【特別寄稿】アメリカのおもしろキノコカルチャーと私

江東区 ガイ ナット

(この記事は、「東京きのこ同好会」の2019年の会報に掲載されました。)

皆さん、初めまして。ナットと呼んでください。少し私自身について紹介します。去年の夏から妻と東京に住んでいますが、日本語を本格的に勉強し始めたのは、2000年代前半の大学時代からでした。アメリカ合衆国生まれで、バーボンウイスキー・競馬・民族音楽のブルーグラスで有名なケンタッキー州の出身です。日本人のほとんどは「ケンタッキー」と聞いてフライドチキンをイメージすると思いますが、我々ケンタッキー人にとっては、KFCは単なるファストフード店にすぎません。

大学時代には日本語と情報科学の勉強をし、卒業後は米国任天堂に就職しました(子供の頃からテレビゲームが好きな私は大喜びでした)。米国任天堂は、アメリカ西海岸北西部にあるワシントン州のシアトル市の近くにあります。シアトルは四方八方に深い常緑樹林と高い山脈に囲まれています。その山脈の影響で空を漂っていた雲が山を駆け上がり、街に雨をもたらしてくれます。秋から春にかけて霧雨が続くため、ジメジメとした気候になり、降水量、涼しい夏の気候、深い森林、肥沃な土などと合わさって、シアトルはキノコにとって最適な場所です。

2011年の秋、ある雨の日のこと。「建物の外の林に、かなりやばいキノコがある」と職場の同僚に言われました。しかし、その頃の私は野生キノコに対する知識がまだなく、シアトルの周辺で何度か野生キノコを見かけたことがあり、以前に一度だけ野生採食の授業を受けていて、マスタケとホコリタケの見分け方くらいは身に付けていた程度でした。それでも好奇心の誘惑に負けた私は、職場の野生キノコを調べに行きました。

そのキノコは、雨で湿っていたため触り心地が柔らかく、まるで茶色の椅子のようで、人生で見た中で一番大きなキノコでした。後で分かったことですが、それはヤマドリタケという種類のキノコで、写真からも分かるように、横に並べたアメリカの25セント硬貨 (日本の500円玉ほどの大きさ)が比較的に小さく見えます。でっかかった~!

インターネットで検索していると、ちょうどその夜シアトルの菌類学同好会「PSMS」が、月例会を開くことが分かり、鑑定のために採ったキノコを段ボールに入れ、そのまま月例会に持っていきました。着いてすぐにキノコ狩りのベテランの方達にたいそう驚かれました。人生で見た中で一番大きい巨大ヤマドリタケ(Boletus Edulis var. Grandedulis)だったそうです。後でキノコを切ってみるとウジたちにかなり食べられていたことが分かりましたが、綺麗な部分を切って乾燥させることができました。この経験がキノコを愛し始めるきっかけでした。

PSMS(Puget Sound Mycological Society、ピュージェット湾菌類学同好会)は、アメリカで一番大きいキノコ同好会の一つで、メンバー数は1200人を超えています。秋と春は観察会が多い他、料理教室、キノコからできた染料を使う洋服染料教室、鑑定会、ゲスト講演者が呼ばれる月例会、毎年の「野生キノコ展示会」など、多くのイベントを行っています。このように活動的なキノコ同好会が存在している一方で、実はほとんどのアメリカ人にとって野生キノコは怖い存在です。

食用のため、楽しみのためなどのキノコ狩りはヨーロッパでよくあるものの、アメリカ文化にはキノコ狩りがあまり定着していません。平均的なアメリカ人が知っているキノコは、日本で「マッシュルーム」として知られている、白くてぽっちゃりしたAgaricus bisporusぐらいです。白いマッシュルーム以外には、ポルトベロとクレミニというキノコも人気がありますが、どちらもマッシュルームと同じ種で、違うのは子実体の齢だけです。野生キノコになると、食べると死ぬ可能性が高いと考えていて、怖くて興味がない人が多いようです。また、野生キノコについての迷信や誤報がたくさんあります。「明るい色のキノコなら毒キノコだ」「白いキノコなら食べてもいい」「野生キノコに触ると危ない」(もっとも、カエンタケはアメリカには存在しない)など、根拠がないのに信じている人が多いようです。しかも、アメリカでは、野生キノコと言えば「マジックマッシュルーム」のイメージが強くて、食用キノコを狙ってキノコ狩りをする人は「まさかドラッグを探しているの?」と馬鹿にされることまであります。最近の高級スーパーでは、ヒラタケ、アミガサタケ、ヤマドリタケ、アンズタケなどを扱うようになってきましたが、いまだに高級食材のように扱われています。

アメリカ合衆国は広く(日本の25倍くらい!)、地域によって気候が大きく異なるため、生えるキノコも大きく異なります。太平洋岸北西部の森林で採れるキノコは、南部のメキシコとの国境にある砂漠で手に入るキノコと当然違います。その一方で、全国にわたって見かける野生キノコもあります。キノコ狩りの対象として一番人気があるのは、当然食用キノコです。アメリカで一番人気の野生の食用キノコを以下に記します(なお、以下のリストのキノコは、生のままで食べると毒があるものもあるため、鑑定が正しいことを確認した上でしっかりと火を通すこと)。

  • マスタケ (Laetiporus属) 。英:Chicken of the woods. 私の好物。肉っぽい食感があり、英語で「森の鶏」と呼ばれている。森の緑と茶色の中でマスタケのオレンジ色がかなり目立つ。お腹を壊す人もいるため要注意(生える木も関係があるという説もあり、オークが一番安全らしい)。
  • ヒラタケ (Pleurotus ostreatus)。英:Oyster mushroom.  パスタとよく合う美味しい肉があり、栽培しやすいためたまにアメリカのスーパーでも見かけることがある。形が牡蠣の殻に似ているため英語で「牡蠣のキノコ」という名前になっている。スギヒラタケも人気があり、日本と違って毒キノコとしてほとんど扱われていない。
  • アミガサタケ/モレル (Morchella属). 英:Morel. 濃い味で大人気。森林火災後の灰が入った土で生えやすいため、狙う人はよく前年の森林火災をリサーチしてキノコ狩りの場所を選んでいる。
  • アンズタケ (Cantharellus属)。英:Chanterelle. パスタで使われることが多く、ヨーロッパ料理のレストランのメニューでよく見かける。常緑樹の落ちた松葉の下で隠れることが多い。
  • ヤマドリタケ (Boletus edulis)。英:Porcini. これもまたヨーロッパ料理の人気メニュー。パスタとスープで使われることが多い。
  • 舞茸 (Grifola frondosa)。英:Hen of the woods. 鳥の羽に似ているため英語で「森のめんどり」と呼ばれる。アジアだけではなく、アメリカにも自生している。
  • シロカノシタ (Hydnum repandum)。英:Hedgehog mushroom. 傘の裏面の針で英語で「ハリネズミのキノコ」と呼ばれている。
  • ロブスターマッシュルーム (Hypomyces lactifluorum)。英:Lobster mushroom. 若干珍しいが濃い味で人気あり。赤くて森の中で目立ちやすい。英語の名前は、イセエビの色に似ているのが由来。
  • ナラタケ (Armillaria mellea)。英:Honey mushroom. いたる所に生えて採りやすい。個人的には美味しいと思わないが…
  • オニフスベ、ホコリタケ (Calvatia、Lycoperdon属など)。英:Puffball mushroom. 草原などでよく見かける。

アメリカでキノコを使ったレシピは山ほどありますが、よくあるのが、リゾット、スープ、パスタのクリームソースなどです。その他、チチタケ属のLactarius rubidusを使ったクッキーとアイスや、パン粉・チーズ・ハーブの入ったマッシュルームの笠焼きなどがあります。

ほとんどのアメリカ人はマッシュルーム以外のキノコを知っていても、学名ではなく(日本語の和名に当たる)英語の俗名しか知りません。この中から、面白い名前のものを挙げます:

  • 和名:ホウキタケ(Ramaria属)。英:Coral mushroom (サンゴタケ)。
  • 和名:カワラタケ(Trametes versicolor)。英:Turkey tail (七面鳥の尻尾)。
  • 和名:ドクツルタケ (Amanita ocreata)。英:Destroying angel (破壊する天使)。
  • 和名:ヒイロチャワンタケ (Aleuria aurantia)。英:Orange peel fungus (オレンジの皮菌類)。
  • 和名:シバフタケ (Marasmius oreades)。英:Fairy ring mushroom (妖精の輪キノコ)。妖精が輪の形で踊るから輪の形で生えてくるという迷信から。
  • 和名:コフキサルノコシカケ (Ganoderma applanatum)。英:Artist’s conk (芸術家のサルノコシカケ)。子実層に絵を描けることから。

俗名は事実と矛盾していたり曖昧だったりするため、キノコのオタクや専門家は混乱を避けるために学名で呼ぶことが多いです。キノコの学名を覚えると、キノコを愛する海外の仲間とのコミュニケーションがより楽になります。

私が日本に引っ越してきたときにびっくりしたことは、多くの日本のキノコ図鑑には、学名が全然載っていないことです! アメリカでは学名のないキノコ図鑑なんて有りえません。

英語でキノコについて話し合うときに、以下の言葉も役立ちます:

  • 胞子:spore (胞子紋:spore print)
  • 柄:stem, stipe
  • ひだ:gills, lamellae
  • つば:ring, annulus
  • つぼ:volva
  • 子実体:fruiting body
  • 内被膜:partial veil
  • 外被膜:universal veil
  • 傘:cap, pileus
  • 孔口:pores
  • 菌糸体:mycelium
  • 菌類学:mycology
  • 担子菌門:Basidiomycota
  • 子嚢菌門:Ascomycota
  • サルノコシカケ:bracket fungus
  • イグチ科:boletes
  • 多孔菌:polypores
  • キノコ狩り:mushroom hunting
  • 観察会:mushroom foray
  • キノコ同好会:mushroom club

アメリカでのキノコ狩りについてもっと勉強したい方には、All That the Rain Promises and More: A Hip Pocket Guide to Western Mushroomsという図鑑を強くお勧めします。1991年に出版され、今でもアメリカで一番ポピュラーな図鑑です。また、世界的モレル専門家マイケル・クオが運営するウェブサイトwww.mushroomexpert.com は専門知識を得るのに素晴らしい資料です。内容は当然英語だけなのですが、挑戦して読んでみては?

様々なキノコが店で手に入り、キノコ狩りに深い文化や歴史がある日本に引っ越してきた私はとても幸せです。次回の観察会でお会いしましょう。

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