コケノヒメクリタケとヌメリクリタケ(日本新産種)

今年の日本菌学会の大会はつくばで開催された。
長い間、キノコの世界に身を置いているが、日本菌学会に入会したのは去年の事。

そして初めての大会。
いったいどんな服を着て行ったらいいのだろう、、、もしかしてみんなスーツにネクタイとかしてる?こんなラフな格好で行ったら一人浮いちゃうのでは・・・・
と思いつつ、大会の開会の会場に足を運ぶと居並ぶスーツ姿の人たちの中に一際目立った人の姿があった。

司会者の保坂さんである。

ラフなTシャツにクロップドパンツ姿。
僕の10倍ぐらいラフなスタイル少し胸をなでおろすと共に、恐らくここに集まった多くの人たちはスーツを着てようが、Tシャツを着てようが、はたまた短パンであってもさえ、ほぼ気にしない人たちなんだろうなぁ、、と思った。何故ならそこに「関心の中心」はまったく無いからだ。
毎年1回行われる菌学会の大会。
全国から多くの菌類猛者たちがここを目掛けて集まってくる。
ここで多くの人たちとの出会いがあり、発表が行われ、沼の中で泳ぎ回るようなディスカッションが繰り広げられる。
そんな主戦場のような場所で「服装」なんてものは1ミクロンの評価にも値しないのだ。

とまぁ、そんな思いで臨んだ大会。
やはりTwitterなどでは知ってはいるものの会うのは初めて、という人たちと会えるのが最大の喜びでありますな。
今回の記事の元になった論文の主著者であるボーロ君(@borotouhu)もその中の一人。

以前、と言っても2021年11月3日の投稿ととなるのでもう4年半前にもなるが、ボーロ君がTwitterにアップしていた投稿からこんな記事を書かせてもらった。

「紫外線による同定は可能なのか?ニガクリタケとクリタケを比較してみる(前編)」
https://kinokobito.com/archives/6594
「紫外線による同定は可能なのか?ニガクリタケとクリタケを比較してみる(後編)」
https://kinokobito.com/archives/6669

ブラックライト(記事中ではUVライト)をニガクリタケとクリタケに当ててその光具合でニガクリタケかクリタケを見分けることが出来るのか?という主旨の記事である。

ブラックライトとは人間の目にはほとんど見えない紫外線をメインに放射するライトの事で、きのこや地衣類の一部の種では青色や黄色など様々な色の蛍光を示します。蛍光の色は種によって異なるため、地衣類では種の識別に用いられておりますが、きのこではまだ情報が不足している状態にあります。

とは言え、これをクリタケのなどの仲間に当てると青白く光り、その光の強さ、色などが種によって変わるということが徐々に認知されている状況でもあり、ただのきのこ好き氏(@fungi_8810)なども常にブラックライトを所持して、何か見つけたら照らしては「おぉ、光った、光った~」なんて言うて歓喜しておりますな (#^.^#)

で、この「ブラックライトを当てる」という実験が今回の論文にも生かされていた、という事が分かって論文を読みながら、あぁボーロ君はこの頃からこういう「芽」をしっかりと育ててきたんだなぁ、、という感慨が胸に押し寄せたのでありました。

それでは今回の論文を紹介しましょう。
タイトルは
「日本新産となる2種のクリタケ属菌:Hypholoma polytrichi とH. subochraceum」
以下のURLから読むことが出来ますのでお時間がある際に読んでみて下さい。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/66/2/66_jjom.6-10/_pdf/-char/ja

この論文では新たに2種類のキノコが日本新産種として記載されました。
日本新産種というのは海外では既に新種として記載されているものを日本でも同じ種だということが分かったので正式に報告します、というものです。

いわゆる「新種」ではないのですが、今回のものは

「これ、クリタケに似てるんだけど、どうみても違う種だなぁ、、とは言え、どの図鑑にも載ってないし良く分からんなぁ、、」

という感じで捉えられていた2種、なのですな。
恐らく我々が見つけたとしてもLBM(Little Brown Mushroom)として片付けられていたものかも知れないキノコ達だろうと思われるのだが、これからは正式な名前付きで呼んであげることが出来る様になった、ということ。
その名は

コケノヒメクリタケ
ヌメリクリタケ

の2種である。
みんな覚えて、似た様なキノコを発見したら、ちゃんとソラで言えるようになりましょう!(#^.^#)

コケノヒメクリタケ(Hypholoma polytrichi

コケノヒメクリタケ。
この可愛い名前がキノコの特徴を物語っている。

コケの間から顔を出した感じ、周りを取り囲んでいる葉っぱの大きさから判断できる小さな傘の径。
恐らく既に成菌であろうその姿は傘の縁に残された綿状の被膜から感じされるクリタケの仲間的な雰囲気を醸し出しておりますね。

それでは特徴を明記してみます。

部位区分特徴
全体(子実体)クヌギタケ型
0.9-3 cm
形状幼時は円錐形から半球形で縁部は下に巻き、成熟するにつれて開いてやや中高の扁平形となる
表面平滑で繊維質、湿時にはやや粘性があり、乾燥すると光沢質となる
色彩中央部は黄褐色、縁部は中央部より淡色で淡黄色から白色となる
被膜の破片傘の縁に淡黄色の被膜の破片が残り、成熟するにつれて褐色になる、もしくは消失する
ひだ色彩淡黄色から褐色
組織的特徴上生、L(全ひだ数)=34-40、やや疎、幅3-5 mm、分岐は見られず、全縁
小ひだ配置・数傘の周縁部に並び、規則的、l(小ひだ数)=1-3
サイズ(20-)40-90×1.5-3 mm
組織的特徴中心生、円柱形で基部はやや膨らみ、中空、軟骨質、繊維状、光沢質
表面・色彩表面は白色で成長にともなって黄色から褐色を帯び、基部に向かうにつれて濃色になる。頂部は粉状
つば柄の上部に繊維状のつばが残るが、成熟するにつれて消失する
基部白色の粗毛に覆われる
肉(傘)色彩・風味白色から淡黄色で無臭、味は温和、もしくは弱い苦みがある
化学反応UV(365 nm)ひだが明るい緑色の蛍光を発する
担子胞子サイズ(6.3-)7.4-8.4(-9.5 )×( 3 .3-)3.9-4.5(-5.0)µm(平均値±標準偏差7.9±0.5×4.2±0.3 µm)
係数(Q値)Q=1.8-2.0(平均値±標準偏差1.9±0.1、n=100)
形態・特徴長楕円形、厚壁、平滑、淡黄色、発芽孔は切形、非アミロイド
呈色反応5% KOHで淡黄褐色を呈する
担子器サイズ(19.7-)20.9-25.1(-27.4 )×( 5 .6-)5.8-7.0(-7.5)µm(平均値±標準偏差 23.0±2.1×6.4±0.6 µm、n=30)
特徴4胞子性で稀に2胞子性、円筒形から棍棒形、基部クランプあり
小柄サイズ最長5 µm
側シスチジア密度・サイズ散在し、( 3 1 .2-)36.0-46.8(-53.0 )×( 1 1 .4-)12.9-16.1(-17.8)µm(平均値±標準偏差 41.4±5.4×14.5±1.6 µm、n=30)
形態・特徴幅広い紡錘形で先端は突出。5% KOH中で黄変し、しばしば屈折性の内容物を含む。クリソシスチジア
縁シスチジアサイズ(16.9-)20.7-29.1(-3 3 .1 )×( 6 .6-)7 .4-9.6(-11.1)µm(平均値±標準偏差 24.9±4.2×8.5±1.1 µm、n=30)
形態・特徴便腹形、またはフラスコ形。5% KOH中で黄変する。一部は幅広い紡錘形で先端は突出し、屈折性の内容物を含む
傘表皮構造表皮上層と表皮下層の2層からなる
表皮上層厚さ15-30 µmの平行菌糸被、菌糸は幅3-5 µm、5% KOH中で黄色味を帯び、クランプがある
表皮下層厚さ50-100 µmで、幅が15-30 µmとなる膨潤した球形に近い細胞が並ぶ
柄表皮構造幅 5-10 µmの菌糸が平行に並ぶ
柄シスチジア有無ない
ひだ実質構造やや錯綜する類並列型、菌糸の幅は6-12 µm
発生生態時期・環境秋に、亜高山帯のシラビソなどの針葉樹が優占する林内の苔むした林床、及び苔むした倒木上に単生または散生する

さて、この写真を見て特徴をピックアップしてみましょう!
と言われてもなかなか難しい。
この写真は採取後、部屋の中で撮影した黒バック写真なので、もしかしてその特徴である「綿状の被膜」が落ちてしまった写真だろうと思われます。
ただ、柄の表面がほんの少しささくれ立っている感じはありますが、これでは肉眼的な同定は難しいかもしれませんね~

では、ブラックライトを当ててみますと、この様に青緑色の蛍光色になるのが分かります。
クリタケやニガクリタケもこの様に光りますのでクリタケ属に関しては光る物質が含まれているのかも知れません。
肉眼的にはなかなか判別しづらいものも、こうやって紫外線を当ててあげると特徴が露になってきますので、是非クリタケ属探しの際はブラックライトを携行して欲しいものです (#^.^#)

それと顕微鏡をされる方に是非チェックしてもらいたいものがあります。

側シスチジアの写真である。
先端に突起がありとっても可愛い形をしているのだが、このシスチジアの中に何か内容物があるのがわかりますか?
KOHで染めるとこの内容物が黄金色になるんですよね、これを「クリソシスチジア」と言います。

このクリソシスチジアは主にモエギタケ科(スギタケ属やクリタケ属など)のキノコに見られるため、これを見つけた時点でモエギタケ科を疑う大切な同定ポイントなのですよね。

それでは次のヌメリクリタケを見てみましょう。

ヌメリクリタケ(Hypholoma subochraceum

ヌメリクリタケです。
傘がぬめっている感じが分かりますでしょうか?
それとこの写真を見るとモエギタケ科独特の柄の細かいささくれが分かりやすいですね。

それでは特徴を見てみましょう。

部位区分特徴
全体(子実体)ナラタケ型
0.5-3 cm
形状幼時は丸山形で縁部は下に巻くが、成熟するにつれて開いてやや中高の丸山形となる
表面平滑、弱い粘性がある
色彩中央部は橙褐色からベージュ色、縁部は中央部より淡色で黄土色から淡黄土色となる
被膜の破片傘の縁に被膜の破片が残る
ひだ色彩ベージュ色から橙褐色
組織的特徴直生から湾生、L(全ひだ数)=24-30、やや密、幅3 mm、分岐は見られず、全縁
小ひだ配置・数傘の周縁部に並び、規則的、l(小ひだ数)=3-7
サイズ20-80×3-5 mm
組織的特徴中心生、円柱形で基部はやや膨らむ、中空、軟骨質、繊維状
表面・色彩表面は白色で成長にともなって褐色を帯び、基部に向かうにつれて濃色になる。頂部は粉状
つば柄の上部に繊維状のつばが残るが、成熟につれて消失する
基部白色の粗毛に覆われる
肉(傘)色彩・風味ベージュ色から黄褐色、粉臭があり、強い苦味がある
化学反応UV(365 nm)ひだが明るい水色、柄が青色の蛍光を発する
担子胞子サイズ(4.4-)4.8-5.4(-6.2 )×(2 .6-)2.9-3.3(-3.8)µm(平均値±標準偏差5.1±0.3×3.1±0.2 µm)
係数(Q値)Q=1.6-1.8(平均値±標準偏差1.7±0.1、n=100)
形態・特徴楕円形から長楕円形、厚壁、平滑、淡黄色、発芽孔はみられない、非アミロイド
担子器サイズ(16.4-)19.5-24.3(26.0 )×(4 .0-)4.7-5.7(-6.0)µm(平均値±標準偏差21.9±2.4×5.2±0.5 µm、n=30)
特徴2胞子性または4胞子性、円筒形から棍棒形、基部クランプあり
小柄サイズ最長4 µm
側シスチジア密度・サイズ多数存在し、(27.5-)34.2-43.4(-46.8 )×(9 .1-)9.8–12.2(-15.1)µm(平均値±標準偏差 38.8±4.6×11.0± 1.2 µm、n=30)
形態・特徴便腹形から棍棒形で先端が突出する。5% KOH中で黄変し、屈折性の内容物を含む
縁シスチジアサイズ(31.6-)34.0–42.4(-51.3 )×(8 .6-)9.3-11.1(-12.5) µm(平均値±標準偏差 38.2±4.2×10.2±0.9 µm、n=30)
形態・特徴側シスチジアと同様の形態
傘表皮構造表皮上層と表皮下層の2層からなる
表皮上層粘性並列菌糸被で厚さ80-150 µm、菌糸は幅3-4 µm、クランプがあり、5% KOH中で黄色味を帯びる
表皮下層厚さ40-100 µmで、幅が6-12 µmの菌糸が平行に並ぶ
柄表皮構造菌糸は幅4-6 µm、平行に並び、クランプがある
柄シスチジア有無ない
ひだ実質構造菌糸は幅7-15 µm、やや錯綜する類並列型
発生生態時期・環境秋に、亜高山帯の林内針葉樹の切株や立ち枯れの根本に少数群生する

こうやって見ると、先ほどのコケノヒメクリタケと区別がつかないかも・・・と思ってしまいますよね。
まず見るところはコケノヒメクリタケの子実体が「クヌギタケ型」であるのに対して、このヌメリクリタケは「ナラタケ型」となっているのに注目。

ではちょっくら、この二つの「型」について並べて記載してみます。

比較項目クヌギタケ型(Mycenoid)ナラタケ型(Armillarioid)
全体的な印象小~中型。全体的に肉薄で華奢(きゃしゃ)、脆い中~大型。肉厚でがっしりとして頑丈
傘の形状(幼時)円錐形 〜 鐘形(釣鐘型)丸みのある山形(まんじゅう形)
傘の形状(成熟時)完全には開ききらず、中央が凸状に盛り上がる(中高)扁平から、やや中央が凹む、あるいはなだらかな山形
柄の太さと肉質細長い。軟骨質または繊維質で、折れやすい太くて頑丈。肉質またはしっかりとした繊維質
柄の内部構造基本的に中空(ストロー状に空洞)中実(芯が詰まっている)、または成熟後に一部空洞化
つば(内被膜)原則として無い(あっても極めて不鮮明で早期に消失)柄の上部に明瞭なつばが残ることが多い
生え方の傾向単生(ポツンと1本)または散生少数群生、または束生(株立ち状に群生)

完全にこの条件に当てはまる、、というわけではなく、属すのならどっち?という感じで見てもらったらいいのではないかと思いました。
僕の感想で言えば傘の形が円錐型がコケノヒメクリタケ、丸みのある山形がヌメリクリタケという感じかな?と考えています。

そしてヌメリクリタケもブラックライトを当てるとこの様に光りますね。
そしてここでも注目なのが、コケノヒメクリタケがヒダだけ緑色になるのに対して、このヌメリクリタケは柄が青色に蛍光します。
ここも重要なポイントですね!!
恐らく柄に含まれる物質が異なるのでしょうね、なかなか興味深い。

そして先ほどはモノクロ写真でしたが、今度はカラーです!!総天然色です!(#^.^#)

はい、そうです、これが黄金色に輝くクリソシスチジアです。
KOHで封入するとこの様な美しい黄金色のシスチジアがみれるんですね~素敵です。

コケノヒメクリタケとヌメリクリタケ

今回取り上げたこのコケノヒメクリタケとヌメリクリタケ、双方ともに亜高山帯の針葉樹があるような場所に発生します。ですので、日ごろ関西の低山帯を徘徊している僕にとってはなかなか縁のないキノコですが、今度長野遠征に行くときとか、北海道遠征に行く際に見つけてやろうと思います。

ただし、しっかりと特徴を頭に入れていかないと、LBMかぁ、、と思ってスルーしてしまうかもしれません(笑)

そういう時こそ、この記事に目を通す時ですよね!!(#^.^#)

『参考』

「日本新産となる2種のクリタケ属菌:Hypholoma polytrichi とH. subochraceum」
三浦 航志郎・升本宙
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/66/2/66_jjom.6-10/_pdf/-char/ja

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