【特別寄稿】アセタケはもはやアセタケ属じゃない?! アセタケ科の新分類について

文:ガイ・ナット
(この記事は、2020年5月の東京きのこ同好会会報に掲載されたものです。)

写真提供:メルヘンヤスコ

去年の12月頃、本会の勉強会のメンバーにメールを送り、同月で紹介されたアセタケの新分類について少し説明しようと思って書いてはみたものの、やはりというか、かなり大幅な再分類になりましたので、その背景などについてもう少し詳しく書きたいと思いまして、ここで発表させていただきたいと思います。(この記事を纏めるのに辺り、本会の阿部さんと「きのこびと」の入佐さんにご協力をいただき、深く感謝いたします。)

アセタケ科のキノコは肉眼で同定しづらいのは皆さんよくご存知の通りですね。そのアセタケ科についてMycologiaという菌類学誌に去年の9月、論文が発表されました。その論文のタイトルは「Genera of Inocybaceae: New skin for the old ceremony」。日本語に訳すと「アセタケ科の属:古い儀式に新しい皮」という少し変った名前になるのですが、調べてみたら「New Skin for the Old Ceremony」は70年代フォーク音楽のアルバムの名前で、きっと論文に名前を付けるときに、そのアルバムのタイトルに掛けていたのでしょうね。論文の著者は、アメリカのテネシー州立大学生態・進化生物学科のMatheny教授、スペインのアルカラ大学の生命化学科植物学専攻のHobbs教授とEsteve-Raventós教授の三人。以下にこの論文を日本語で要約してみます。ここで共有される図、表は著者の許可を得ています。(論文の英語版が欲しい方は私にメールをください。)

論文は、アセタケ科の説明から始まります:単系統群で、世界中に発生します。維管束植物23科と菌根共生する科で、約1050種で形成されています。ほとんどの種は次の特徴を持ちます:柄、ぬめりのない傘、成長すると灰褐色になるヒダ、独特な匂い、発芽孔のない滑らかな胞子外膜を持つ有色担子胞子、縁シスチジアまたは側シスチジアの存在、土に発生することなど。また、ムスカリン、シロシビンなどの二次代謝産物の生産をする種が多いです。

培養が困難な科で、今までの同定は主に形態学的な特徴をベースにして行われていました。多くの種の分類が現在修正中で、分子系統解析で以前に考えていたものよりも世界中の種の数が多い、ということが分かりました。ここで論文の目的が述べられます:幅広い分類群の採取や系統分析を用いて、属の誤分類を見直してアセタケ属(Inocybe)広義をより合理的に分類することです。
ここで、論文は今までのアセタケ科の分類の歴史を振り返ります。20世紀初頭までアセタケ科は一つの属(Inocybe)として扱われ、それ以降は大きな論争があったものの、2つの属(InocybeとAstrosporina)に分かれることになりました。また、21世紀初頭まではアセタケ属がフウセンタケ科(Cortinariaceae)に属していましたが、分子系統解析によってこれが間違いだと分かりました。(多くの図鑑ではフウセンタケ科のままですが…)

この論文では複数遺伝子座での分子系統解析を使った研究によって、アセタケ科の主要系統が7つあることが明記されています:

  • Inocybe狭義
  • Nothocybe系統(一つだけの種を含む)
  • Pseudospermaクレード
  • Inospermaクレード
  • Mallocybeクレード
  • Tubariomyces
  • Auritella

論文では、上記のそれぞれの系統を属にするように提案されています。

次に採取方法について書きます。チャヒラタケ科 (Crepidotaceae)から9つ、アセタケ科から54、合計で63の分類群を採取して、6つの遺伝子(rpb1 rpb2 tef1 18S 28S 5.8S)を分析したと書いてあります。この分析の結果が以下の表で示されています。

表:分析で使われた6つの核遺伝子座からのDNA配列

使われた分類群は、世界中の様々な生物群系から採取されました。乾燥した子実体からDNAを抽出して、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を使って6つの核遺伝子領域を読み取り、様々な分類群の遺伝的類似性を分析して系統分析を行ったと書いてあります。(再現できるレベルの詳細が論文に詳しく書いてあるので、興味のある方は論文を参照してください。)

アセタケ科の7つの主要系統の遺伝的類似性を、チャヒラタケ科の6つの属から選ばれた4つの属の遺伝的類似性と比較したと書いてあります。このやり方は、この疑問に答えるために選ばれました:アセタケ科の主要系統間の分子分岐は、チャヒラタケ科の認められた属間の分子分岐と同等なのか?つまり、それぞれの科のそれぞれの属間の分岐は相対的に似ていますか?もしそうであれば、アセタケ科の7つの主要系統を属として扱った方が正しいでしょう。もし違うのであれば、一つの包括的なアセタケ属だけを認めた方が良いでしょう。

上記の遺伝子分析を行った結果、アセタケ科の7つの主要系統を属として扱った方が正しいことが分かりました。この結果を以下の系統樹(最尤法)で可視化しています。

図:6遺伝子座のデータ解析に基づくアセタケ科の系統樹(最尤法)

また、それぞれの属の地理的分布が示されています:

系統発生的情報を最大にするか地域 Inocybe
狭義

Notho-cybe
系統

Pseudos-perma
クレード
Inospe-rma
クレード
Mallocybe
クレード
Tubario-
myces
Auritella
サハラ以南のアフリカ  
インド  
オーストラリア  
ヨーロッパ(南)    
ヨーロッパ(北)      
東アジア      
北米      
ニュージーランド      
南米(北)          
南米(南)
           

表:地理的地域によるアセタケ科の主要系統の地理的分布(外来種除く)

いくつかの分類の仕方についての比較分析が以下のように表示されています:

基準 7つの属(ここで提案) 1つの属、7つの亜属 3つの属(現状)
主要系列の同階級か はい はい いいえ
進化論をベースにしたか はい はい いいえ
系統発生的情報を最大にするか はい はい いいえ
冗長を最小限にするか はい いいえ はい
チャヒラタケ科と進化的な基準が等しい はい いいえ いいえ
チャヒラタケ科と運用的な基準(ITS, 28S)が等しい はい いいえ いいえ
予測力 高い まあまああるけど使いにくい 低い
比較研究の適用性 高い まあまああるけど使いにくい 低い(アセタケ属は単系統群ではない)
保全活動の適用性 高い まあまああるけど使いにくい 低い(アセタケ属は単系統群ではない)
学名の安定性 低い(新学名が約184個) まあまあ(新学名が約25個) 高い(新学名がない)
新学名のパーセンテージ 約17% 約2% 0%
長期安定性 高い 高い 低い
実用性 まあまあ 高い まあまあ

表:アセタケ科の様々な系統発生的な分類

写真提供:いりさじょうじ

そして、属の同定をするため、詳しい検索表が挙げられています。側シスチジアの有無と担子胞子の形でアセタケ属(Inocybe)かどうかが判断できるようですね。

アセタケ科の検索表

1. 側シスチジアがある、ない場合は担子胞子が結節型、または細長いロケット型をしている

……… Inocybe

1′. 側シスチジアがなく、担子胞子が平滑で球形、楕円形、(やや)アーモンド形、(やや)豆型、または少し角張った外形を持つ

…… 2

2. 柄の頂部が微粉状、繊維状、ぬか状、またはフランネル状。子実体の変色はない。担子器は透明(壊死色素をもたない)

…… 3

2′. 柄の頂部が滑らか、あるいは、子実体が赤く変色するか、褐色に変色するか、担子器の壊死色素あり

…… 4

3. 胞子が楕円形、または不明瞭な豆型。広範囲にわたってアカシア以外の様々な属の植物と共生する。縁シスチジアに樹脂性物質なし

…… Pseudosperma

3′. 胞子は豆型~卵楕円型、時にわずかに角張った外形を持つ。熱帯のインドでアカシア属と共生する。縁シスチジアに樹脂性物質ある

…… Nothocybe

4. 傘に裂け目があり、柄が平滑で、担子器が透明で細長くない (Q < 4.0)

…… Inosperma (Maculataクレード含む)

4′. 傘がラシャ状、羊毛状、鱗片状、または窪みがあって、柄が平滑ではない。担子器が細長く (Q > 4.0)、壊死色素あり

…… 5

5. 子実体が小さく、はっきりとした垂生または直生のヒダを持つ (チャムクエタケ型的またはヒダサカズキタケ型的な傾向)。傘表皮は子実層下部の菌糸で柵状になる。柄の全体に柄シスチジアあり

…… Tubariomyces

5′. 子実体は小さくない (キシメジ型的な傾向)。ヒダがやや密である。傘表皮の構造は様々で、柄の全体で柄シスチジアが見られない

…… 6

6. 子実体が赤く変色する、通常は魚、古いワイン樽、傷付いたゼラニウムの葉、または土っぽい独特な匂いあり

…… Inosperma (InocybeのCervicolores節含む)

6′. 子実体の傷付けた部分が褐色になるか、変色しない。匂いがもしあれば蜂蜜様か、不快な匂いで、前の項目には当てはまらない

…… 7

7. 縁シスチジアは、オーストラリアの分類群では50 µmを超え(セコチオイド型の場合はなし)、薄壁で透明。アフリカとインドの分類群では、ピラミッド型で色素のある厚壁の鎖になる。アフリカの熱帯雨林、インドの雨の多い常緑樹林、オーストラリアの乾季のある熱帯硬葉地域や温帯地域に発生

…… Auritella

7′. 縁シスチジアは50 µm未満の場合が多く、薄壁で透明。一部の種では短い連鎖、または茶色の被殻があるが、ピラミッド型の連鎖は一切ない。縁シスチジアが50 µmを超えるものは温帯地域のみ。主にオーストラリアやニュージーランドなど、北半球と南半球の温帯地域に発生する。アフリカとオーストラリアの乾季のある熱帯地方や南アジアの熱帯林では多様性が少ない

…… Mallocybe

論文の後半は、それぞれの属の詳細な定義、新分類とその根拠が詳しく書いています。属の語源も挙げられています:

  • Inocybe: 糸の頭、よく小繊維で覆われた傘から
  • Nothocybe: 非嫡出の頭、Inocybeに系統的に近いことから
  • Pseudosperma: 偽物の胞子、Inospermaとの共通点から
  • Inosperma: 糸の胞子、滑らかな胞子から
  • Mallocybe: 毛糸の頭、傘の柔らかい質感から
  • Tubariomyces: 「Tubaria菌類」、Tubariaという属と似た環境に発生することから
  • Auritella: 黄金の組織または黄金のクモの巣、黄土色の子実層から

日本の多くのアセタケ属がInocybeのままですが、その中からいくつかが新属になっています:

和名 旧学名 新学名
アオアシアセタケ Inocybe calamistrata Inosperma calamistratum
アセタケ Inocybe rimosa Pseudosperma rimosum
イロガワリチャアセタケ Inocybe quercina Inosperma quercinum
ウスミノトマヤタケ Inocybe quietiodor Inosperma quietiodor
オオミアセタケ Inocybe macrosperma Pseudosperma macrospermum
カバイロトマヤタケ Inocybe aureostipes Inosperma aureostipes
キヌハダトマヤタケ Inocybe cookei Inosperma cookei
コツノアセタケ Inocybe cervicolor Inosperma cervicolor
サツキトマヤタケ Inocybe flavella Pseudosperma flavellum
シラゲアセタケ Inocybe maculata Inosperma maculatum
マレンソントマヤタケ  Inocybe malenconii  Mallocybe malenconii 
モモイロアセタケ  Inocybe adaequata  Inosperma adaequatum 
ワカムラサキアセタケ  Inocybe reisneri  Inosperma reisneri 

表:新分類でアセタケ属 (Inocybe)でなくなった日本のアセタケ

では、この論文の結果によって、日本の菌類学者、菌類コミュニティはどう反応すれば良いのでしょうか?このアセタケの新分類はもう、海外の菌類学コミュニティに認められて、MycobankやIndex Fungorumなどのサイトはもう更新されています。

新分類の7つの属の中から、Inocybe、Inosperma、Pseudosperma、Mallocybeの4つが日本に存在しているようです。私の知っている限りでは、和名が存在するのが、Inocybeだけです。しかも、Inocybeはアセタケ属というネーミングですが、アセタケというきのこが Pseudospermaという属に入ってしまいました!本当に困ったもんですね。

日本に発生する属は結局和名を作っておいた方が良いかもしれないと思います。前に挙げた言葉の語源をベースにして良い和名が作れるのでしょう。でもそれが決まるまで、カタカナでも新属を使うことをお勧めしたいと思います:

  • アセタケ属またはイノシベ属 (Inocybe)
  • ノソシベ属 (Nothocybe)
  • スードウスペルマ属 (Pseudosperma)
  • イノスペルマ属 (Inosperma)
  • マロシベ属 (Mallocybe)
  • トゥバリオミケス属 (Tubariomyces)
  • アウリテラ属 (Auritella)

そして、初心者を悩ませるためのいたずらっぽくて申し訳ないのですが、「アセタケはアセタケ属ではなく、スードウスペルマ属にあるよ」と説明するしかないかもしれませんね。

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【特別寄稿】アセタケはもはやアセタケ属じゃない?! アセタケ科の新分類について” に対して2件のコメントがあります。

  1. 関西菌類談話会所属 山田瑠美 より:

    実に興味深いですね。恥ずかしながら、知りませんでした。
    これからは、簡単にInocybeのなかまでして・・・て言いにくい(笑)
    もし、可能なら、論文英語で構いませんので、送付くだされば、嬉しいです。
    今、アセタケのなかまらしいが同定に悩んでいる個体がありまして、
    少し役に立ちそうです。コロナ自粛で家にいる時間活用できそうです。
    よろしくお願いいたします。

    1. ナット より:

      ありがとうございます!
      早速山田さんのメールアドレスに論文をお送りしましたので、
      ご確認ください。

      宜しくお願いします。

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