Yang Cui & Zhu L. Yang, sp. nov.
傘が灰色っぽく、イボがかなり尖っているのでそこだけ見るとテングタケモドキなどに似てる気もしますね。
系統的にはAmanita avellaneifoliaやAmanita rubiginosaに近いとのこと。
学名は rubiginosa:ラテン語 rubigo(= 錆・錆色)に由来する形容詞で「錆色の・赤褐色の」を意味する
「識別形質」
- 傘:灰色、截頂角錐形〜いぼ状〜亜円錐形の灰色鱗片(頂部は白色〜汚白色)
- 基部球根:亜球形、いぼ状〜亜円錐形鱗片が同心円状に数列並ぶ
- 担子胞子:広楕円形〜楕円形、8.0–10.0 × 6.5–8.0 µm
- クランプ連結:普遍的に存在
- 発生時期:夏〜秋
- 菌根共生:Castanopsis・Lithocarpus・Quercus・Pinus と共生

