チャワンタケにとって「毛」とはなんなのか?

アラゲコベニチャワンタケモドキである(チャワンタケ図鑑の井口氏にもOKを頂いた w)。
特に珍しいわけではないので、見つけてもチャチャッと撮影してサンプルを持って帰ってなかったのだが、今回は気になることがあったので持って帰ってちゃんと撮影してみた。
気になることとは?
アラゲチャワンタケの「毛」が何で出来ているのか?ということである。
そして、何故アラゲコベニチャワンタケモドキには「毛」があるのか?ということを考えてみようと思ったからだである。
ではその毛をちょっと拡大して見てみましょう。

毛は子嚢盤の縁の所に集中して生えている。
そしてよく見ると縁の上部から生えているのは長く、下部から生えているものは短いというのがわかる。
もしこのアラゲに役目があるとしたなら下部に生えているものは横からの侵入を防ぎ、上部に生えているものは横からの侵入を乗り越えた者たちを防ぐ最後の砦という感じかもなぁ、、と想像してる(笑)
それではこの毛を中心に検鏡してみます。

子嚢が見えていますよね?
ということは、この毛は子嚢盤の縁の上部に生えているものですね。
特徴と言えば、、、
- 長い
- 先端が尖っている
- 所々に隔壁がある
- 透明感がある(中空?)
こんなところかな?
なかなか刺されると痛そうです(笑)
それでは子嚢盤縁の下部の毛を見てください。

こちらは縁の上部にあるやつに比べて毛の長さが短いですよね?
上部に生えているモノに比べてかなり短いですが、特徴としては短い以外は同じで、刺されると痛そうなのも変わりないです(笑)
それではもう少し拡大してみましょう。

400倍で視た「アラゲ」です。
これは恐らく縁の下部のものだと思われます。
ここでもう一度特徴をまとめますと
- 先端が尖っている(かなり鋭く)
- 厚壁である
- 隔壁がある
- 透明感がある(中空?)
- 色は茶褐色
という感じだろうか。
ちなみにアラゲの基部はこの様になっている。

基部では大きな根っこのようなものが二股に分かれて子嚢盤から出ている。
この色は菌類では良くある「メラニン」によって染められているのだろうか?
メラニンは色が変わると共に、組織を硬くするという性質を持っている。
つまりは菌類にとってはかなり硬い組織を本体外部に作り出している、という事になる。
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それではもう一つのチャワンタケであるシロスズメノワンを見てみましょう。
シロスズメノワン

厳密にはシロスズメノワンの仲間、となるかと思います。
この辺り、なんか似ているのがいくつかありそうですので、ここではシロスズメノワンと書いてあっても「仲間」が後ろに付くと思ってください。
このシロスズメノワンはアラゲコベニチャワンタケモドキと違って子嚢盤の「椀」の部分が深い。
よって椀の側面がかなり広くなるのだが、その椀の側面と椀の縁に毛が生えていて、特にこれも縁の上部にもっとも長い毛が生えておりますな。

拡大してみました。
こうやって見るとアラゲコベニチャワンタケモドキの「毛」とはかなり質感が異なるようです。
アラゲコベニチャワンタケモドキの毛は「刺さり」そうな毛でしたが、こちらは柔らかそうな毛で、暖かみを感じますなぁ~(笑)
それではまた検鏡してみましょう。

やはりかなりアラゲコベニチャワンタケモドキの毛とは質感が違いますね。
もう少し詳細に見ていきましょう。

傷だらけのスライドガラスには目をつぶってください(笑)
こうやって見ると毛の構造は同じように見えますね。
細いか太いかの差、ですかね。
やはりメラニンで固められており、子嚢盤の組織よりもかなり硬質なものとなっているのですね。
チャワンタケの仲間には何故「毛」が生えているのが多いのか?
チャワンタケ図鑑で毛の生えているチャワンタケの仲間をピックアップしてみます。
※ぱっと見なので飛ばしているやつもあるかもしれません!
- テングノメシガイとその仲間
- クモノスアカゲヒナチャワン
- クモノスシロケヒナノチャワンワケ
- オウカンサカズキビョウタケ
- シロヒナノチャワンタケ(モドキ)
- ネジキヒナノチャワンタケ
- ユガミヒナノチャワンタケ
- ヒトゲヒナノチャワンタケ
- シュイロフチドリケザラタケ
- クサムラヒナノチャワンタケ
- アラゲヒナノチャワンタケ
- ウブゲシロビョウタケ
- シダノビョウタケ
- カレクサツリバリサカズキタケ
- シロスズメノワン
- ビロードチャワンタケ
- ハリケシロヒメフンタケ
- ヒメハリヤマフンタケ
- アラゲコベニチャワンタケ(の仲間)
- ウラゲシロチャワンタケ
- オオゴムタケ
- マツバノヒゲワンタケ
- シロコップタケ
- シロキツネノサカズキ(の仲間)
- クロヒメチャワンタケ
そんなにおらんやろ~と思ったら結構いた件(笑)
これらのチャワンタケの仲間を見ていたらやはり「毛」が生えている場所のほとんどが「椀の縁」であった。
「毛を作りだす」というのは菌類にとってはかなりコストがかかるもの、かもしれないし、それほどコストがかからないものかもしれない。
しかし、子嚢盤本体を作り出すエネルギー以外にまったく別の組織をわざわざ作り出さねばならず、少なからずコストがかかるだろうなぁ、、と想像している。
それでは何故この様な構造物を作らねばならなかったのか?
いくつか仮説を立ててみる。
- 虫の侵入を防ぐ
- 虫のおびき寄せる何かを分泌している
- 胞子が飛びやすくなる
- 乾燥に強い
まぁ、正直言って気持ち的には1番一択なんだけど、それぞれの可能性を考えてみる。
1.虫の侵入を防ぐ
そもそもチャワンタケ類を虫が食べている、、というのは見たことがないのですが、、でもやはり椀の下から登ってくる虫に対して「忍び返し」の様に「毛」でもって椀の内側に侵入してくる虫を防御しているのではないかと思っています。
2.虫のおびき寄せる何かを分泌している
あまり匂いを発するチャワンタケ類というのは聞いたことがないことは先に言うておく(笑)。
つまりは腹菌類や地下生菌の様に「匂いによって」虫をおびき寄せ、食べてもらう事によって胞子を出来るだけ遠くに拡散する、、という戦略の道具がこの「毛」ではないか?という奇想天外な説です。
3.胞子が飛びやすくなる
チャワンタケの茶碗型というのはまさに「胞子を遠くに飛ばす」ための「機構」であることは良く知られている。であれば、この縁の毛も胞子の分散を攪拌させることによってランダムに飛ばすために役立つのではないか、とも考えてみたがどうだろう?(無理矢理すぎる w)
4.乾燥に強い
2,3,4は全て根拠なく、無理もある(笑)
がしかし、そこを敢えて答えを引き出してみると、この「毛」というのは空気中にある水分を吸収する機構ではないか、と考えてみた。エアープランツ(ティランジア)など葉の表面にある「トリコーム(鱗片毛)」で空気中の水分を直接吸収するという、、であればチャワンタケの毛もそれと同じ役割があるのではないだろうか。
などなど、4つの仮説を考えてみました。
いかがでしょう?
菌類には様々な組織というものがあるが、そのどれも無駄なものはない、と言われています。
なので、チャワンタケの「毛」もその例外になるはずもないので、きっと何かの役に立っているはずなんです。

