あなたの知らない培養の世界

ヤグラタケ Asterophora lycoperdoides

Let`s きのこの培養

さぁ、分離培養の季節になりました!

今さらなんですが、きのこって、この時期の嫌われ者 ”カビ” と同じ仲間なんです、
だから公園で見つけたキノコも、ちょろっとその組織をとって、培地に植えてやれば、カビと同じようなフワフワとした菌糸が伸びてくる、これけっこうハマります。

ちなみに、すべてのきのこが分離培養*1 出来るかというとというとそうではありません・・
特に、ベニタケ属やテングタケ属などの菌根菌の多くは、分離培養が怖ろしく困難!!
でも、腐朽菌といわれる仲間は比較的簡単だと思いますw ぜひ、挑戦してみてみて!

さて、用意するのは、滅菌した培地・・オートクレーブっていう高圧滅菌器(高圧蒸気滅菌器を使って滅菌するのですが、原理は圧力鍋と同じ!2気圧120度まで温度を上げることが出来れば、だいたい20分くらいで滅菌できるはずです、もしそこまで温度が上がらなければ時間を長くしてみてw

わたしが使ってる分離道具

分離で大事なのは、すべて無菌的に行うこと
なぜなら、ちょっとでも油断するとカビやバクテリアが混入してきちゃうから・・!そうなるともうだめ~!

なぜかというと、きのこの菌は、カビに比べて成長がめちゃ遅い・・だから、きのこの菌糸だけを取り出すことが出来なくなるからです。
アオカビの仲間やバクテリアと比べるとその増殖時間はその半分以下のといわれてます。

カビちゃんにバクテリアにもりもり満載!!

きのこもカビもバクテリアもみんな単糖類であるグルコースが大好きなんですが、きのこには*2セルロース分解を行うセルナーゼやβグルコシターゼを作る能力をもっているため、あんまりガツガツする必要もなく、まったりと生きていけるのかもしれません。

コンタミ例の写真をアップしますね~!

もちろん、使う器具はみんな火炎滅菌します、机もなにもかもアルコールで消毒して息を止めて・・
めちゃ慎重に分離したつもりでも、やっぱりどこかからカビやバクテリアが侵入してきます・・

まぁ、でもその分、成功したときの喜びは格別なのだ!

きのこの菌糸って、ただのモフモフ菌糸だけじゃないんだよ

ヤグラタケの培養菌糸 菌糸束を作ってる!

さて、もしかして菌糸ってカビみたいにモフモフした綿っぽいものだけ、なんて思ってませんか?
実は、けっこういろんなバリエーションがあるんですねぇ~・・!

まず目にするのが、そのモフモフした綿っぽい菌糸、これ気中菌糸っていいます、いうなれば新しい付着点を求めて探索する先行部隊っていったところかな?
実は、培地の中に潜っている基底菌糸っていうものがあって、こいつが培地の栄養を吸収してこの気中菌糸にせっせと送っているんです。同じように見えて別の分化を持った菌糸なんですね~!

それ以外にもこの写真にあるように菌糸束を作ったりします。これはけっこう複雑な構造を持っています。ナラタケは、まるで樹木の根のような根状菌糸束っていうものを作ったりします。どんな時にこの菌糸束を作るのか?という研究はけっこう行われていて、栄養分の欠乏で作る種、菌糸束を作るための必須栄養が揃うと分化する種、などいろいろあります。

ヤグラタケの厚壁胞子

それだけじゃないですよ~!

写真はヤグラタケの厚壁胞子です。ヤグラタケを見つけるとココアパウダーみたいな茶色い粉が降り積もっているのを見たことがあるでしょう? それです!
培養菌糸にもそれと同じ厚壁胞子を作るんですね~!

きのこって有性生殖だけでなく、無性生殖も併せ持つ種がほとんどなので、培養しているとこんな厚壁胞子や分生子を見つけたりすることが出来たり、いろんな発見や驚きがいっぱいです。

これぞ、野生のきのこだけではわからない、知ることも出来ないきのこの魅力!!

培養って面白いでしょう!
培養してみたくなったでしょ!

ちょっとお恥ずかしいんですが、千葉菌類談話会の会報に培養のことについて詳しく書いてます・・

http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou33/p34-37baichitokinshi.pdf

ちょっと解説・・

*1 分離培養・・

きのこの組織の一部もしくは胞子を滅菌した寒天培地に植え付けて、そのきのこ菌糸を取り出すことを分離っていいます、そして、その菌糸を培地で育てることを培養っていいます。これらは、一連の流れなので、分離培養ってなるわけですな

*2
すべてのきのこがセルロース分解能を持っている。きのこ以外の真菌類、バクテリアなどの微生物も分解能を持っている種もあるが、多くない。

もっと詳しく知りたくなったら・・

きのこの生態についてはやっぱこの本が一番!!!!!

きのこの培養について、わたしはまず最初にこれ読みました。

Facebook コメント

Follow me!

あなたの知らない培養の世界” に対して5件のコメントがあります。

  1. より:

    現在、高校3年生で卒業研究で「きくらげ」について調べています。この記事の他にもみたんですけど、胞子で培養をするのと組織で培養をするのってどちらの方がしやすいですか?あと、アドバイスや他にも気をつけておいた方がいい事ってなにかありますか?

    1. ハヤシ より:

      コメントをいただいてありがとうございます!記事を書いたハヤシです!!
      きくらげ、わたしもちょうど3日前に分離しました!胞子を落下させてやろうか、組織からやろうか?と悩みましたが、組織からにしました、理由は、「わたしは、組織のほうがやりやすいから!」
      でも、単相の菌糸(monokaryon)を手に入れたいときなどは、落下胞子でないと無理なので、両方ともワザを身に着けておいたほうがいいと思います。
      なぁ~んていってますが、わたしもまだ修行中で、ぜんぜん上手でないし、間違いも多いです、ここは専門家の先生からもアドバイスをいただけたら、と思います!!
      先生、よろしくお願いします!

    2. 根田 より:

      コメントを入れましたが、菌株分離のポイントは、「イキの良い子実体を使う」、「雑菌が入り込まないようにする」
      この2つです。
      あと、きのこの種類によって、分離できる種類、できない種類があります。
      木材腐朽菌は簡単なものが多いのですが、菌根菌は難しいものが多い。また、どういうわけか分離できない(培地上で伸びない)種類もあります。
      ご成功を祈っています。

  2. 根田 より:

    こんにちは。根田と申します。
    キクラゲの菌株分離ですが、3つの方法があります。

    1. 組織 まず、子実体を裂きます。中の外気に触れていない部分から小片を滅菌したメス等で切り取って、培地の上に移します。植物ならば、挿木に相当します。
    長所は、分離した元の子実体と同じものが得られます。
    短所は、小さい子実体、薄い子実体の場合、中の組織を無菌的に取り出すのが難しい。また、子実体の内部にまで、他のカビやバクテリアが入り込んでいる場合も難しい。
    キクラゲの場合は子実体が薄いので、子実体組織から分離することは難しいかもしれません。

    2. 胞子
    2-1 多胞子分離 子実体を寒天培地の上に、胞子が作られる面を下にして、培地から離して数時間置き、その後、落ちた胞子をかき取って、別の培地に移します。胞子を落とすのは、寒天培地ではなく、滅菌したアルミ箔などでもOKです。
    2-1 単胞子分離 上記の方法で落とした胞子の中から顕微鏡で1つの胞子を拾って、別の培地に移す方法と、アルミ箔の上に落とした胞子を滅菌水に溶かし、それを希釈して寒天培地にまく方法がります。
    長所 小型や薄い子実体からでも菌株を分離できます。
    短所 胞子は親の子実体とは、遺伝的に別のものになります。

    3. 腐朽材
    キクラゲのような木材腐朽菌は、その菌が生育している材から菌株分離することができます。
    長所 比較的やさしい。
    短所 目的の菌が独占的に生育している腐朽材の必要があります。他の菌も伸びている材では、どの菌を分離したのかわからないかもしれません。

    ↑ 文章では、なかなか分かりにくいと思います。紹介されている本で勉強してください。

  3. より:

    丁寧なアドバイスをありがとうございます!
    期末テストが間に入ったのでお返事をするのが、遅くなりました。実践してみます!!

コメントを残す