コザラミノシメジを分解する

2019.5.2 大阪

2019年5月2日 といえば?

そう、記念すべきオオサカきのこ大祭の前日である。
この日僕はオオサカきのこ大祭の「きのこ放談」というキノコトークショーで披露するキノコを探しに来ていた。
とある公園のウッドチップ。
このキノコを見たときにゃ

「お!こんなことにハタケシメジがあるではないか! (@_@;)」

と驚いたものだ。
このウッドチップというのは実に特殊な環境で、不要になった木材が細かく粉砕され人工的に作り出された菌類たちのオアシスと言ってもいいぐらいのところで、ここを住処にするキノコたちはかなり栄養過多になっているのではないか?なんて思っている。
だってだって、サケツバタケなんか物凄く巨大になっているのを見かけるんですよね~絶対食いすぎよね?(笑)

とウッドチップの話は置いといて、ハタケシメジというのは通常、土に埋もれた腐った木から発生する、という変わった生態を持っている。良く公園などの歩道脇から発生しているが、そんなハタケシメジの下には歩道の土台を作るためか、それとも単に伐採した木を埋めておいたのか、、、とにかく土の下で粛々と眠っている材があって、そこから発生するわけですから、材からしたら

「土の中なら安全だわさ」

なんて言ってられない。
ハタケシメジの様な地下深く潜って攻め込んでくるヤカラがいるのは想定外に違いないのだ。
そんなハタケシメジとツバナシフミヅキタケ、ウスベニイタチタケなど、ウッドチップではお馴染みのメンバーたちを採取して翌日のキノコトークショー「きのこ放談」に持っていくべく丁寧に容器の中にしまったのであった。


そしてオオサカきのこ大祭当日。
「きのこ放談」の少し前に採取してきたキノコを39氏や佐久間さんなどに見せた。

「昨日ですね、●●公園に行ってきて、ハタケシメジ見つけましたよ」

なんてちょっと得意げにそのキノコを見せた。
すると39氏、すかさず

「これ、ハタケシメジじゃありませんね(キッパリ)」

横にいた佐久間さんも激しく同意。

驚いた僕はもう一度そのハタケシメジ(らしきもの)を見つめた。
そういえば、、、少し違和感をもった箇所があった。
一つはヒダが異常に白く、そしてギザギザしているところ、、であった。

2019.5.2 大阪

このヒダを見て「ん?」とは思ったのだが、思い込みというのはいけませんね~。
一度「これはハタケシメジである」と思ったら、少し違和感を感じたとしても

「すべての違和感は個体差である」

というベクトルで判断してしまうのですね、、
そこで39氏と佐久間さんにこんなことを聞いてみた。

「これ、どこがハタケシメジと異なるんですかね?」

すると二人はすかさず

「柄がねぇ、全然違うんですよねぇ、、、すらっとしてて真っすぐな感じ」

そういわれると、、、この写真では分かりにくいが、ハタケシメジの「なよっ」とした柄に比べて、このザラミノシメジの柄はかなりしっかりしていて、しかも真っすぐでガッシリしている感じがする。
柄も違うし、ヒダもかなり異なる。
それだけ違うのに間違えるとは、、、とほほ。

確かにとほほなのであるが、オオサカきのこ大祭の「きのこ放談」の本番では

「はい、このキノコですが、これはザラミノシメジっていうキノコなんですけども~」

と自信たっぷりに説明している僕がいたのであった(笑)

君はコザラミノシメジなの?

2020.03.15 大阪


去年の3月アミガサタケを探していた。
この写真に見える葉っぱを見てごらん。そう、ここに写っている何枚かの葉っぱは、そう、サクラである。きのこびと達はこの時期になると上を見ず(つまり桜の花を見ず)、下を見る(つまりアミガサタケを探している)のだ。実にもったいない話だ。桜の花が爛漫とその美しさを誇っているのにも関わらず、それに目もくれずに黒いアミアミを追いかけているのである。

なんとも理不尽な性である。

それは自分でもそう思うのであるが、サクラの花を愛でるよりも、黒いアミアミを愛でる方が楽しいのである。すまん、サクラよ、でも君は人気者だから多くの人に愛され、見つめられ、写真を撮られ、歌にも歌われたりするだろう?だったらいいじゃないか、僕一人の愛などそれほど大事なものじゃないよね?

なんて思いながらこれから咲くであろう桜との会話を試みながら歩いていた。

すると、その桜の木の下にどう見てもアミガサタケではないきのこの姿が目に入ってきた。

ハタケシメジ?

またも愚かな「思いつき」が頭を支配した。
しかし、今回は違った。頭をブルブルと2回ほど振ってその愚かな思いつきを解き放った。
そしてまず冷静にその「柄」を観察した。

2020.03.15 大阪

さて、この柄をしっかりと目を見開いて見てください。
特徴を挙げてみると

  • 真っすぐでほとんど上下の太さは変わらない
  • 縦に繊維状の線が入っている
  • 硬そうな感じがする
  • 白地にやや薄い褐色

パッと見てこれぐらいの特徴が読み取れます。

どうでしょう、、これコザラミノシメジではないかや?

では、図鑑の表記を見てみましょう。
今回は「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)のコザラミノシメジを見てみると

  • 柄の大きさ5~7.5cm x 7 ~ 9mm
  • 表面はほとんど白色
  • 帯褐色の繊維状条線があり
  • 時にやや捻じれている

確かに少し捻じれている様に見えるかな?どうだろうか?

では次にヒダを見てみましょう

2020.03.15 大阪

特徴を挙げると

  • やや蜜
  • 白色
  • 柄に上生

と言ったところだろうか?
「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)を見てもこんな感じですな。

  • ヒダは白色で密
  • 湾入上生

なるほどなるほど、、、僕の観察とさほど違いはないなぁ、、、

と思いきや!

「湾入上生」

という聞きなれない特徴がある!(◎_◎;)
これはどういう状態なのだろうか????
ヒダの付き方としては通常「離生、隔生、直生、上生、垂生、湾生」などが一般的で、上の写真も「上生」と書きましたが、わざわざ「湾入上生」という風な表現で書かれているというのはただの上生ではない、ということですよね?

ではでは拡大してもう一度ヒダが柄に接するところを見てみましょう。

2019.5.2 大阪

うーむ、なるほど~これが湾入上生なのか~~!!

と意味もわからず納得させられてしまう感じがありますね(笑)
なんと表現すればいいのでしょうか、この波打ったヒダが柄に向かっていき、そして柄にぶつかったあとわずかなヒダたちが柄を登っていっている様子がまるで「うなじ」を想像しませんか?

さてもう一度別の子実体を見てみましょう。

2021.4.18 京都


今年見たいみたいと思っていて熱望していたら、願いが叶って現われてくれたものです (#^.^#)

最初はシメジ系の何か、、、しかわかりませんでしたが、ちょっくらひっくり返して柄とこのうなじを見て確信しました。

きみの名は、、コザラミノシメジだね、、探したよ ❤

あ、厳密に言うとコザラミノシメジかどうかは分かりません。しかしザラミノシメジ属のキノコだということはこのうなじを見てそう思ったというわけです。

そしてやっとこの機会がやってまいりました。
「ザラミノシメジ属の胞子を見る」
という機会に。

僕もこの間教えてもらったのですが、ザラミノシメジの「ザラ」はその響き通り「ザラザラした」というもので、「ミノ」は「身の」だとばかり思っていました。つまりは柄の部分がザラザラしているから、、、なんて思っていました。
しかしそうではなく「ミノ」は漢字でこう書きます「胞子」
え?それ「ほうし」じゃね?(◎_◎;)
と思うのですが、厳密には胞子の事を「ミ」というらしいの「胞子の」が正しいのですな、、、つまりザラザラした表面を持った胞子、ということです。
ではその胞子を見てみましょう。

2021.4.18 京都 (400倍 ドライマウントで撮影)

表面がザラザラしたしているのがわかるでしょうか?え?分からない?
ではもう少し拡大してみますね

2021.4.18 京都

胞子の表面に凹凸がありますね、でもこれではまだザラザラしたいるように見えませんね?(笑)

次は水でマウントして撮影してみました。

2021.4.18 京都 (400倍 水でマウントして撮影)

こちらも小さすぎるので拡大してみました。

2021.4.18 京都

やはり胞子の表面がイガイガしているのが良く分かります。これが「ザラ」の名前の由来なのです。

ここでまずは外見的な特徴と胞子からコザラミノシメジに一番近いんじゃないか?
ということがわかります。

では、コザラミノシメジに似たキノコは他に無いのだろうか?

コザラミノシメジに似たキノコ

2021.4.18 京都

コザラミノシメジというのはなかなか手ごわい。
まぁ、このシメジ(という名の付くやつら)全般がややこしくって、パッと見て「これだ!」と言ってもハズしている場合が多いのよね。
この写真のやつも、菌友が見つけたものなんですけど、「これ何でしょう?」って聞かれて「うーん、うーん、うーん」と3回唸ったものだ(笑)。

そのあと、ちょっと一本抜かせてもらうで、と言って抜いたものがこれ

2021.4.18 京都

このまっすぐ伸びた柄は!!
と思って傘の裏に注目すると、、、

2021.4.18 京都

ほれほれ、真っ白なヒダが露出(笑)
老成すると少しクリームがかっている感じはあるが、イッポンシメジ属のキノコのようにヒダがピンクになりそうな感じはまるでない。
その時点で「もしかしてこれ、ザラミノシメジ属やなぁ、、」ということになったのだ。

ただそれから先がわからないので、以前見つけた文献を紹介させてもらいます。

「ザラミノシメジ属」と書かれたPDFです
http://fungi.sakura.ne.jp/news/1-0_Melanoleuca.pdf

これは浅井郁夫さんが作られている「きのこ雑記」というサイトの中で紹介されているPDFであります。実際には竹橋誠司さん、星野保さん、糟谷大河さんらが書かれた
「北海道産ハラタケ類の分類学的研究 」
という本がありまして、それが2010年辺りに発行されておりまして(以下のURLを参照)
http://fungi.sakura.ne.jp/zakki_index_daily/2010/100221_day.htm

その本の中のザラミノシメジ属の部分を切り取ってPDFにして、竹橋さんが浅井さんに送って頂いたものだそうです(以下のURL参照)。
http://fungi.sakura.ne.jp/zakki_index_daily/2010/100223_day.htm

この中には3種類もの「ザラミノシメジ属」の日本新産種が紹介されています。
列挙すると以下の6種となります。

  1. コザラミノシメジ(Melanoleuca melaleuca (Pers.) Murrill)
  2. ツブエノシメジ(Melanoleuca verrucipes (Fr.) Singer)
  3. オオザラミノシメジ(Melanoleuca grammopodia (Bull.) Murrill)
  4. スナジツヤザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca exscissa var. exscissa (Fr.) Singer)
  5. ホテイザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca rasillis var. rasilis (Fr.) Singer)
  6. スジエノザラミノシメジ(新称)(Melanoleuca brevipes (Bull.) Pat.)

この中からこの写真と同じものはあるのでしょうか?
順に見ていきますと

  1. コザラミノシメジ(●可能性あり)
  2. ツブエノシメジ(×柄が異なる)
  3. オオザラミノシメジ(×大きさが異なる)
  4. スナジツヤザラミノシメジ(×砂地に発生するので異なる)
  5. ホテイザラミノシメジ(×砂地に発生するので異なる)
  6. スジエノザラミノシメジ(×傘の色などが異なる)

という結果で、ここで見ればコザラミノシメジ一択ということになる。

ではやっぱりこやつはコザラミノシメジなのか?

しかしここで大きな「壁」にぶち当たることになる。
このPDFの中の検索表を良く見て欲しい。
その中の1にこんな風に書かれている

1.シスチジアが無い …………….. コザラミノシメジ

とね。
これはどういうことかと言うとコザラミノシメジにはシスチジアが無い、という事なのです(わかっとるわい w)。
困りました、、、僕は胞子の写真の後に、こんな写真も撮っていたのです。

2021.4.18 京都産

これどうみてもシスチジアですよね?

2021.4.18 京都産

こんな感じのもありました。
これも「フラスコ形」のシスチジアであろうと思われます。
だとしたら、このキノコはコザラミノシメジではない、ということになりますね。

ザラミノシメジ属の混乱

2021.04.21 大阪

4月21日に大阪で見つけたもの。
すでにここまで読んでこられた人たちは、このヒダと、ヒダと柄が接する部分を見て「これザラミノシメジ属だわさ」ということが分かってもらえると思います。
かなりの老菌ではありますがしっかりと特徴が出ておりますな。

しかしこれがコザラミノシメジかどうかはわかりません。

そこで最終兵器の青森県産きのこ図鑑を見てみました(最初から見んかい w)。

そこに記載されているザラミノシメジ属は

ツブエノシメジ、コザラミノシメジ、そしてザラミノシメジ(新称)とあるではないですか!!

困った困った、、なんだこの「ザラミノシメジ」というのは?
青森県産きのこ図鑑にはこんなことが書いてあります。

ザラミノシメジ(新称)
外観的にはコザラミノシメジと極めて類似するが、同種はヒダにシスチジアを持つ点で区別される。日本で従来本学名の下に知られていた菌、すなわちコザラミノシメジは別種 Melanoleuca polioleuca として取り扱われるので新たな解釈に基づく Melanoleuca melaleuca に対してザラミノシメジの新和名を提唱した。

青森県産きのこ図鑑

なるほど~簡単に要約すると

  • 和名「コザラミノシメジは」学名 Melanoleuca polioleuca のものに変更された
  • 今までのコザラミノシメジの学名 Melanoleuca melaleuca には和名「ザラミノシメジ」という新名称とする
  • コザラミノシメジにはシスチジアが存在し
  • ザラミノシメジはシスチジアを欠く

とこういうことになるわけです。
つまり僕が採取したコザラミノシメジ似のザラミノシメジ属キノコはシスチジアが確認できたので「コザラミノシメジ」ということになるのです。
混乱しておりますなぁ、、、もう絶対に覚えられないぐらい(笑)


さてどうでしたでしょうか?
コザラミノシメジだと思っていたのは、回りまわってやっぱりコザラミノシメジだったということ。
コザラミノシメジ、ザラミノシメジの判断はシスチジアを確認するまでは断言できない、ということが良く分かりました。

「追記」オオザラミノシメジについて

2021.4.2 O村氏撮影

ちょうどザラミノシメジ属の記事を準備していた時に、FacebookでO村さんがこの写真をアップされていました。
さて、このキノコは何でしょう?という話だったので、僕なりにちょっと検証してみました。

でも、この傘だけではわかりませんけど、以下の特徴がわかります。
傘の径15~20cm、平滑、中央高、平面、ややクリーム色

2021.4.2 O村氏撮影

そしてヒダと、ヒダが柄に接する部分に注目してください。
これ、まさにザラミノシメジ属!!って感じのヒダですよねぇ、、、柄に入っている縦の条線も見事。
そして何よりの目印がヒダの形が三角形というか漏斗型をしておりますな、、、これはオオザラミノシメジの特徴としていいのではないでしょうか?

2021.4.2 O村氏撮影

ヒダは上生ではありますが、ザラミノシメジ属っぽく柄に接続しておりますな。

  • 傘の大きさ
  • 中高の平ら
  • 表面は平滑で、灰褐色~暗褐色
  • ヒダは密
  • 白色で、古くなるとクリーム色
  • 柄の表面は縦の条線あり

これらの特徴からオオザラミノシメジではないか?と思っておりますがいかがでしょう?


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コザラミノシメジを分解する” に対して2件のコメントがあります。

  1. 奥村信一 より:

    クリアな同定、ありがとうございます。秋(10月頃)に見てはいるのですが、春のアミガサタケを探しているさなかに、えっ⁉️と言う事で問いかけて見ました。

    1. いりさじょうじ より:

      今年は今時期にムラサキシメジが出ていたりと、ちょっと季節的に何かおかしいような気がしますねぇ、、。コザラミノシメジの方は良く今時期に出てるんですけどね~

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