アカネアミアシイグチ紀行

2021.9.4 富士山

久しぶりのきのこびとである。
もう書きたいことは山ほどあるのだが、仕事に追われまったく時間が取れなかった今日この頃。
今日は「エアーオオサカきのこ大祭」の最終日でやっとTogetterへの投稿が終わったので、気持ちを新たにしてこれを書いている。

アカネアミアシイグチ

ずっとずっと恋焦がれていたキノコの一つ。
まず「アカネ」という部分に胸がズキューンとなる。
学生時代に「茜ちゃん」という憧れの君がいたわけではないし、家の向かいの綺麗なお姉さんの名前が「茜」だったわけでもない。しかし、アカネという名前にはそんな憧れの君を想像させるに余りある響きがあるのだ。きっと命名者の方もこのキノコを見た途端「アカネちゃん!」とまだ見ぬ「君」の姿を思い浮かべたに違いないのだ。

そんなアカネちゃん、いやいや、アカネアミアシイグチ。
Twitterで「今年は見に行きたいなぁ!」とつぶやくと「一緒に行きたいです!」という男が現れた。

テングの鬼

僕は冗談でそう呼んでいたのだが、テングの鬼ことOAkさんはその名前を気に入ったのか、いつのまにか自分のTwitter名にその呼び名を使っているという、なんとも愉快な男である(笑)
ただテングの鬼といういかめしい名前ではあるが、その名に反して気持ちの優しい、極めて真っすぐな性格である、と言えるのは、それからしばらくしてアカネアミアシイグチを一緒に見に行ったことで、その性格の一端を知ることが出来たからである。

まずOAkさんは、以前に一緒にアカネアミアシイグチを見に行ったもろぞーさんに声をかけてくれた。
もろぞーさんは夏になると毎週富士山にキノコ散策しに行ってるという、富士山を極めた男。
もう目隠しをされて、くるくる回されたとしても富士山のルートを登って、そして降りてくることが出来るという、身体に方位磁石でも埋め込んでるぐらいの富士山上級者なのであります。

そんな3人が集まったのは9月4日東京の日本橋午前3時。
なぜそんなに早いのかと言うとまだパラリンピックの最中で、首都高を通るのに午前6時を過ぎると1000円アップするのに対し、4時までに抜けると半額になるからだ。結構えぇ歳した男3人、なかなか財布の紐は固いのよね(笑)。

日本橋から定刻ぐらいに出発し、登山口に到着したのは5時ぐらい。
そこから3人は一眼レフが詰め込まれた重いリュックを担ぎ、つい先ほど明けたばかりの空に菌運祈願をしながら、富士山へ続く階段の第一歩を踏みしめたのだった。

アカネはいずこに?

これは最初の方に書くべきか迷ったのだが、そろそろ書いておくことにする。
もろぞーさんは夏になれば毎週と言っていいほど富士山に来ている。
もちろん、僕たちが富士山入りした前の週も「下見」と称して富士山には来ていた。
僕とOAkさんは、LINEでアカネアミアシイグチは見つかったのでしょうか?ともろぞーさんに聞いてみた。

しかし、もろぞーさんの答えは「No」。

僕たちが行った前週にはアカネアミアシイグチは発生していなかった(少なくとも確認ができなかった)ということである。
もろぞーさんによればアカネアミアシイグチの発生は9月ぐらいから本格化するらしいので、僕たちがアカネに合うことが出来ればそいつは今年の第一号となるわけだ。

だけどもその週はずーーーーっと雨だった。
その前の週、3人のLINEでは「来週は良い雨が降るんで期待大ですなぁ、、」などとワクワクした会話が交わされていたものだ。しかしその週を迎え天気予報を目にするたびに
「ちょ、ちょっと降りすぎじゃね?」
「いやいや、こんなに降ってくれって頼んだ覚えはないぞ」
という感じになり、なんと雨は僕たちが行くという当日も降るという予報であった。

雨の中のキノコ探しかぁ、、(´・ω・`)

もちろんいつもの通り雨が降ることなど1ミリも想像していない僕は、慌てて前日にワークマンに寄ってカッパを仕入れたのであった。
この雨が凶と出るか、吉と出るか。
まぁ降らないでカラカラよりはマシだと思うが、気温がずっと低かったことも心配な要因である。夏の暑さを乗り越え、ほんの少しだけ涼しくなってきたタイミングで発生するはずが、いきなりどーんと気温が下がってしまったらどうなるのか?

なんて事を考えながら、登っていく。
まず初めに出会ったのがなんとオオモミタケ。
これを探し求める人もいるらしいから、これは幸先がいい、ってことだろうか?
そして次々とキノコが見つかる。

コガネヤマドリタケ、キサマツモドキ、ホウキタケの仲間、アカツムタケ、、、、
そしてこれも見たかったキノコの中の一つであるバライロウラベニイロガワリが僕たちを迎えてくれた。
その後も、ベニテングタケ、カワリハツ(高山タイプ)、ドクヤマドリ、ウラグロニガイグチ、キンチャワンタケ、タマゴタケなどなど、、、

いやぁ、見たいと思っていたキノコが次から次へと現れてきて、そして極めつけは何度か富士山に来ても見つけることが出来なかったオオキノボリイグチがその姿を現したときには思わず天を仰いだものだ、、おぉ神様!!
僕たちはオオキノボリイグチの撮影に夢中になり、その斑点の美しさ、可愛さに胸をキュンキュンとさせたのは言うまでもない。

いやぁ、、良いもの見せてもらいましたわぁ、、大満足、大満足。

などと頭の中がオオキノボリイグチでいっぱいになっていたのだが、何故か心の奥底で何かが呼びかけてくる。
耳を澄まして聞いてみると、その声がどんどん大きくなってきてこうつぶやくのだ。

アカネ、まだ見てないよね?

そうだった、、まだアカネちゃんにはまだ出会えていない。
スマホの電源を押してデジタル時計を見ると「11時」という数字が目に飛び込んでくる。
5時から探索を初めて既に6時間。
まださほど標高は高くはないものの、きのこ撮影というものはかなり屈伸が多いので、足腰へのダメージは計り知れないものがある。僕たちは3人とも撮り菌なので、3人ともにかなり疲労の影が見え始めて来た。

そして下山開始。
登ってきた道とは少しだけ異なる道を降りていく。
道と言ってもハイキング道ではないので、それなりに足の踏み場も悪く、滑りやすいとこもあって、何故か普段着、普段靴で来ていたOAkさんはズコズコ滑っていた(笑)
なので僕ともろぞーさんの方が少し早く下に降りていたところに100mぐらい上の方でOAkさんが叫ぶ声が聞こえてきたのだ。

おーい、ここまで登ってきてくださ~い。
良いもの見つけましたよ~!!

既にかなり下の方にいた僕ともろぞーさんは

「え?また登らなあかんの・・・・(´・ω・`):」
「7時間も歩いた後に、また登るのかよ、、、( ;∀;)」

という顔になったのだが、OAkさんがそこまで言うのなら、、とえっちらほっちら登っていき、OAkさんの指さすところを見てみると、少しくぼんだ崖の斜面のところに緑のコケに身を潜めるようにアカネちゃんがいたのであった。

2021.9.4 富士山

ひやっほー!!アカネちゃーん!!
僕ともろぞーさんが叫んだのは言うまでもない。
これに会うために、僕はわざわざ大阪から富士山までやってきたのだ!!(この日は千葉出張からの帰りやけどね w)。

時計を見ればお昼の12時。
持ってきたシートを広げ、お昼御飯用にと残しておいたおにぎりを頬張りゆっくりと撮影させてもらうことにした。

アカネアミアシイグチを分解する

2021.9.4 富士山

アカネアミアシイグチというキノコはかなり発生地域が限定されており、しかも発生個体数も少ないようです。またもろぞーさんによると年々その数が減っていると感じているそうで、5年前辺りがピークだったそうです。もしアカネアミアシイグチが菌根菌だとしたら共生している樹木達が少し弱ってきたりしているのでしょうか、、、

現在発見されているのは以下の4か所です

  • 富士山
  • 八ヶ岳周辺はじめ、長野県の一部
  • 奥日光
  • 群馬県の一部

このいずれも亜高山帯のエリアであり、富士山に着目してみるとコメツガ、シラビソなどの針葉樹林内に発生しているので、恐らく他の地域でもそれらの針葉樹林と菌根関係を結んでいるのではないかと考えている。
また、現在アカネアミアシイグチの学名「Boletus kermesinus」でネット検索してみても、日本語しかヒットしないので、今のとこ「日本固有種」といっていいのかもしれないですね。

もうこれは間違いなく「希少種」と言っていいでしょう。

そんなアカネアミアシイグチが新種記載されたのは最近の事。
ついこの前の(といっていいかな?)2011年に高橋さん、種山さん、小山さんらによって記載されたこの種。まだ図鑑などにはほとんど載っておりません。なので記載者のおひとり高橋春樹さんがその内容をWEBサイトにアップされているので、了解を得てそこ記述から特徴を列挙してみます(高橋さん、いつも有難うございます m(__)m)。

「八重山諸島のきのこ」(高橋春樹さんのWEBサイト)
「アカネアミアシイグチ」
http://www7a.biglobe.ne.jp/~har-takah/page137.html

アカネアミアシイグチ (新種)
Boletus kermesinus Har. Takah., Taneyama, & Koyama

大分類 中分類
内容
(20-)52-68(-87) mm
 
最初饅頭形のち平たい饅頭形になり, 縁部は全縁で通常僅かに突出する
  表面 平滑, 湿時粘性
 
全体に暗赤色~血赤色を呈し, 時に周辺部がやや退色し, 老成すると紫褐色を帯び, しばしば退色部分が不規則に点在する.
厚さ 12 mm以下
  淡黄色, 表皮直下は赤色を帯び、通常空気に触れても変色しないかまたは稀に管孔周辺部のみが弱く青変する
 
時にやや酸味がある.
 柄 大きさ 50-80(-120) × 8-20 mm
 
亜円柱形またはやや片脹れ状, しばしば根元に向かってやや細くなり, 中心生, 中実
  表面
最初全体にやや隆起した細かい網目模様を表し, のち次第に下半部を中心に粗大な亀裂を生じ, 老成すると全体がささくれた鱗片状を呈し
  傘と同色;
  その他
根元の菌糸体は汚白色~淡黄色.
管孔
柄の周囲で急激に深く嵌入し、長さ10mm以下
  淡黄色~黄色
  孔口
類円形, 1mm以下, 暗赤色,
  色変
管孔及び孔口は傷を受けると青変する

2021.9.4 富士山

傘の色が真っ赤なのもさることながら、アカネアミアシイグチの最大の特徴はこの柄の部分にある。
柄全体に網目があり、生長してくるとこの網目部分が裂けてきて、タマゴタケの様なダンダラに生じてきます。
これは僕が知る限りたのイグチの仲間にはない特徴で、アカネアミアシイグチのシンボル的な特徴といえると思う。

このダンダラは柄に表皮というものがあり、その表皮が柄の伸長速度に追い付かず(または一定程度生長したらストップする?)表皮が裂けて、肉の白い部分が露出しダンダラになっているのだろうと想像できる。
ただ、他のイグチとかでも同じように裂けているのであるが、肉の色と表皮の色が同じであれば目立たない、、と言うこともありえるので一概にアカネアミアシイグチにしかない特徴、というのは早計ではないかと考えています。

2021.9.4 富士山

カットしてみて良く分かりますが、肉はほとんど青変しません。つまり管孔の部分と傘の肉の管孔に近い部分だけが薄っすらと青変しているだけです。傘の肉はやや黄色味を帯びており、柄の肉は表皮が染み入ったようなように薄っすらと赤みが差しておりますね。これもなかなか面白い特徴だと思っています。表皮が形成される過程で柄を形作っている要素が表面に浮き出てきた、、、なんて妄想を描いております(笑)


さて、アカネアミアシイグチ紀行、いかがでしたでしょうか?

富士山などに行くとキノコ狩り目的の人と遭遇することがあります。
その方に「どんなキノコを採ってますか?」と聞いてみたことがありますが、その際にその方が放った一言

「イグチならすべて採るようにしています」

という言葉が忘れられません。
恐らくとりあえず採取していって、鑑定してもらえるところに持ち込んで見てもらう、、という流れなのでしょう。
イグチにも食べることができないもの(毒きのこ認定されているもの)や、食不適のもの、そして食毒不明のものがあります。
このアカネアミアシイグチはその中の「食毒不明」のキノコであります。

どうかどうか、この可愛くて、そして希少なキノコを無下に採取し、そして食べられないからと言って破棄することなど無いようによろしくお願いいたします。

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アカネアミアシイグチ紀行” に対して4件のコメントがあります。

  1. 松島祥子 より:

    はじめまして
    いつも楽しく拝見させていただいております
    質問ですが来年はカレンダー作成されますか?
    今年のカレンダーが買えずスゴく寂しかったので
    来年こそはと一年耐えました

    1. いりさじょうじ より:

      松島様
      有難うございます。
      実は来年のA5カレンダーは作らない予定なのですよ。
      卓上カレンダーは作る予定ですので、もしよければそちらを購入して頂ければありがたいです。

      1. 松島祥子 より:

        かしこまりました
        ご連絡ありかどうございます

  2. 松島祥子 より:

    かしこまりました
    ご連絡ありかどうございます

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