毒キノコ事件簿 その9

クロハツとニセクロハツ

※上記のニセクロハツはニセクロハツと異なる、とご指摘をいただきました。
※ニセクロハツのヒダはこの様に赤っぽくならない様です

僕が神戸キノコ観察会に参加して間もない頃、クロハツ、ニセクロハツの見分け方の説明をしてもらったことを覚えている。

いくつか特徴の違いを教えてもらったのだが、その中でも唯一覚えていたのがこれ

クロハツはヒダがかなり疎
ニセクロハツはちょっと疎

であった。
説明ではクロハツは食べることが出来るが(※現在は毒扱いになっております)、ニセクロハツは致死毒をもっている、とのことでした。

サンプルとして採取したキノコはクロハツとニセクロハツがあり、そのヒダを比較し「かなり疎」なのか「ちょっと疎」なのかはまったく判断できなかったが(上の写真がそうであります)、何よりその黒い姿を「食べよう」という気などまったくわかないなぁ、、というのは僕の第一印象なのでした。

ただ、僕の「食べようという気にならない」という印象は他の一般人も同じらしく、ニセクロハツによる食中毒はキノコをやり始めてからまったく聞いたことがありませんでした。
この写真も公園で撮影した写真なので、一般の人でも目につくようなところには発生しています。しかし同じく公園に発生するオオシロカラカサタケの様に「食べて食中毒になった」という話は聞いたことがないのは、やはり「美味しそうじゃない」という人間の本能の賜物なのだと思うのですな。

ニセクロハツを食べた男性が死亡(三重県桑名市)

クロハツの仲間

今年の9月17日ニセクロハツを食べた男性が食中毒となり、そして死亡したというニュースが流れた。

死亡された男性には心から冥福をお祈りします。
 
しかしその男性の何故ニセクロハツを食べたのか?

ここで記事を少し引用したいと思います。

三重県は17日、同県桑名市の男性(75)が、ニセクロハツとみられる毒キノコを食べて食中毒を起こし、同日になって死亡した、と発表した。
食品安全課によると、男性は10日、夕食で自分で採ったキノコを自宅で鍋の具材として煮て食べた。11日に下痢や嘔吐(おうと)などの症状が現れ、同日夜には首から肩にかけて痛みを訴えた。桑名市内の病院に入院後、呼吸困難になり症状が悪化したため、愛知県内の病院に転院。意識不明の状態が続いていた。男性は症状が出た時点で、「食用のクロハツと思って食べた」と話していたという。

https://www.asahi.com/articles/ASL9L34LTL9LONFB002.html

この記事の中で一つ誤りがある。
とっても大切なので強調しておくと「食用のクロハツ」というのは今や誤りで外国では既に「有毒キノコ」として扱われており、「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)でも有毒とされている。

なのでクロハツ自体も今や有毒なのである。

これは広く告知しておかなければならないし、、何よりニセクロハツとの区別があまりにも難しすぎるので、やはり食べるべきではないことだけは強調しておく。

おそらくこの男性はクロハツの存在を知っていたのでしょう。
そしてもちろんそれが「可食」であったことも。

そして、過去に食べたことがあるクロハツをたまたま見つけ、あぁクロハツだと思って持って帰ってたまたま今日作る予定だった鍋に入れて食べた、という経緯なのだろうと思われる。
たまたまに、たまたまが重なった痛ましい事故であると言える。

症状的には・・・

食後5~20分ほどで嘔吐、下痢、瞳孔縮小、背中の痛み、血尿、意識 不明などの症状が出て、2日後くらいに死亡することが多いようです。

「京もキノコ!一期一会」(高山栄)

このニセクロハツ、、死に至るキノコである。

例えば椎茸とよく間違えて食べられるツキヨタケなどは、死に至る、というのはあまり聞いたことがない。
食中毒、と言ってもさまざまなので、毒キノコと一口に言っても症状はほんと様々なのである、、、が、このニセクロハツは「死に至る」キノコであることは間違いない。

その上この食用のクロハツでもパサパサしていてさほど美味しいキノコでもないらしい。

つまりは美味しくも無いし、かなりリスキーでもあるクロハツはほぼ食べる価値はゼロ、と言って良いのだ。

 

クロハツとニセクロハツの違いを整理してみよう

クロハツの仲間

ではではクロハツも「毒」であることを踏まえた上でクロハツとニセクロハツの違いを比べてみます。
※「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)より

クロハツ(Russula nigricans (Bull.) Fr.)

  • 傘は径8~15cm
  • 中央のくぼんだまんじゅう形から平らに開き、さらに浅いじょうご形となる
  • 表面は平潟で初め汚白色であるが、しだいに陰褐色からほとんど黒色になる
  • ヒダは厚くて幅広く疎、最初白色、古くなると黒色になる
  • 柄は3~8cm × 10~30mm
  • かたくて太短く、表面の色は傘と同様
  • 肉は白いが、切断すると赤くなりついには黒く変わる
  • 夏~秋、クヌギ・コナラ・シイ・ブナなどの広葉樹林や、トウヒ・モミなどの針葉樹林内地上に群生~散生

 

ニセクロハツ(Russula subnigricans Hongo)

  • 傘は径5~12cm
  • 生長すればじょうご形となり、表面はややビロード状
  • 暗灰褐色~黒褐色
  • ヒダは厚くて疎
  • クリーム色で傷つくと赤変する
  • 柄は傘より淡色~ほぼ同色
  • 肉は白色
  • 傷つくとゆっくり赤みを帯びるが黒変しない(かなり時間がたてば多少灰色がかることがある)
  • 夏~秋、シイ・カシ林に発生

こうやって字面だけ読んでみるとあまり違いは感じられない。
むしろ「どこが違うのだ!」という感じ(笑)

なので違いだけ列挙するとニセクロハツは

  • クロハツに比べて少し小型
  • 全体的に赤みを帯びている
  • ヒダはちょっとだけ疎じゃない
  • 傷つけると赤変はするが黒変しない(ここが最大の違い)

って感じだろうか。

ヒダ

ここまで書いていくと、よくもまぁ「クロハツを食べる」というリスキーなことが出来るなぁ、、とつくづく思う。黄色いテングタケの仲間も食べるのは僕的にはやめといたほうがいいと思っているのだが、このクロハツなどはそれを遥かに超えて「絶対食べるべきではない」と思う種である。

ましてや今やクロハツ自体も「毒」となっているわけで、もうこれは「死ぬつもりならお食べなさい」というレベル。そう言えば図鑑上では毒認定されているスギヒラタケ、今でも道の駅などで売られているところがあるらしい。たぶん事情を知らない「キノコ名人」と言われている人が自分の経験だけを元に採ってきてそこで売られているのだろう。

恐ろしい話ではある。

【追記】
今回の事情を聞いたところによると、、、
「中毒された方はもともと三重県在住ではなく、以前は北陸地方にお住まいの方だったようです。そして、向こう(北陸)ではクロハツと思われるものを食べていたようです。だから、にわかで食い気に走ったのではなく、もともとの食文化としてきのこを食べていたようです。ところが、真のニセクロハツは東海地域よりも東には存在していないようで、北陸にはありません。だから、ニセクロハツを誤食する可能性がなかったと思われます。ところが、三重県に移られて、ほんとにニセクロハツに当たってしまったと思われます。」
とのことでした。
御本人の名誉のために追記しておきます。

 

Facebook コメント

Follow me!

コメントを残す