富士山のアンズタケ

「登頂するため」富士山に行ってきた。
朝の6時半に出発し、9時20分無事登頂を終えて、そのまま浅間大社にタッチしソッコーで下山。6合目まで降りてきたのが午前11時で、そこからがきのこ散策の開始ですな。

最初に見つけたキノコが2000m付近で見つけたアンズタケであった。
「アンズタケを眺めてみる」を「前編」「後編」と書いて、あぁもうしばらくはアンズタケのことは書かないだろうなぁ、、と思っていましたよ。でも何の縁なのかここ富士山で、しかも最初に出会ってしまった、というのはたぶんアンズタケと相思相愛なんだろうなぁ、、、なんて感慨にふけりながらこのアンズタケと対面した(笑)。

しかしね、さすが富士山、と言っていいかもしれない。
ここのアンズタケはとってもがっしりとしている。まるで映画「かもめ食堂」に出てくるアンズタケのようでもある。そういえばかもめ食堂で、もたいまさこがアンズタケを採っているのは間違いなく針葉樹の森であり、ここ富士山の2000m付近でも針葉樹が辺り一面にそびえてる森である。同じ様なアンズタケが出ていても不思議ではない。

そうか、君はもしかしてシバリウス君か?

森林限界の直ぐ下に

富士山から下山してくると「森林限界」という場所に直面する。
樹木が生きることが出来る境界線、とでもいいましょうか、そんな線上を歩いていることに少し胸がときめく。植物でさえ生きれるかどうかの境目を、人間である自分がこの目で確かめ、大きく息を吸い込み、一歩一歩足を踏みしめているのは、命ある自分の存在を確かめている様にも思えてくるのだ。

そんな森林限界を抜けて、樹林帯へと一歩足を踏み入れる。砂利道でかなり消耗していた足腰も森に入ると何故か回復基調になっていく気がするのは、キノコから発せられたパワーを受けて僕の体が充電しはじめたからなのかもしれない。

豊かな森がキノコを育み、そのキノコによってより森が元気になっていく。そんな息遣いを感じることが出来る最も顕著な場所が富士山であると思っている。もし森がなかったら、もしキノコがなかったら、この山は火山岩だらけのゴツゴツした岩山だったに違いない。森林限界を見て、そんなむき出しの風景が容易に想像できるのであった。

富士山は丸ごと苔で覆われている、という表現はたぶん言い過ぎではないと思う。樹木の周りに苔が敷き詰めるられているように生えているのは、きっとこれもある意味共生してるんじゃないか?なんて想像してしまうほどである。
そんな苔の隙間にややオレンジ色したものが見えた。
アンズタケである。
引っこ抜くまでもなく、ヒダを見る必要もなく、そこには「富士山のアンズタケ」があったのだ。

富士山のアンズタケ 2019.08.20

富士山のアンズタケ

ことさらに「富士山のアンズタケ」と強調するのには意味がある。
前の記事「アンズタケを眺めてみる(前編後編)」の記事紹介をFacebookにアップした際にこんなコメントを頂いた。

「富士山のアンズタケは杏の匂いはしないです」

もちろん一口に「富士山」と言ってもあまりにも広すぎて「富士山のアンズタケ」と呼ばれているものが同じものなのかどうかなんて誰も保証できないだろう。ただ富士山で散策をしていると同じぐらいの標高なら同じ植生である可能性が高い、というのは肌感覚でわかる。人が植林するわけもないこの過酷な環境では、植生がさほど複雑ではないのではないか?と思うのです。

とすればだ、このアンズタケも・・・・と考えて匂いを嗅いでみた。

うっ、、、杏の匂いがしない、、、、

実は少し戸惑った。
確かにコメントくれた方は「杏の匂いはしない」と書いていたので、もしかして、、とは思ったのだが、実際に、このアンズタケを持った感触では明らかに「杏の匂いがする」タイプだったからだ。

富士山のアンズタケ 2019.08.20
富士山のアンズタケ 2019.08.20

アンズタケの柄の下部を見るとちょっと白っぽくなっているのがわかる。
しかも全体的にかなりガッチリしていて、重量もある。このタイプは杏の香りがするのだ、と「アンズタケを眺めてみる(後編)」でグループ化したものである。

富士山のアンズタケは例外なのだろうか???

という疑問があたまをよぎる。
確かに発生環境は関西で僕が見てきたアンズタケのものとは大きく異る。

発生環境を眺めてみる

富士山でのアンズタケの発生環境は、関西のものとは大きく異るのは間違いない事実。富士山では2000m付近の亜高山帯に発生し、その辺りの植生もまったく関西での植生とはまるで異なる。

アンズタケは菌根菌である。

なにかの樹木と共生しているわけであるが、図鑑を見てもあまり樹種を選ばないようなので、木の種類を分類に使うのは難しいかもしれないですね。
ただ、どの木と菌根関係を結んでいるかでもしかして特徴が変わってくるかもしれない(例えば杏の香りがしないなど)。

ってことで、アンズタケが菌根関係を結んでいそうな木を特定してみることとする。
一番怪しいのは、この木です。

カラ松と思われるもの

カラ松

森林限界にはこのカラ松の幼木(たぶん大きくなれないだけ)が無数にその過酷な土地に根を張っていたが、この写真の辺りは苔に覆われて豊かに水分を蓄えているエリアであった。

その苔の中にうずくまる様にアンズタケが出ている、という印象でした。

カラ松がこの辺り一帯に生えており、その全ての木からアンズタケが出ているわけではもちろんありません。ただアンズタケはあちらこちらでその黄色い姿を見せてくれていたのだが、その周辺を見るとこのカラ松そそり立っている、という状況でした。

なのでここ富士山の2000m辺りに発生しているアンズタケはカラ松と菌根関係を結んでいると言っていいかと思います。

ってことは、、、
杏の匂いがしないのは、カラ松と共生しているからなのか?はたまたこんな苔の中から発生しているからなのか??とっても興味深い。

・・・からの大逆転

3時に駐車場に着く。
その日は8時から滋賀で飲み会があったので、着替えもそこそこに出発することにした。だいたい4時間ぐらいで着くとは思うのだが、ちょっと渋滞があっただけで30分ぐらいは軽く過ぎてしまうのである程度のバッファは必要だと思っていたからだ。

新東名高速道路をかっ飛ばし、伊勢湾岸道、東名阪、新名神と高速の綱渡りを行ってたどり着いたのはジャスト4時間であった、、、ほっ。

実は富士山で見つけたアンズタケをいくつか採取していて、あとで調べたり、写真を撮ったりしようと思っていたのだが、良く考えると当日は飲み会で、翌日は滋賀で仕事だったので、「調べる間がない」と気づいた(今さらか! w)。

なので採取したアンズタケは貰ってもらえるのなら飲み会に参加した人達にあげようかと密かに思っていた。
「密かに」というのは、いわゆる野生キノコは一般人にとって「キモチワルがられる」可能性があるのよね(笑)。なので、それがたとえ美味しいアンズタケであっても理解がなければ受け入れられない、と思っていたわけなのです。

富士登山の話をし、登山後のキノコ散策の話をする。そしてそこで採取してきたキノコとしてアンズタケの説明をし、それを袋から取り出して見せる。

「へぇ、、これがアンズタケなん?、、あ、とってもいい匂いがする!!」

僕の顔が「へ?」というマヌケ顔になったのはここで告白しておこう。
そして、

「そんなはずないやろう、、これ匂わないアンズタケやでぇ、、」

と、渡したのとは別のアンズタケを袋から取り出して匂いを嗅いでみる。

「お!甘い香り!!杏の匂いだわ!!」

アンズタケを採取したときにはまったく杏の香りはしなかったのですが、採取され、リュックの中に入れられ、他の荷物に押しつぶされたアンズタケたちは、その外皮(という表現が正しいか?)に包まれたものが破壊されて、内側の肉が露出し、肉が持っている杏の香りが放出された、、、のではないか、と思うのです。

Wikipediaには「乾燥すると香りが強くなる」と書かれているが、決して乾燥はしていない。だとすると、押しつぶされたことによって閉じ込められていた香りの成分が放出された、とするのが一番いいかと思います。

しかしね、、良くそんな潰れたアンズタケを「ありがとう!!嬉しいわ!」と言って貰ってくれたもんだわ(笑)

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富士山のアンズタケ” に対して5件のコメントがあります。

  1. くろきよ より:

    私が採ってるアンズタケも最初の香りはほんのり微かで後から濃厚に匂いが出ています。いつも冷凍保存ですが、臭いです。

    1. いりさじょうじ より:

      なるほど、、やはりだんだん香りが強くなっていく、という感じですね~!!

  2. 匿名 より:

    富士山の標高2000mは国立公園なのでは。
    採取禁止だと思うのですが大丈夫なのでしょうか。

    1. いりさじょうじ より:

      どうなのでしょうか?
      入山料的なものを支払って皆さんきのこ狩りをされている方は多いですね。

      1. 匿名 より:

        気になったので調べてみました。
        富士山には保護区・特別保護区があり、特別保護区での採取は違法みたいです。
        標高2000mは保護区なので(保護リストに入っていない植物の採取であれば)法律上問題ないようです。
        間違えて特別保護区で採取しないよう気をつけていきたいですね。
        https://www.env.go.jp/park/fujihakone/intro/files/area_1.pdf

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